新連載

【新連載】4 回シリーズ(1)

動物が幸せに暮らすことができる動物園を目指して

京都市動物園 園長    坂本 英房

 京都市動物園では、令和2 年に定めた「動物福祉に関する指針」に基づいて飼育する動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。

 動物は、痛みや苦痛、喜びなどの感情を持つ点では人と同様です。一方、進化の過程でそれぞれが異なる環境に適応するために発達してきた独自のからだの特徴や行動を持っています。そうした人と似ているところ、違うところを理解したうえで、その本来の性質を十分に発揮できるような環境を整える必要があります。動物が幸せに暮らしているかどうかを動物から直接聞き取ることはできませんので、その行動から推し量ることになります。同じ場所を行ったり来たりするような問題のある行動を減らし、その動物が持つ本来の様々な行動を引出して、野生で暮らしている状態に近づけることを目指しています。

 こうした取組に欠かせないのが環境エンリッチメントです。環境エンリッチメントとは、動物が心身ともに健康で暮らせるように,動物の生態にあわせて、本来の生息環境に比べると単調で変化に乏しいものになりがちな飼育環境を豊かにするような工夫を加えることです。日差しが強い時には日陰のある場所を、日光浴がしたいときには日向を動物自身が選べるような選択肢を増やし、木の枝を折ったりかじったり巣の材料にするなど動物自身で操作ができることも重要です。

 令和2 年度にはアジアゾウ,キリン及びウサギ等のふれあい動物を,令和3 年度にはアカゲザル,フラミンゴ及びナマケモノを対象に,飼育員,獣医師,研究員がチームとなって動物福祉向上に取り組んできました。例えば、アジアゾウでは、夜間の寝室の狭さがストレスになっている可能性があったので、安全性を十分に検証したうえで、夜間、屋外のグラウンドを開放して、広い空間と屋内の両方をゾウが選択できるようにして、夕方18 時から翌朝8 時までを録画して5 分毎の行動を記録しました。そして、屋外を利用していた割合と問題のある行動や横になって眠っている時間について解析を行ったところ、20 年度はある程度の屋外利用があり、常同行動は減少傾向にあることがわかりました。また、21 年度は他の個体と一緒に夜間開放すると問題のある行動が減り、横になって眠るリラックスしている状況が増える個体もいることがわかり、良好な社会関係にある個体同士で夜間のグラウンド開放を行うことで、動物福祉の改善に有効であることがわかりました。特に,重点的にエンリッチメント向上に取り組んだゾウをはじめとする動物については,「生き物・学び・研究センター」の研究員を中心に科学的・客観的な評価を実施し学会発表や論文としてまとめました。さらに他の動物園や大学との連携等を通じ,さらなる取組の向上に活かしています。

 こうした動物園全体での動物福祉向上のための体制整備が評価され,令和3 年に市民ZOO ネットワークによるエンリッチメント大賞2021 を受賞しました。これからも飼育動物が幸せに暮らせる動物園を目指し職員が一丸となって継続して取り組んで行きます。