新連載

【新連載】(番外編)「働き方改革」に思う

「働き方改革」に思う

(公社)京都市私立幼稚園協会特別支援教育研究会 顧問/ 元立命館大学教授 朝野 浩

 (公社)京都市私立幼稚園協会特別支援教育研究会を担当するようになって10 年を超えました。当初は、障害についての先生方の理解がまだまだ十分ではなく「保育上の困りの原因が、障害のある子どもたち自身によるものだ」との考えがありました。先生方の指導上の「困り」の原因が、子どもの行動上の偏りが障害そのものからくるとの考えです。ですから、「教室から飛び出すのを止めるにはどうしたらいいのでしょうか」「みなと同じ行動がとれないので、どうしたら参加できるでしょうか」「保育の途中に突然に保育者に話しかけてきて中断させてしまいます。どうしたら制止できますか」などコミュニケーションのとれな
さや集団行動に参加できない状態や日常身辺生活に関する行動の偏りに「どうしたらいい」と保育者だけでなく保護者なども含めて振り回されている感がありました。

 人の行動には必ず原因があり、環境や周りの状況に左右され、障害の特性がより困難さを増幅させてしまうことを、研修や個別相談の巡回指導の場で、対処療法的な方法ではなく、課題のある子どもだけではなく、全ての子どもにも当てはまる、日ごろの保育の上での大切な子どもの行動の見方、捉え方を説いていました。

 その解決には、先ず「ASDはこんな障害特性があります」「ADHAはこれこれの行動を示します」などという予防的・対策的指導法の考えから解き放たれ、子ども自身の行動をじっくりと観察することから始めます。保育者の「困り」の原因であるできていないことでなく、失敗しても頑張ってやろうとしていることやできようとしていること、これを私は「芽生え現象」呼びますが、これを見つけて、「いつ・どんな状況で・誰と一緒か」などを記録することから始めなさいと研修会で説き続けて10 年が経ちました。

 先生方の保育上のご苦労をもう少し全体に伝わるような方法がないものかと考え、特別支援教育研修会の事業の一環として、有志の先生方と共同で『保育支援計画』の作成もしました。なかなか活用していただいている現状ではありませんが、子ども自身の「困り」や成長を捉えることができ、
保育者同志や保護者と情報共有する材料となるものと考えます。

 標題の「働き方改革」は、一般的には労働者の働く環境や条件の改革を意味するものですが、究極は「はたらき甲斐」をどのようにしていくことだと思います。私たち幼児教育に携わる者は、子どもたちが楽しく、元気に、安全・安心して健康的に過ごせる環境を提供することに努めることと思います。そのためには、こども理解のための働き方(保育)を「生き甲斐」をもって挑戦することだと思います。課題や障害のある子どもの姿も多様性が日々増している中で、園内で保育者同志が協力して問題解決や障害や課題性ついて情報共有のあり方に挑戦する時代が来ていると思います。研修会のあり方も、よりニーズに応じた内容に改革していくことが大切になります。教育者の私たちの「働き方改革」はこの視点を除いては「やり甲斐」「働き甲斐」はないと思いました。

【新連載】4 回シリーズ(2)

ツシマヤマネコの生息域外保全

京都市動物園 園長    坂本 英房

 京都市動物園では、令和2 年に定めた「動物福祉に関する指針」に基づいて飼育する動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。

 京都市動物園の正面エントランスを入ってすぐにある施設で展示しているツシマヤマネコ。国内では長崎県の対馬にだけ生息する野生のネコの仲間で、哺乳類では、絶滅に最も近い動物の1 つです。東南アジアから中国、朝鮮半島に広く分布しているベンガルヤマネコの亜種とされ、約10 万年前に当時陸続きだった大陸から渡ってきたと考えられています。生息に適した環境の減少や交通事故などで生息数が減少し、2010 年代後半の調査によれば、対馬における生息数は約100 頭または約90 頭と推定されています。1971 年に国の天然記念物に、1994 年に「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」いわゆる「種の保存法」に基づいて国内希少野生動物種に指定されました。環境省レッドリスト2020 では、近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧IA 類に分類されています。
ツシマヤマネコを絶滅から守るにはふたつの方法があります。ひとつは対馬の自然の中で安定して暮らせるように環境を整えて数を増やす「生息域内保全」です。もうひとつは動物園など対馬以外の安全な施設で育てて増やす「生息域外保全」です。

