新連載

【新連載】3回シリーズ(3)

「大好きな歌」

佛教大学 教育学部 講師  臼井 奈緒

 人それぞれ、自分にとって“特別な歌”や“大好きな歌”というものがあるでしょう。私は長年歌うことを専門的に学び、学んだことを今、教員として還元している最中ですが、今回はその中で私にとって特別な一曲をご紹介したいと思います。職業柄、おそらく普通の人より多くの曲を知っている方だとは思うのですが、この曲を私に教えてくれたのは教え子のたみちゃんでした。たみちゃんは卒業間近のお別れが迫った最後の授業で「先生、これ私の大好きな歌やねん。先生、歌って!」と私に楽譜をくれたのです。その歌は「先生」という歌でした。

 たった8 小節のささやかな歌なのですが、歌い始めた途端、胸が熱くなり、涙が溢れそうになりました。
それから何度もこの歌を歌ってきましたが、歌う度にこみあげる涙をこらえるのが大変なのです。作詞・作曲をされたのは、保育・教育の世界ではとても有名な“ゆずりん”こと、中山譲さんです。8 番までの歌詞に「先生」という仕事の尊さや指標が凝縮されています。ここで歌詞をご紹介させていただこうと思います。

1:子どものことを 好きなだけではだめだけど 子どものことを好きでなければ先生にはなれない
2:いつも ニコニコしてるだけではだめだけど 心を許し 笑えなければ 先生にはなれない
3:情熱ひとすじ 向かうだけではだめだけど きらめく情熱 持てなければ 先生にはなれない
4:思った事を 話すだけではだめだけど 思いを言葉にできなければ 先生にはなれない
5:子どものそばを 歩くだけではだめだけど よりそい共に歩けなければ 先生にはなれない
6:子どもを守り かばうだけではだめだけど 子どもの生命 守れなければ 先生にはなれない
7:信じた道を 進むのはつらいことでも 仲間と夢を信じなければ 先生にはなれない
8:子どものことを 好きなだけではだめだけど 子どもを愛するあなただから 先生と呼びたい

 本来、私が歌を教える立場なのですが、この「先生」は私にとって、子どもが教えてくれた宝物の歌です。
この歌はその内容的に、子どもが歌うと何だか不思議な感じがするので、歌うシチュエーションは若干限られているかもしれませんが、私はこれから先生を志す学生たちや、現場で奮闘している現職の先生たちに向けて、そして無事に教職人生を終えられた同僚の先生のご退職の機に、心を込めてこの歌を幾度となく歌わせていただきました。

 自分自身が先生になって、子どもが教え、気づかせてくれることの方がずっと多くて豊かであるということを感じる日々です。私には残念ながらこんな素晴らしい歌を作る才能はありませんが、数ある歌の中から子どもたちの豊かな心を耕す歌を選びとり、心を込めて歌い、伝えていくことが私の使命だと感じています。素敵な歌をもっと素晴らしく、子どもが初めての歌との出会いに心を踊らせるような歌の伝え方を追求したいと日々奮闘しています。

 そして子どもたちが、これからの山あり谷ありの人生をたくさんの歌で彩り、歌とともにいろんな苦難も乗り越え、力強く成長していってほしいと願っています。そんな子どもたちを全力で支える「先生」でありたい。