新連載

【新連載】幼児期の子どもへの関わりにおいて 大切なこと2 ~大人と子どもの思いのすれ違い~   4 回シリーズ(2)

京都府・京都市スクールカウンセラー臨床心理士 大下 勝

学校カウンセリングでは、親と子どもの話を別々に 聴くことがあります。その中で何回か経験したことで すが、親は「子どもにどう考えても正しいことを話し ているのに、全く伝わりません」と困りを訴え、子ど もは「親は私の話を全く聴いてくれない、私のことを 全く分かってくれない」と憤っています。親の話をさ らに聴いていきますと、子どもの言動について、間違 っていることや正しい考え、適切な行動を何とかして 子どもに教えたいという強い思いがあることが分かり ます。一方、子どもの話を深めていきますと、自分の 感じたことや考えたことを親に分かってほしい、自分 という存在をそのまま受け容れてほしいという切実な 思いがあることが分かります。これは教員と子どもで も起こることがあります。どちらも大切な思いですが、 多くの場合は、大人が子どもを注意することになり易 く、分かってもらえないという不全感が子どもに生ま れます。お互い感情的になり関係が悪くなる場合もあ ります。カウンセラーとしては、どちらの思いも大切 なのに、本当に悲しいすれ違いだと思います。

さらに、子どもが分かってもらえないと感じる体験 を多くしますと、「大人に話しても意味がない、どう せ聴いてもらえない」と大人に強い不信感を持つこと があります。こうなると、子どもだけで解決できない 問題が起こっても大人に相談しないですし、大人に反 抗的な言動が目立つようになります。自分の部屋に閉 じこもったり、ネットの世界にしか居場所を見つけら れなかったりする場合もあります。長い目で見ると意 味があるとも言えますが、大人も子どももかなりつら い体験になります。

では、どうすれば子どもの思いを大切にしながら、 正しいことを伝えられるのでしょうか。それは、会話に「主語」と「動詞」をしっかり付けることです。例 えば、子どもが「勉強したくない、しても意味が無い」 と言い、「何言っているの、勉強しないと将来困るわよ、怠けずちゃんとしなさい」と返すと、子どもの思いを 否定することになります。「主語」と「動詞」を付け ると、「あなたは勉強したくないと思っているのね、 そして勉強しても意味がないと思っているんだね、でも、お母さんは勉強することに意味があると思ってい るよ」と返すと、子どもの思いを否定せずに、正しい ことを伝えることができます。本来は、それぞれ個人 が思っていることですが、「主語」と「動詞」を省略 すると内容が一般化されて範囲が広くなり、反対の内 容を全て否定してしまいます。多くの場合は、これが 原因ですれ違いが起こっています。

幼児期では、まだ言葉がうまく使えず、多くのすれ 違いが起こり易い時期です。優しい雰囲気で正しいこ とを伝えるだけでなく、「あなたは、そう思ったのね」 と子どもが伝えたいことをしっかり受けとめていただ ければと思います。それは、思っていることを大人に 伝えてもいいという経験になりますし、子どもにとっ てそのまま受け容れてもらえる安心で安全な環境であ ると言えるでしょう。