 対馬では、対馬野生生物保護センターが拠点となって、生息状況や生態の調査・研究、保護されたヤマネコを野生に返すための治療やリハビリ、地元ボランティアや企業と協力し、ツシマヤマネコと共生する地域社会づくりなどヤマネコが暮らしやすい環境づくりの取組が行われています。

 動物園では、公益社団法人日本動物園水族館協会の生物多様性委員会を中心に京都市動物園を含め10 園が協力してふたつのことに取り組んでいます。ひとつは動物園で数をふやすことで、動物園で生まれたツシマヤマネコを、対馬の環境が整い自然の状態で安定して暮らしていけるようになったときに、野生復帰個体として対馬に送り出すことが期待されています。また、複数の動物園で飼育することは、生息地で災害や感染症の発生など大きな問題が生じたときに、絶滅を防ぐ目的もあります。もうひとつはツシマヤマネコのことを、動物園を訪れる多くの人に知ってもらうことです。多くが民有地で暮らしているツシマヤマネコを守るためには、多くのみなさんの理解と協力が必要です。ツシマヤマネコがおかれている厳しい現状や、対馬のすばらしい自然環境などについて知ってもらうためには、実際にツシマヤマネコを見て、身近に感じてもらうことも大切だと考えています。

 京都市動物園では、2012 年から1 頭の繁殖適齢期を過ぎた個体の展示を開始し、2015 年からは非公開の繁殖施設で3 頭のツシマヤマネコを飼育し次繁殖に取組んでいます。2017 年には2 頭の赤ちゃんが誕生し、そのうちの1 頭は父親になりました。

 動物園で暮らすツシマヤマネコたちが、野生復帰も含めて対馬の個体群を支え、ツシマヤマネコが希少動物ではなく対馬で人と共に普通に暮らしていける日が来ることを心から願っています。

【新連載】4 回シリーズ(1)

動物が幸せに暮らすことができる動物園を目指して

京都市動物園 園長    坂本 英房

 京都市動物園では、令和2 年に定めた「動物福祉に関する指針」に基づいて飼育する動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。

 動物は、痛みや苦痛、喜びなどの感情を持つ点では人と同様です。一方、進化の過程でそれぞれが異なる環境に適応するために発達してきた独自のからだの特徴や行動を持っています。そうした人と似ているところ、違うところを理解したうえで、その本来の性質を十分に発揮できるような環境を整える必要があります。動物が幸せに暮らしているかどうかを動物から直接聞き取ることはできませんので、その行動から推し量ることになります。同じ場所を行ったり来たりするような問題のある行動を減らし、その動物が持つ本来の様々な行動を引出して、野生で暮らしている状態に近づけることを目指しています。

 こうした取組に欠かせないのが環境エンリッチメントです。環境エンリッチメントとは、動物が心身ともに健康で暮らせるように,動物の生態にあわせて、本来の生息環境に比べると単調で変化に乏しいものになりがちな飼育環境を豊かにするような工夫を加えることです。日差しが強い時には日陰のある場所を、日光浴がしたいときには日向を動物自身が選べるような選択肢を増やし、木の枝を折ったりかじったり巣の材料にするなど動物自身で操作ができることも重要です。

 令和2 年度にはアジアゾウ,キリン及びウサギ等のふれあい動物を,令和3 年度にはアカゲザル,フラミンゴ及びナマケモノを対象に,飼育員,獣医師,研究員がチームとなって動物福祉向上に取り組んできました。例えば、アジアゾウでは、夜間の寝室の狭さがストレスになっている可能性があったので、安全性を十分に検証したうえで、夜間、屋外のグラウンドを開放して、広い空間と屋内の両方をゾウが選択できるようにして、夕方18 時から翌朝8 時までを録画して5 分毎の行動を記録しました。そして、屋外を利用していた割合と問題のある行動や横になって眠っている時間について解析を行ったところ、20 年度はある程度の屋外利用があり、常同行動は減少傾向にあることがわかりました。また、21 年度は他の個体と一緒に夜間開放すると問題のある行動が減り、横になって眠るリラックスしている状況が増える個体もいることがわかり、良好な社会関係にある個体同士で夜間のグラウンド開放を行うことで、動物福祉の改善に有効であることがわかりました。特に,重点的にエンリッチメント向上に取り組んだゾウをはじめとする動物については,「生き物・学び・研究センター」の研究員を中心に科学的・客観的な評価を実施し学会発表や論文としてまとめました。さらに他の動物園や大学との連携等を通じ,さらなる取組の向上に活かしています。

