新連載

【新連載】3回シリーズ(1)

子育ては「うまくはがれるように離す事」(1)

Joyit 代表 臨床心理士 井上知子

 若いお母さんたちとお話すると、「子どもに自己肯定感を育てるにはどうしたらいいのですか?」という質問を受けることがあります。とても知的なお母さん達が多いのです。おっとっと、いきなり本題ですね、と思うのですが、「で、そのためにどうしておられますか?」と尋ねると、「習い事をして何かできる事を身につけさせて自信を持たせるといいのかな?と思っています」と結構返ってきます。「そうですか。習い事はだいたい3 か月ハネムーンで、やる気満々ですが、そのうちお友達と遊びたいから今日はイヤとか言いませんか?」と尋ねると、「そう、それで嫌がる日があるので困っています。一度習い始めたらチャンとさせたいので、結構バトリ(battle)ます」という答えが多く聞かれます。

 つまり嫌がった時に「一度習い始めたものは休んではならない。」という親の理想を子どもは強要されるという事です。これがあまり強く繰り返されると結構親子関係はまずいかも。自己肯定感を育てたいという親の目標は良しと思います。しかしそれを実現する日常のプロセスがあまりに大事にされていないのでは?と危惧することがしばしばです。強要して習い事を全うさせることに多くの保護者は焦点を当てていますが、
それよりも、それに関連して起きる日常的な事柄の処理の、出来る・出来ないではないそのプロセスこそ、自己肯定感を育てるのに関係するのではないかと筆者は考えるからです。そしてもう一つは、保護者の方が、「出来る」という事が自己肯定感につながる、と思っておられるというのは気になるところです。

 5 歳児A 君のお母さんのお話。園から連絡があり、「A君がB 子ちゃんを蹴ってB 子ちゃんは泣き、蹴ったところを湿布しましたが、赤くはなっていません。園ではA 君に蹴ってはいけないと注意し、わかってくれたと思います。しかしB 子ちゃんの家に謝罪に行くことを薦めます」との事でした。先生の説明によると、A君が歌を歌っていた、B 子ちゃんが「静かにして」と言った、それでA 君は声を小さくした、それでもB 子ちゃんは「静かにして」と言ったのでさらにA 君は声を小さくして歌った、それでもB 子ちゃんは「うるさいから静かにして」と言ったので腹を立てて蹴った、との事でした。お母さんが聞いても同じ事情でした。その後ご両親でコンコンと「人を蹴ってはいけない」と言い聞かせて、親子3 人でB 子ちゃん宅に謝罪に行ったそうです。ごく普通にあるお話だろうと思います。

しかし…この措置で果たしてA 君についた力は何だろう?と考えると、さて?と思うのです。“悪い時は謝る”というのを学んだでしょうが、こういう事が頻繁に起きると、自分は悪い子という自己イメージが生じ、周囲にも乱暴な子、問題の子、という見方が定着します。
その中でA 君の自己肯定感って、どうやって育つのでしょうか?少なくとも周囲の大人が伝えたものは、そのトラブルが起きたのちの対処法でした。そのトラブルの直前や最中の扱いの力がA 君に付いたわけではないのです。そしてB 子ちゃんにはどういう力が付いたのでしょうか?私たちが子育てする時、この対処で誰にどういう力が付いたのか?そしてそれぞれを尊重できているのか?それを考える必要があるように思います。