輝く瞬間

【輝く瞬間】 2024年 6月

北白川幼稚園 園長 山下 太郎

 子どもたちは幼稚園の中で過ごす「社会の人」としてふるまう場合、大人が驚くほどの力を発揮します。ある年の四月、年少組のRちゃん(男児)とMちゃん(女児)は毎朝涙の登園でした。その日も、二人は泣きながら石段を登り始めました。私が二人の手を取り歩いていると、ふいにRちゃんが「ハンカチだして」と言いました。てっきり自分の涙をふくものと思ってハンカチを渡すと、Rちゃんは隣のMちゃんの涙をふいてあげるのでした。「ないたらあかんよ」と優しく言葉をかけながら。毎日泣くだけ泣いて、それでも幼稚園の先生は温かく手を差し伸べてくれるし、友達も「大丈夫?」と声をかけてくれたり、黙ってぬいぐるみを持ってきてもくれる。最初は不安だった幼稚園という社会が、徐々にありのままの自分を受け入れてくれる場であることを学ぶにつれ、やがてRちゃんのように困っている他の子に手を差し伸べる勇気と優しさを発揮することもできるのです。