 こうした動物園全体での動物福祉向上のための体制整備が評価され,令和3 年に市民ZOO ネットワークによるエンリッチメント大賞2021 を受賞しました。これからも飼育動物が幸せに暮らせる動物園を目指し職員が一丸となって継続して取り組んで行きます。

【新連載】4 回シリーズ(4)

 

「子も親も育つ家庭、地域、幼稚園」~合言葉はレジリエンス~

レジリエント・シティー京都市統括監 元京都市副市長  藤田 裕之 

 京都私立幼稚園協会から寄稿をご依頼いただき、今回を含めて4回、寄稿させていただきましたが、子どもさんの育ちに頑張っておられる親御さん、そしてしっかり寄り添っておられる各幼稚園の先生方に少しでもエールを送ることができれば嬉しい限りです。

 そこで、連載を締めくくるに当たって、皆さんに「レジリエンス」という言葉をご紹介したいと思います。

 レジリエンス(Resilience)なんて「聞いたことないな⁉」と思われた方もあるかも知れませんが、災害への対応、集団や社会の在り方、さらには子どもの育みにおいても、近年、特に注目されている言葉です。一昨年、宇宙飛行士の野口聡一さんが、乗船するロケットに「レジリエンス号」と名付けられたことが話題になりましたし、国際パラリン委員会も標語としてこの言葉を取り入れています。

 「レジリエンス」とは、直訳すると「強靭さ」つまり「しなやかな強さ」とか回復力、復元力などと訳される場合がありますが、ポキッと折れない打たれ強さ、あるいは仮に折れてしまっても立ち直れる力と言った意味も持っています。

 同時に、単に元通りに戻るだけでなく、前以上に、あるいは前とは違った形で回復・復興するというニュアンスも含まれています。

 私たちの経験でも、色んな壁にぶち当たって打ちひしがれても、何とか課題を乗り越えた時には、前よりも成長した自分を意識することができることがありませんか?ひと皮むけた!という言い方をする時もありますし、振り返ったら良い思い出になっていることもあるでしょう。

 さて、昨今、物は豊かで便利な社会になったのに、そのことが子どもの育つ環境として、必ずしも幸せな状態になっていないことを感じます。困難に直面して乗り越えるという経験は、あまりにも便利過ぎる環境では果たせないのかも知れませんし、子どもたちの育みにおいて周囲の大人が、まさしく子どもたちにとっての環境としてどうあるべきかを考えることが、とても大切になっています。

 少し話が大きくなりますが、そもそも人類は、何十万年も前、森林に住んでいた他の動物から別れて「進化」した訳ですが、単独では弱小な動物が、群れ(集団)を作り、助け合い、支え合って他の動物が支配する社会を生き抜いて来たのでしょう。

 全ての哺乳類の中で、人間ほど、か弱く生まれてくる動物はないと言われています。そして決して多くない数しか出産しないのに、一人一人を大切に育てます。

 その意味では、そうした助け合いや支え合いは、地上に存在する生物の一種にしか過ぎない人類が、厳しい環境の中をその後も生きながらえてきた最大の強みと言うことができそうです。人類が営々と引き継いできた生きる術である助け合い、支え合いの精神を、子どもたちにしっかりと体得させていくことこそ、私たちの重要な使命なのではないでしょうか。

【新連載】4 回シリーズ(3)

 

「少子化克服への視点」

レジリエント・シティー京都市統括監 元京都市副市長  藤田 裕之 

 今や子ども向け番組やワイドショーでも頻繁に取り上げられている「SDGs」。既にご存知の方も多いと思いますが、2015 年の国連サミットで「持続可能な開発目標」として採択された、2030 年までの国際目標です。17 の柱からなっており、その一つ一つは至極当然の課題ばかりです。

