新連載

【新連載】3回シリーズ(2)

言葉と言葉のあいだには…②

平安女学院大学短期大学部保育科 金子 眞理

 『あそぼうよ』(五味太郎作 偕成社)という絵本がある。「あそぼうよ」と誘う〔とり〕がいて、「あそばない」という〔きりん〕がいる。その〔とり〕と〔きりん〕のかけあいの絵本である。〔とり〕が「あそぼうよ」と誘いかけると、〔きりん〕は長い首を曲げたり隠したりしながら「あそばない」という。最後のページになっても〔とり〕が「あそぼうよ」というと、〔きりん〕は最後まで「あそばない」と答える。「あした またあそぼうよ」と、〔とり〕がいうと「あした また あそばない」と〔きりん〕が答える。

 〔きりん〕はとんでいってしまう〔とり〕をずっと眺めているが、裏表紙ではなんと〔とり〕と〔きりん〕が一緒にあそんでいる場面になる。

 子どもは〔とり〕と〔きりん〕のあそんでいる姿を見て、何をしてあそんでいるのかと思いをめぐらせている。

 この絵本をある学生が読み聞かせをした。「あそぼうよ」とゆったりと読んではいたが、「あそばない」のところでは「けんかしているの?」と思わず叫ん
でしまうくらいきつかった。「だってあそばないって…かいてあるし…」と学生は言う。喧嘩しているお話ではない。

 子どもは「あそぼうよ」と言葉をかけられると、すっとあそびに入る子どももいれば「あそばない」と口走ってしまう子ども、その場からすっとどこかに行ってしまう子ども。そうかと思えば「あそばない」といいながらしっかりあそぶ子ども。子どもの言葉と子どもの行動の関係性は微妙で深遠さをもっているのである。

 上沢謙二編著「幼児に聞かせるお話集」実用家庭百科 講談社 (昭和28 年発行)をひらいてみることにする。そこには、「お話は深い人生を味わわせる」という項目があり、次のように書かれている。「お話には、必ず目的があります。別な言葉でいえば、作者の理想が含まれています。それはお話の表には少しもあらわれません。それについては、一言もいわれません。けれども、ことばの裏、筋の裏に、ぴったりくっついて、はじめからおわりまで、ついてま
わっています…」とある。子どもと言葉をつないでいくにはややこしさがある。しかし、一瞬のうちに子どもと言葉がつながることもある。

 『コッコさんのともだち』(片山健 作・絵 福音館書店)という絵本の中に「コッコさんは ほいくえんで ひとりぼっち。なかなか みんなと あそ
べません。…でも ごらんなさい コッコさん…アミちゃんもひとりぼっち。… でも ちょっと みた ふくのいろ、 おんなじ おんなじ すると だんだん うれしくなって うんと うんと うれしくなりました。それから ふたりは いつでも いっしょ…」とある。子どもはまわりにいる子どもに単純に「おなじ」をさがし、「おんなじ おんなじ」という言葉から一瞬のうちに行動がうまれる。いいかえれば、子どもは微妙と深遠さという複雑な世界と、一足飛びに関係がつながる魔法の言葉「おんなじ おんなじ」も兼ね備えている。やっぱり子どもの世界はおもしろい…。