巻頭言

本 物 の 新 制 度

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
総務担当副理事長 藤本明弘

 新制度が始まり半年が経過しました。この制度を総合的に判断するには今しばらくの時間が必要です。とは言え各幼稚園はこの間何もしなくてよいという訳ではなく、様々な視点から自園の歩む道を模索する必要があることは言うまでもありません。

 しかしながらこの状況の中ではっきりとした将来像を描くことは困難を極めます。だからこそ先ずは自園を冷静に分析し、地域や保護者から何を求められているのか。願う子どもの育ちの具体的な姿とその理由は何なのか。などなど挙げ出すときりがありませんが、突き詰めると「私立幼稚園としてこれから何を大切にし、何を切り捨てるのか。」というところに集約されるのかもしれません。

 私学としての独自性は守り抜くべき。子どもの育ちを何よりも重視すべき。我が子の側にいたいという保護者の思いに寄り添うべき…。こういった思いを持った先生方がいる一方で、理想だけでなくまずは安定した経営基盤を作ることが重要。3歳まで待っていたら地域に子どもが残っていない。受け入れ年齢の枠や保育時間を広げないとどうしようもない。母親が働くことが今後ますます加速する現実に目を向けるべき…。こういった考えを持つ先生方もおられることでしょう。

 このどちらが正解で片方が間違っているという単純な話ではなく、更に地域の中には行政があり、保育所も存在しているという現実があります。それだけに益々出口が見えづらくなっていることは間違いないでしょうが、保育所ですら定員割れしている地域は別として、今の時点で特に幼保連携型や小規模保育事業に乗り出すことは、今までの自由観あふれる私立幼稚園とは一線を画す施設となり、異なる価値観を持つ保護者が入ることは覚悟すべきであると感じます。

 その理由は言うまでもないことですが、これらは完全な福祉行政の中で義務的にサービスとして実施される事業であり、実施するのは園ですが主体はあくまでも行政であるということです。つまり開所日数や時間の決定権はもちろんのこと、入園決定に関しても保護ではなくあくまでも福祉事務所が決定権を持っています。

 この状況の中で多くの幼稚園が新制度に参入することは、私立幼稚園の持つ主体的で自由観あふれる魅力的で豊かな環境や、家庭との信頼関係に大きな歪を産み出すことにつながることは残念ながら否定できません。保育サービスの傘下に入る幼稚園が多くなれば多くなるほど、子どもの側に寄り添った私たちの声は行政には届かなくなるでしょう。

 働き方の見直しをせずに親子を引き離してばかりの肩代わり支援ではなく、親子がともに育ちあう本当の「子育ての支援」を組織として訴えることができるのはもはや京都だけです。care(福祉施策)からeducation(幼児教育施策)への転換。これが世界の先進諸国の潮流です。本物の新制度の確立は一人一人が責任を負っているのです。