 しかし、持続可能な、つまりSustainable という言葉は、地球が生物の生命を宿す惑星として持続可能であることを目指しており、現状では、地球の持続可能性を脅かしている張本人は人類に他ならないかも知れません。

 開発、つまりDevelopment という言葉も、一見、山を切り拓き、海を埋め立てる市街地開発のようなイメージを持ってしまいますが、決してそうではありません。ここで言っているDevelopment は、社会の発展や経済成長を意味しており、私なりに意訳すれば、「持続可能なシステムの開発」と考えるのが妥当ではないでしょうか。

 また目標、つまりGoal も、テープを切って終わりという運動会の徒競走のような目標ではなく、あくまで通過点であると言えます。

 さて17 の目標には、①貧困、②飢餓、③福祉、④教育、⑤ジェンダー、⑥水とトイレといった人間の日頃の生活に密接に関わる課題から、⑦エネルギー、⑧経済成長、⑨技術革新、⑩不平等の是正、⑪まちづくりといった豊かさの質を問う課題、そして⑫消費と生産のバランス、⑬気候変動、⑭海の豊かさ、⑮陸の豊かさといった地球環境に関わる問題、そして⑯平和、さらには⑰パートナーシップといった項目が列挙されていますが、重要な点は、各項目は決してバラバラではなく、密接に関係し合っているということです。別の表現をすれば、SDGs の最大の課題は17 の項目で新たな縦割りを作ってしまわないということでもあります。

 例えてみるなら、17 本の柱で桶を作る作業に似ているかも知れません。それぞれの柱に隙間があったり、長さが違ったりしては、桶には水が溜まりません。隙間なく、長さも揃った桶を作ることが大切なのです。

 その意味でも、SDGs において大切なポイントは、一つ一つの事象や出来事が、どのように繋がり合っているか理解し、様々なハードルや困難に対しても、継続的に我慢強く取り組むことだと言えるでしょう。

 さらにその根底には、地球環境を決して無限のものと考えてしまわず、私たちが地球のお陰で生かされていることを感謝する必要がありそうです。近年、「プラネタリー・ヘルス」という言葉が注目されるようになってきました。 
 
 プラネタリー・ヘルス、つまり惑星としての地球全体の健全な姿ということになるでしょうか。そこでは、人類だけが生き延びるという発想は存在しません。人類も他の動植物と同じように、この惑星に生命をいただいた存在であり、相互に関係し合いながら、存在しているのです。

【新連載】4 回シリーズ(2)

「少子化克服への視点」

レジリエント・シティー京都市統括監 元京都市副市長  藤田 裕之 

 子どもは社会の宝。ところが、我が国で、既に数十年にわたり、子どもの数が減少し続けていることは皆さんご承知のとおりです。

 いわゆる合計特殊出生率が最も高かったのは戦後直後で、4.3 もありましたが、以降、低下し続け、人口を維持する上で必要な2.0 を、ちょうど1964年の東京オリンピックの後に下回ってからは、1.2から1.4 程度の数値で推移しています。特に都市部で低くなっており、都道府県で最も低いのは東京都です。残念ながら京都も全国でワースト3から脱することなく低迷しています。

 出生率が下がっている要因は様々考えられますが、ひとことで言えば、女性の進学率や就職率が高まると共に、結婚して出産することが「普通」、という価値観が変化し、結婚も出産もその人の自由という具合にライフスタイルが多様化したことでしょう。

 具体的には、女性の未婚率の増加、出産の高齢化に伴い、平均した出生率が低下している訳で、決して、子どもを授かりたいと望んでいる方の比率が大幅に減っている訳ではありません。

 特に、人口動向で忘れてはならないことは、出生「数」が減少の一途を辿っていることです。京都市の数値でも、25 歳から44 歳のいわば出産対象と言える女性の数は、25 年後には今の約60%に減る見込みです。つまり、母数となる女性の人口が大きく減少するため、出生率が同じであれば、出生数は大きく減少してしまうことを意味しているのです。

 せっかく子育て支援を充実しても、肝心の子どもの数が減っていては、真に持続可能な社会は実現しません。少子化対策としっかり結び付けた子育て支援こそ、喫緊の課題なのです。

