平成24年度 特別支援教育研究会【第1回】

特別支援教育研究会(第1回)

内容: 「 障がい理解と教育の手立て   ~特別支援教育のありかた~ 」
講師: 立命館大学 朝野浩先生
日時: 平成24年5月23日(水)
場所: こどもみらい館
参加人数:  
報告者: 光華幼稚園 松野 千早

【講演まとめ】

●特別支援教育

特別支援教育は、以前、「特殊教育」という名称であった。現代、障がいの程度の状態が多岐にわたるようになってきた。障がいのある人が私たちと同じような生活ができる「ノーマライゼーション」の見地から、「障害者権利条約」に多くの国が賛同した。障がいがあることで、教育を受ける権利が損なわれてはならないという意味合いから、以前は「特殊教育」という「場」を提供する教育であったものが、ニーズに合わせて特別な手立てをもって行う教育という意味で「特別支援教育」と位置付けられるようになった。

朝野先生は幼稚園を巡回訪問されている。その中で感じるのは子どもに寄り添う姿勢の大切さ。園によって「障がい」に対するとらえ方が違う。真剣に取り組むと、園の雰囲気が変容する。教育というのは保育者が考えたことでも学ぶ主体があってこそ意味を持つものだということを忘れずに、子どもに寄り添った理解をしていかなくてはならない。

障がいのある子どもを担任する際、「子どもと毎日の生活を楽しむこと」「子どもの成長が保護者とともによろこびあえること」「クラスの様子を積極的に発信できること」「困ったときには相談できること」「得意分野を生かすこと」「個別の指導計画をもとに保育すること」が大切である。「子どもの特性」や「通園時の様子」「家庭での過ごし方」を理解することは必要であるが、最初からできなくてもいい。これらのことに「気付いていけばいいことなんだ。」と思えることが大事。保護者との信頼関係が築けていないと、困りごとは伝えにくいもの。まず、子どもの課題に一緒に向かっていける関係つくりを目指したい。

障がいに対する、理解を深めることも保育者にとって必要なこと。障がいは「発達遅滞」、「肢体不自由」、「自閉症」、「発達障害」とあるが、「発達障害」には、「学習障がい」、「注意欠陥多動性障がい」、「高機能自閉症」、「アスペルガー」の4つがある。しかし、「発達障害だからこんな姿」とは言えない。だからここで、「インシデントスタディ」が必要となる。専門家がいなくても解決していく能力を身に着けていくことになる。

私たちは「障がい」を理解しなくてはならない。健康状態はかわりうるものであり、アクシデントにいつ出会うかもわからない。障がいとはいつでもだれにでも、起こりうるものである。ハンディキャップがあることで制限される状態をなくしていき、生活上の困難を軽減していこうという姿勢で考えていきたい。障がいを持つ人のいる環境(場所・関わる人)が大切。障がいは環境によって生まれるからだ。学習上、生活上の困難があっても、「困り」を克服することは可能である。それを実践するのが「特別支援教育」なのである。「ノーマライゼーション」が実現されている環境は、障害のない人にとっても恵まれた環境である。障がいのある人のための工夫は、誰にとっても助かるものである。誰しも「老い」に近づいていることを忘れてはならない。

●インシデントスタディ

特別支援においては、実態把握が必要である。「5W1H」つまり、いつ、どこで、だれが、何を、だれと、どのようにしていたかを記録していくことで子どものことを知ることができる。障がいを持っている子どもも、その保護者も不安でいっぱいだが保育への期待も持っている。だからこそ、その子と関わる第一歩はメモを取り、その子の理解に努めることである。

具体的には、まず資料を収集しなくてはならない。通園施設や療育施設、医療・福祉関係機関からの資料、保護者からの聞き取り資料、日常観察などからおおよその見当をつけて、指導計画を仮に策定する。適切な保育や指導と必要な支援を行うためには対象となる子どもの発達や障がいの状況を情報収集の上、実態把握し、必要な支援の発見を目指していく。

子どもに関する情報を多角的に収集し、各カテゴリーに分類のうえ内容を分析すると、対象の子どもの指導課題が明確になる。

インシデントとは、「小さな出来事」の意味。発端とされる小さな出来事のみが提示されるであるが、その掲示に対して、インシデントスタディの参加者から質問され、それに答えていくうちに、その子の「背景」「原因」「分析」「収集」「対策」が考えられていくという事例研究法である。このケーススタディに参加する中で、問題発見能力、問題分析能力、意思決定能力が培われていく。だからこそ、グループでやっていくことが大切。

