巻頭言

子ども・子育て新システムの課題

(社)京都府私立幼稚園連盟
理事長 藤本 明弘

まさに今、子ども・子育て新システム関連3法案が本通常国会において審議されています。消費増税案や政局との微妙な水面下での駆け引きもあり、行く末は全く不透明ですが、一時たりとも目が離せない状況です。

全日私幼連では4月12日付けで7項目からなる、重要課題を提言(全日私幼連HP参照)していますが、ここから読み取れることがらは、この法案は、子どもの健全な育ちという視点が全くない上に、我が国の現在までの教育制度の歴史や精神を極めて軽視した、非常に唐突な話に他ならないということです。

例えば総合こども園には株式会社が参入することが可能となります。確かに既に社会福祉の分野には株式会社が参入できますから、今日的な社会情勢の流れとは言えましょう。しかしこの先には重要な問題が存在します。つまり、満3歳以上の総合こども園は全てが「学校」として認められるようになるのです。従って、株式会社が設立した総合こども園も、れっきとした学校というお墨付きをもらえることになります。

これは学校制度の誕生以来、永年に渡り我が国の学校教育を支え続けてきた根幹法である「教育基本法」の精神を全く無視した、信じ難い法解釈です。なぜならば、我が国における教育施策は「教育基本法」を頂点として、その中に「学校教育法」が包括されています。そして、学校は言うまでもなく「学校教育法」の第一条に規定されています。またその第二条には学校は、国、地方公共団体及び私立学校法第三条 に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。と明確に規定されているのです。このことからも明らかなように「教育基本法」→「学校教育法」という正しい流れの法解釈では、株式会社が学校を設立することは不可能なのです。

そこで政府案は非常に不自然な形で法的根拠を創り上げています。つまり、教育基本法の第六条に学校教育に関する規定があり、「法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。」という条文を利用し、株式会社の総合こども園も、総合こども園法で定めた「学校」であるから、教育基本法の第六条が適応されるという訳です。

まさしく法の網の目をかいくぐった解釈という表現がぴったりです。いかなる分野でもこのような手口は決して感心したものではありませんが、ましてや、一国の将来を担う子どもたちを育む幼児教育の世界に、こともあろうが政府自身がこのような手法を用いること自体が、幼児教育重視の世界の流れからは、極めて貧しく、恥じるべき発想と受け取られても仕方ないでしょう。

今私たちが出来ることは、とにかく議論の行く末を注視することにつきますが、だからこそ、様々な問題点を共有し、私たちの思いを一つに束ねていくことと感じます。皆様の更なるご理解・ご協力を何卒よろしくお願いいたします。