 とはいえ、少子化の背景には、経済的事情をはじめ、未婚率の増加、子育て世代の就労環境の未改善、核家族化の進行など様々な要因が存在します。そのために様々な調査が行われていますが、個人的には少子化対策の対象を既婚者や子育て中の方に限定するのでなく、将来、家庭を築き、親となっていく世代への支援に繋げることが不可欠であるないように感じます。

 同時に、子育て中の親御さん、特に母親の孤立感、徒労感の克服のため、男性の育児・家事参加を含む男女共同参画、企業文化としてのワークライフ・バランス、地域コミュニティによる子育て支援が一層重要になっています。

 少なくとも、価値観の多様化の中で、平均出生率2という数字を確保するためには、子どもを3人、4人と授かっている家庭が相当増えることが期待されますし、それに見合った施策が展開される必要がある訳です。

 その場合には、育児に従事する年数が当然長くなりますし、経費も嵩んできます。その意味では、子育て支援策においても、安心して3人目、4人目を授かれる条件を社会全体で作っていくことが大切になってくるのではないでしょうか。

【新連載】4 回シリーズ(1)

「子どもの育ちに大切なこと」

レジリエント・シティー京都市統括監 元京都市副市長  藤田 裕之 

  皆さんは、ご自分の子どもたちにどのように育ってほしいと願っていますか?

 たくましく健康で、思いやりのある、また賢く、自立した子ども。様々な困難に直面しても、勇気を持って立ち向かい、ポキッっと折れそうなことがあってもしなやかに耐え、万が一、折れてしまうことがあっても、また立ち直ることができる人間。親なら、誰でも子どもたちに、そんな風に育ってほしいと感じるでしょう。

 そのために、必要な環境はどのようなものでしょうか?物質的に豊かで便利な社会は、子どもたちの育ちにとって、好ましい環境だと言えるのでしょうか?

 加えて、インターネットやスマ―ト・フォンの普及で、何でも簡単に手に入り、相手を傷つけても何も感じない「仮想現実」が、子どもたちに無限の可能性を提供
してくれるような錯覚を与えていますが、子どもたちにもっと必要なものがないでしょうか?

 私の好きな言葉に
  「乳児はしっかり肌を離すな!
  幼児は肌を離せ、手を離すな!
  少年は手を離せ、目を離すな!
  青年は目を離せ、心を離すな!」
 という子育て四訓があります。

 青年に成長した時に、「心」が離れないために、乳幼児期にはしっかり子どもの目を見ながら関わりたいものです。

 その意味で、近年、私がとても気になっているのが、「ながらスマホ」です。こう申し上げると皆さんは、歩きスマホや自転車スマホを思い浮かべるかも知れませ
ん。もちろん、それらが、自分にとっても周囲の人にとっても危ない行為であることは言うまでもありません。しかし、私が敢えて申し上げたいのは、「子どもと
関わりながらスマホ」です。子どもがぐっすり眠っている時ならいざ知らず、家で子どもと一緒に過ごしている時間に、あるいは、電車やバスに乗って、子どもが一生懸命、話しかけたり外の景色に目を輝かせたりしているのに、親はスマホの画面を見ている光景を見ると、とても悲しくなります。おそらく、親御さんにも事情があってスマホを見ている場合もあるでしょうが、それなら、子どもに、「今、あなたの相手をしているより大切な情報が、このスマホの画面に出ているので、しばらく我慢していてね!」とちゃんと説明できるかどうか、考えてみてください。

 ある調査では、乳児は、親が一生懸命見つめるものを、自分も大切だと感じるようになる傾向があるそうです。幼少期の子どもにすれば、親が後生大事にいつも見ているスマホは、きっと「世界で一番大切なものなのだ!」と信じても、決して不思議ではありません。

 大変なことも多いけど、今しかできない子育てです。子どものお手本となるべき大人が、スマホやゲームにばかり、肝心な時間を奪われてしまうことは避けたいものです。

【新連載】3 回シリーズ(3)

