巻頭言

待機児童現象 ~自立した日本の未来のために~

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 藤本 明弘

 待機児童の問題が連日のようにマスコミで取り上げられています。当初の国の予測では平成29年度をピークに待機児童は解消する見込みでしたが、今のところとどまる気配すらありません。京都府内でも待機児童解消のために保育所を新設したり、定員増を図ったり、小規模保育所を新設したりする市町村も少なくありません。そのような中、私たち私立幼稚園も預かり保育の拡充などにより一定の役割を担っていく責任を自覚する必要があることは言うまでもありません。

 しかしながら受け皿の拡大に伴い、保育士の確保が困難さを極めています。各地で保育士の処遇改善の施策が進められていますが、それにもかかわらず保育士不足はもはや都会だけではとどまらず、全国的な広がりをみせ深刻化しています。首都圏の保育所や全国展開をしている大手の事業所の中には、北海道から沖縄までの全国津々浦々の養成校を対象として、猛烈な求人活動を展開している法人もあるようです。

 保育サービスは受け皿や補助制度が整備・充実すればするほど、それならば我が子も小さい年齢から長時間預かってもらいたいという家庭が必要以上に増えるのは当たり前のことで、低年齢からの需要はますます高まるばかりです。言い換えれば保育サービスの整備・充実は、潜在ニーズを同時に次々と掘り起こしているのです。また、小規模保育所を増設する対応策は、差し当たっての急場しのぎにはなるものの、3歳からの受け皿が急激に不足する問題も同時に産み出しています。

 このようにますます出口の見えないスパイラルに入り込んでしまうのは、待機児童に対する施策が対処療法であり、後追い策であるからです。保育士の処遇改善も大切ですが、本当に処遇が改善されるべきなのは、子どもとその保護者ではないでしょうか。

 そして何よりの問題点は待機児童は問題ではなく、現象であるということです。本当に本気で取り組むべきは、待機児童現象を産み出している根源を解消する施策であり、この事実に対する国民的コンセンサスです。
具体的には待機児童現象の解決方法を保育の量の拡充に頼りすぎているのが現状施策です。そのために待機児童現象を保育現場で吸収するべく行政は動いていますが、問題の根源は受け皿の不足だけではありません。

 そもそも待機児童が生まれないようにするための施策が決定的に不十分です。幼い子どもをもつ保護者の働き方を抜本的に解決することが何よりも必要であり、そのために企業・事業所の協力や理解を得て短時間労働が実現しない限り、待機児童現象は解消しません。つまり量の拡充ばかりに多額の税金を使うのではなく、幼い子どもを持つ保護者や子育てに協力する企業・事業所に補助金を打つべきです。

 その上で保育サービスは、本当に保育を必要とする家庭に手厚く施されるべきで、いたずらに潜在ニーズを掘り起こすことは、「自立した子育て」の大きな妨げになります。子育てを依存するばかりでなく、悩み迷いながらも自立した意識の中で行うからこそ、子どもも親も主体的な人に育っていくのです。社会の中で自分の力で自分なりの幸せを見つけていける人は自立した人に他なりません。

 日本の未来を担っていく子どもが、喜びと誇りを持って大人たちからバトンを主体的に受け取れるか否か、まさに大きな転機を迎えているのではないでしょうか。私立幼稚園は子どもの立場から社会発信できる最後の砦なのです。