巻頭言

管外研修の報告

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 野波 雅紀

 去る11月10日から1泊2日の行程で管外研修を実施しましたのでその概要を報告いたします。
 今年は、全日私幼連政策委員長であり国の子ども・子育て支援会議委員をしておられ、幼稚園型認定こども園やしま幼稚園の理事長・園長 坪井久也先生を訪問しました。やしま幼稚園は平成20年度から認定こども園として運営を始められ、昨年の新制度スタート時には小規模保育事業(2歳児)を併設、来年度からは小規模を廃止され、3号(1歳児以上)認定の受入を始められるそうです。
 今回の訪問では、やしま幼稚園が幼稚園型認定こども園を選択された経緯と、実際の事務・経営・課題について坪井先生がお感じになられたことをお話しくださいました。以下は坪井先生からいただいた資料を掲載させていただきます。

【事務に関すること】
 移行後、各種加算の申請に必要な書類も多く、その書類も細かい
(1) 事務面は多忙、毎月のやりとり、幼稚園としての今まで知らない事務が突然出てくる
(2) 月途中での入退園の報告、1号から2号への変更(その逆も)についての報告
(3) 施設型給付費は毎月請求、毎月入金
(4) 市町村の指導監査

【経営に関すること】
・職員配置が充実している園は充実する
・処遇改善ができる見込み
(1) 市の保育所行政は手厚い
(2) 公定価格は予想したより充実している
(3) 高松市は市の単独補助による利用者負担を大きく引下げ(25,700→14,200)により、保護者は満足
(4) 特定負担額(公定価格で賄えない部分を施設充実費や職員配置充実費という名目で徴収する)や実費徴収は、私立幼稚園として従来から保護者に説明の上徴収してきたものであり、今後とも維持すべき
(5) 2才児への支援が重要
(6) 公定価格加算は人の配置に係るもので、職員配置が充実した園ほど加算がある
(7) 地域の幼児教育機関と して存続できるようになった
(8) 大規模園は(ケース・バイ・ケース) 職員数、職員の経験年数
(9) 保護者はよく計算して1号か2号を選択している
(10) 利用定員の認定の仕方が大切

【課題】
・人材確保が重要(保育に関わる事業所が急増)
・認定こども園の2号・3号児は保育所制度の中で設計されている
(1) 人材確保が大変、特に保育所部分(小規模保育の職員)は人の出入りが予想以上に多かった
(2) 幼保連携型認定こども園は全員が保育教諭として幼稚園教諭と保育士資格の両方を求められるなど基準が高い割には、インセンティブは少ない
(3) 高松市では待機児童が発生しているため(主に3号児)、11月1日に入園願書を受け付けても、高松市の利用調整を経て1・2月の入園決定となる制度であり、園児数が確定しないと必要な教職員数が確定せず、優秀な職員を確保できないという問題が指摘されている。
(4) 利用調整と認定こども園の直接契約の関係 待機児童が発生している自治体では、直接契約よりも市町村の利用調整が優先する。問題となるのは、当園を希望し入園申込をした在園児の弟妹が保育必要度の点数が低く入園できないケースの発生が懸念されることである
(5) 公定価格や加算の仕組みの複雑さ
 坪井先生からのご提言として、団体が結束して市町村と交渉することが有利であることを強調されておられました。
 京都府の私立幼稚園は全国一の私学助成をいただいています。香川県は京都府に比べると1人あたり数万円低い私学助成だったことから、高松市の事例が京都府の幼稚園にあてはまるとは限らないとの認識も一方で感じました。

集団を通して行われる幼児教育

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 中浦 正音

 新制度に移行して一年三ヶ月が過ぎ、各都道府県・市町村でそれぞれ違った歩みがあり、ますます混沌とした状況が今の日本の幼児教育の現場であります。認定子ども園等の平成27年度の行政監査がこの一年をかけて行われていきますが、その結果を見ながら全体像を把握していかなければなりません。京都府私立幼稚園連盟としては、これからも私学の独自性を守り、幼児教育の質を担保するというこの二点を柱に加盟園の皆様と進むべき道を談論風発、模索していきたいと思っています。今回は外形的な施設の形態云々というよりも保育理念、保育内容の視点から私見を述べさせていただきます。

 この数十年、幼稚園関係者は小学校以降の就学教育と幼児教育の根本的な違いを中心に幼稚園教育を語ることが多かったように思います。「学習」と「遊びを通しての学び」と整理してもいいでしょう。まだまだ未分化な状態である子どもにとっては、しっかりと整理・体系化された教科を中心として学習するよりも、むしろ混沌とした情報の中から自分にとって意味のある情報を自ら選び取り入れながらそれを類型化していく経験を積み重ねることのほうが大事であると考えます。主体的という言葉が幼児教育のキーワードであると位置づけられてきましたが、その意味は自分自らが情報や行動を選択するということだけに留まるのではなく、自分独自の情報の整理の仕方を身につけるという内面の働きにこそ注目されなければなりません。それこそが個性を確立するということではないでしょうか。