「ポジティブに」

京都光華女子大学 こども教育学部こども教育学科  永本 多紀子 

 「この科目では,このことを伝えたい」と授業資料をつくって授業に臨んだのですが,私は,自分が経験してきたことを伝えたい!という思いが強すぎたようです。どの授業も90 分ほぼしゃべり続けました。授業評価で,「先生がどれだけ幼稚園が好きかわかった」「先生の熱い思いが伝わった」というプラスの評価と共に,「一方的である」「大事なことは何かがわかりにくい」という意見もあり,「これではいけない。修正しなくては」という気持ちはありながらもなかなか修正できずにいました。自分は分かっているつもりで話していて,それでは相手に伝わらないのだということも改めて学びました。保育においてもちょっとした「間」があくと,どうしたらいいかなと思うことがあります。大学の授業においても,自分がしゃべり続けないと自分自身が不安であるという
ことも大きかったと思います。

 「あ~困った。やっぱり無理かな」と弱気になる気持ちをぐっと抑えて,どんな風にして修正をしたらいいのかを考えました。幼稚園の保育においても「主体的,対話的,深い学び」ということを考えていましたので,この視点から授業を考えてみました。『保育者がすべてお膳立てをしない』『保育者が見通しをもって計画をするが,保育者の計画通りに子どもを誘導しすぎない』『子どもたちに考えることのできる時間を保障する』など大事なポイントは,授業でも同じではないかと思いました。

 私が一方的にしゃべる授業でなく,『学生が自分たちで考えたり,相談したりする時間を保障する』ということを心がけて,授業を組み立て直してみました。グループでの話し合いや発表がうまくいくと「やった」と秘かに喜んでいました。若い学生さんと時間を共有したからこそ感じられた新しい発想は,新鮮でした。この時を共有できるのは,「声をかけてもらった時はチャンスと考える」「自分にできることを精一杯やろう」「やらない後悔より,やって後悔の方がいい」というポジティブ思考のお陰だと思っています。

 でもいろいろなことに自分から積極的に取組んでいるという訳ではありません。まだまだ本当のポジティブ思考というのではないと思っています。振り返ってみると,ずっとこれまで仕事中心の生活でした。仕事・子育て・家事の3 つをするだけで精一杯で,しかも仕事の締める割合が高く…。それは責任ある仕事に就いているのですから当たり前のことだと思っています。そのことに対して後悔がないかと言えば,やっぱりちょっと心残りはあります。私自身器用な人ではないので,あれもこれもすることはできないので仕方ありません。でもこれからは,ちょっと視野を広げて,自分に出来ることを見つけて楽しんでいければいいなと思っています。「○○が得意です」「○○が好きです」とまで言えないかもしれないですが,これからもポジティブ思考を大切にしていきたいと思っています。

【新連載】3 回シリーズ(2)

「ポジティブに」

京都光華女子大学 こども教育学部こども教育学科  永本 多紀子 

 絵の苦手な私でしたが,クラスの子どもたちは絵が大好きで,展覧会に応募して賞をいただいたこともありました。自分の得手不得手で子どもたちの遊びや経験を考えるのではなく,子どもたちが好きなことやいろいろな経験がたくさんできる保育をすることの大事さも味わいました。

 しかしながらポジティブ思考で行こうと思う反面,私はやはり自分に自信がなく,いつもどちらかというと穴があったら入りたい。逃げ出したい。目立ちたくない・・・と常に思っていることの方が多かったと思います。それでもいろいろな時に声をかけていただきました。保育を公開したり,研究発表を行ったり自分の思いとは逆の方に進んでいくように思いました。自分の実力以上のことを引き受けて,自分で自分を苦しめるようなことが多々ありました。
十分,期待に応えることができなかったこともあったのではないかと思います。それでも自分なりに一生懸命取り組みました。もしお声掛けいただいた時に,悩んで引き受けていなかったら,きっと「やっぱりあの時頑張っておけばよかったかもしれないな・・・」と後悔していたのではないかと思います。

 声をかけてくださるということは,やはり「この人なら何とかしてもらえるだろう」と期待をしてくださっているからだと思うのです。ネガティブ思考のままで何も引き受けなかったなら,楽に過ごせたかもしれません。でも,きっと今の自分は存在しなかったでしょう。自信過剰はよくないと思いますが,自信不足でも子どもたちの保育に良い影響はないでしょう。これまでたくさんの子どもたちと出会いました。同じ園に長年勤めさせていただいていたお陰で,幼稚園卒園後も高校生や大学生になった子どもたちと出会うこともよくありました。この子どもたちと過ごした幼稚園時代は私の本当に良い思い出で,いつまでも大事にしたいと思っています。