インシデントプロセス法をとるメリットの一つとして、「事例提供の資料が短くて済むので、負担が少ない」という点がある。参加者の積極的な質問とそれに対する返答が不可欠であるが、どちらも事例に関して行われるので双方ともに心理的に楽に参加できる。

インシデントスタディのステップとして、次の5段階がある。

  1. インシデントの掲示をすること
  2. 事実、情報の収集をすること
  3. 解決する問題点は何か探ること
  4. 解決策の立案と理由をまとめること
  5. まとめと自己確認をすること

だから、手立てやスキルを習得するためにも、エピソードはわかりやすく記述しなくてはならない。

実態把握は、「健康、安全、身体面」「認知、学力、スキル面」「社会性、地域生活、労働面」などを観点にして行わなくてはならない。子どもの捉え方の視点としても「こんなことはできて、こんなことはできない」「どんな時はできて、どんな時はできない」など、今後の指導のポイントになることを集めるということが不可欠である。子どもがつまづいている領域や課題を見つけ、その要因を推定しなくてはならない。そして、どこまで習得しているのかを把握し、課題を遂行している様子を把握できるようになると、保護者も信頼を寄せるようになる。

本人、保護者のニーズをどれだけ把握できるかが問題解決の鍵である。

【デモまとめ】

●デモグループによるグループ討議

<事例1>

4歳児 男児 Yくん

朝礼、歌の時間に姿勢が保てない
友達と汗をかいて遊び、食事前に手洗いうがいをするように促すと、嫌がって走り回り逃げる。
手洗いうがいをさせるため、「バイキンがお腹に入るよ」と言葉をかけると、「バイキンいや!」と言う。
Yくんにとって怖い印象のある「バイキン」という言葉をかけることが、ふさわしい事がどうか悩んでいる。

■Yくんは、ご飯を食べることが好きですか?

はい、とても好きです

■Yくんが嫌がるのは、うがいと手洗いだけですか?

他にも、絵画や歌を嫌がることがあり、「1回だけしよう」と誘うとすることがあります

■1日に何度か手洗いの場面はありますか?

食事以外でも、のりで手が汚れた時などは進んで洗います

■手洗いなど、活動と活動の間の時間、または次の活動に移る時間に嫌がることがありますか?

帰る用意などをする時に援助したり手伝ったりすることがあります

■もし、そこで先生が関わらなかったらどんな行動をとりますか?

しばらく様子を見ると、床に寝転んだりして過ごしています

■水の感触やのりの感触を嫌がるのでは?

プールなど水の感触は特に嫌がることはありません

■混雑した場面が苦手なのではないですか?

Yくんだけ先に手を洗わせるなど混雑を避けてみては?

■今後は、混雑を避けて手を洗うことが出来るように対応します。
 また、手洗い、うがいの手順を絵カードの表示を用いて対応するなどしてみます

♢朝野先生より

  • 絵カードを用いて対応していることから、自閉症ではないかという視点がもてる
  • 1対1の対応の中で、担任の口頭での指示で行動出来ているということはマッチングしているということ
  • 手洗いの時間が問題なのか 洗い場の状況が問題なのか
  • Yくん以外にも他にも手を洗わない子がいるのかどうかが大事
  • Yくんだけに声をかけているのはどうしてか 疑問をもつことが大事

Y君への今後の対応は…

  • Y君に、他の子よりも先に「一緒に手を洗おう」と誘い、混雑を避けてみる
  • 「手洗い」「うがい」の手順をカードで表示する
  • 本人に、どの順番でするのか選択させる、または聞いてみる

<事例2>

3歳児 担任1人 補助教員1人

4月入園式、母から離れず翌日からバスに乗って登園する。
その後、泣かずにバスに乗るようになったが、園に着き、バスを降りると激しく泣く。
バスから手を引いて部屋へ行くが、手を握ったまま1日過ごす。
食事は、口に運ぶと食べる
補助教員の手を握りながら、友達がするコップの用意を見ている(少し興味を持つ)
担任や補助教員から少し離れる事が出来るようになるが、離れると慌てて手をつなぐ
GW明け、笑顔が見られるようになった
喃語、一人で思いついた言葉を発する
担任との関わりに抵抗がある
バスに乗り、帰る時は担任とも手をつなぐ 一人でもバスに乗れるようになった

担任と補助教員が入れ替わり、帰りの時間を過ごすこともあった。担任が補助教員の代わりにその子の傍につくと、「もう無理」と言う。補助教員といる方が安心するようだ 
今後、どのように関わっていくか悩んでいる

♢朝野先生より

事例から考える事

  1. 子どもの困りは何か?
  2. どこで何をどう評価したのか?
  3. 入園式は母子分離できず、その後は努力している そこをどう見るか?