新連載

【新連載】3回シリーズ(3)

造形で褒めることにより見えてくるもの

京都女子大学  矢野  真

 研修会などで幼稚園の先生と話す機会がありますが、次のことをおっしゃる先生方によく出会います。それは「先生のような造形を専門とする方は、持って生まれた才能がないとできないですね。」という内容です。

 私は造形を考える上で、持って生まれた才能よりも重要な要因があると考えています。それ
は、いかに継続して造形と関わるかということです。

 大学院、そして非常勤として東京藝術大学に10 年間在籍した時、工作の公開講座などを通して幼児や小学生と関わりながら造形教育の大切さを実感しました。その後2 年間、中・高等学校で美術の教員となり、生徒たちに美術や造形の楽しさを伝えていこうと張り切っていましたが、中・高ではもう遅いということを痛感しました。というのは、美大を目指す生徒もそうでない生徒も、造形や美術が好きで楽しく取り組むというよりは、よい成績を取るために取り組んでいるように思われたからです。もっと幼少期の段階から造形を楽しむことの大切さを教えていく必要があるのではないか、そして自分が培ってきた造形に関する技能を社会(教育)に還元していくためには、幼・小の造形に関わることが必要だと考えたのです。その後、運よく児童学科のある大学に勤務することができました。今は一人でも多くの幼児、そして保育者に造形を楽しく感じてもらうことができるよう、日々の努力を続けています。

 さて、造形は才能というよりも継続が重要であるという話しに戻りましょう。幼児の造形は、小学校のように成績には反映されません。小学校に入ると図画工作は点数化され成績がつきます。自分が思うより悪い成績がつくと、いくら頑張っても意味がない→ ならば図工はつまらない→ 図工は嫌い といった図式になっていきます。造形を仕事としている人のなかには、
幼稚園時代の先生が自分の造形作品をたくさん褒めてくれたことがきっかけとなっているということがあります。私も特に上手であったとは思いません。両親や幼稚園の先生、そして絵画教室の先生に褒められ、ずっと継続してきたことが重要であり、そのことにより現在の自分がいるのだと考えています。

 そこで幼稚園の先生方にお願いしたいことがあります。先生が造形を得意でもそうでなくとも、子どもたちが作る造形をたくさん褒めてあげてください。「いいねぇ。」「上手にできたね。」と抽象的に褒めるのではなく、色や形、大きさなどを具体的に褒めてあげることが大切です。子どもたちは褒められたことにより、自信につながり、また絵を描こう、工作を作ろうという気持ちになります。子どもたちが継続して造形を楽しむことができる環境づくりをしてあげてください。このことは、子どもたちの技能や感
性につながるとともに、将来、私のように保育の造形を専門とする先生が誕生するかもしれません。「継続は力なり」です。