 幼稚園を定年退職して,大学にお世話になることになりました。「私に出来るのだろうか」「やっぱり無理じゃないかな」「え~どうしよう・・・」覚悟を決めたものの,また一気にネガティブ思考に陥り,ずっと悩んでいました。

 そして私ができることは何かを考え直した時に,『保育者を目指す学生さんたちに,この幼児と関わる仕事の素晴らしさや楽しさ,大切さを伝えることが使命だ』という気持ちで頑張っていこうと思いました。

 でもなかなか難しいことでした。私の出来ることを精一杯やろうと思いながらも,どんな風になるのだろうと先の予測が全くつかずにいました。それでも待ったなしで授業が始まります。助けになるのは,やっぱり子どものたちとの日々でした。撮りためた写真やエピソードがとても役に立ちました。「これで頑張ってみよう」とちょっと前向きになれたのです。

【新連載】3 回シリーズ(1)

「ポジティブに」

京都光華女子大学 こども教育学部こども教育学科 永本 多紀子

 タイトルから,筆者は「ポジティブな人」と思われるかもしれませんが,実は全く逆でネガティブな人です。では何故,このようなタイトルをつけたのかということについて3 回に渡ってお話をしていきたいと思います。よろしくお願いします。

 幼稚園を定年退職し,22 年度で現職に就いて5 年目を迎えました。私の人生設計の中に大学に勤めるという選択肢は全くありませんでした。私は従姉の影響もあって,小学生の頃から幼稚園の先生か保育士(当時は保母さんでしたが)になりたいと思っていました。そして念願叶って,幼稚園の先生として約40 年間を過ごしました。

 40 年間は,とても長い年月ですが,あっという間であったようにも思います。周りの先生方を見ると,絵画や音楽などのスペシャリストというような方がたくさんいらっしゃいました。私は特に取り柄のないごくごく普通の保育者で,そんな自分にあまり自信がもてませんでした。

 ある時,大きな大会のピアノ伴奏を頼まれました。私は1 オクターブが届くか届かないかの小さな手です。音楽は大好きでしたが,ピアノの演奏自体は得意という部類には入りません。私にできるのだろうかととても迷い,すぐには返事ができませんでしたが,「せっかく声をかけていただいたのだから」と引き受けることにしました。ところが予想以上に伴奏が難しく,ご指導いただくことになっていた日に,全く間に合いませんでした。  
 
 その後,猛練習を重ね,全体の歌唱練習の日には何とか伴奏をすることができました。「あの日はどうなるかと心配したけど,よく頑張って弾けるようになったね」とご指導の先生からお褒めの言葉をいただきました。ホッとすると同時に「頑張ってよかった」と思えた瞬間でした。「自分にできることを一生懸命やっていくことが大事だな」と思えたのは,このことがきっかけになったといっても過言ではありません。やり切った達成感を味わうことができたのです。声をかけてもらうことはチャンスであると考え,やらなくては,自分の性格からいつも私は避けて通る道を選ぶだろうと思ったからでした。

 「自分に出来ることは何だろう」と考えた時に「子どもたちに寄り添う」ということでした。「しっかり寄り添おう」と思い,登園拒否の子どもと毎朝,園庭の真ん中で格闘をしたこともありました。「帰りたい!」と泣きながら暴れる子どもの体はもちろん,心も抱きとめて,必死に向き合うことでようやく心を開いて,私に体を預けてくれた時,とても嬉しさと安ど感で一杯になりました。気持ちが通じ合うことは,こんなに嬉しいことなんだと改めて感じることができました。そのお子さんとはその後,強い信頼関係を結べたと実感しています。

 自分自身の気持ちがポジティブになることで,子どもたちとの向き合い方が変わってくると思いますし,子どもたちへの影響も大きいと思います。すぐにネガティブになりそうな自分に常に言い聞かせて,自分の気持ちを奮い立てていました。