 さて、幼児教育において「遊びを通して学ぶ」のもう一つのキーワードは「集団性」にあると考えます。幼稚園における幼児教育の中心は集団との関わりにおいて育ちあうということに尽きます。さきほど「自分にとって意味ある情報」と示しましたが、集団の中における自分の存在を意識する度合いに応じてその「意味ある内容」は変化していきます。個の確立と社会性の育ちは密接に関係しますが、「集団を通しての学び」のスタートはいつがいいのかは、かねてから論議されてきました。最近では十年前、2歳児特区の検証がなされ、4年保育は、幼稚園教育の集団性にまだなじまないとの考察があり、満3歳児からが幼稚園教育のスタートであると位置づけられました。乳児期及び幼児前期が愛着形成を基礎とした情緒の安定や他者への信頼感が醸成される時期であることを考えれば、小さな子どもが無防備に集団の中に放り出されることは、十分に注意しなければなりません。発達で言えば未分化から分化を進めていく中で、どの段階で集団に馴染んでいくのが好ましいかという考察はまだまだ体系的に出来ていないと思われます。就学教育との比較において幼児教育を語ってきた私たちは、これからは同時に集団性をキーワードに幼児教育の持つ本来の「集団性」在り方を深く研究する必要があるのではないでしょうか。よく聞く話に「2歳児保育を経験したものは3歳児の保育が楽になる」というものがあります。この論議で言えば、「0歳児保育を受けたものは1歳児の保育が楽になる」という主張に繋がり、早く集団の中での保育をすべき、となってしまいます。果たして一生を通しての人間の成長を考えるとき、表面的に集団に馴染むという姿が本当に発達課題をクリアしているかどうかを慎重に考察・検証していくことが大切であります。新制度の大きな混乱の中、幼児教育の入口と出口についてしっかりと加盟園の皆様と論議ができればと考えています。

 連盟では、プレイパーク(教職員運動会)研究事業を整理し、新しく0~2歳児の育ちを考える研修会をスタートさせました。くれぐれも、3~5歳の幼児教育の延長線で安易な3歳児の保育内容を押し下げた0~2歳児保育にならないよう、注意したいものです。

待機児童現象 ~自立した日本の未来のために~

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 藤本 明弘

 待機児童の問題が連日のようにマスコミで取り上げられています。当初の国の予測では平成29年度をピークに待機児童は解消する見込みでしたが、今のところとどまる気配すらありません。京都府内でも待機児童解消のために保育所を新設したり、定員増を図ったり、小規模保育所を新設したりする市町村も少なくありません。そのような中、私たち私立幼稚園も預かり保育の拡充などにより一定の役割を担っていく責任を自覚する必要があることは言うまでもありません。

 しかしながら受け皿の拡大に伴い、保育士の確保が困難さを極めています。各地で保育士の処遇改善の施策が進められていますが、それにもかかわらず保育士不足はもはや都会だけではとどまらず、全国的な広がりをみせ深刻化しています。首都圏の保育所や全国展開をしている大手の事業所の中には、北海道から沖縄までの全国津々浦々の養成校を対象として、猛烈な求人活動を展開している法人もあるようです。

 保育サービスは受け皿や補助制度が整備・充実すればするほど、それならば我が子も小さい年齢から長時間預かってもらいたいという家庭が必要以上に増えるのは当たり前のことで、低年齢からの需要はますます高まるばかりです。言い換えれば保育サービスの整備・充実は、潜在ニーズを同時に次々と掘り起こしているのです。また、小規模保育所を増設する対応策は、差し当たっての急場しのぎにはなるものの、3歳からの受け皿が急激に不足する問題も同時に産み出しています。

 このようにますます出口の見えないスパイラルに入り込んでしまうのは、待機児童に対する施策が対処療法であり、後追い策であるからです。保育士の処遇改善も大切ですが、本当に処遇が改善されるべきなのは、子どもとその保護者ではないでしょうか。

 そして何よりの問題点は待機児童は問題ではなく、現象であるということです。本当に本気で取り組むべきは、待機児童現象を産み出している根源を解消する施策であり、この事実に対する国民的コンセンサスです。
具体的には待機児童現象の解決方法を保育の量の拡充に頼りすぎているのが現状施策です。そのために待機児童現象を保育現場で吸収するべく行政は動いていますが、問題の根源は受け皿の不足だけではありません。

 そもそも待機児童が生まれないようにするための施策が決定的に不十分です。幼い子どもをもつ保護者の働き方を抜本的に解決することが何よりも必要であり、そのために企業・事業所の協力や理解を得て短時間労働が実現しない限り、待機児童現象は解消しません。つまり量の拡充ばかりに多額の税金を使うのではなく、幼い子どもを持つ保護者や子育てに協力する企業・事業所に補助金を打つべきです。

 その上で保育サービスは、本当に保育を必要とする家庭に手厚く施されるべきで、いたずらに潜在ニーズを掘り起こすことは、「自立した子育て」の大きな妨げになります。子育てを依存するばかりでなく、悩み迷いながらも自立した意識の中で行うからこそ、子どもも親も主体的な人に育っていくのです。社会の中で自分の力で自分なりの幸せを見つけていける人は自立した人に他なりません。

 日本の未来を担っていく子どもが、喜びと誇りを持って大人たちからバトンを主体的に受け取れるか否か、まさに大きな転機を迎えているのではないでしょうか。私立幼稚園は子どもの立場から社会発信できる最後の砦なのです。

所   感

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
理事長 田中 雅道

 新年度を迎え、園庭には新入園児の泣き声や元気に走り回る進級児の姿が溢れ活気に満ち溢れていることと思います。

 従来、幼稚園は満3歳以上の子どもたちを集団で教育し、それぞれの子どもの学びを深めることを目的として保育を行ってきました。今年、その機能に加えて誕生から小学校入学までの全ての子どもたちに、家庭における教育をサポートする役割が期待されています。

 幼児の育ちにとって、家庭は安定した存在であり、子どもの心の安定に必要不可欠なものです。それぞれの家庭で営まれる教育に関して、従来、国は踏み込まない方針を持っていました。ですから養育機能を持っていない家庭への支援としての保育所が必要であると考えていました。
幼児を育てる三本の柱である、家庭の教育、地域の教育、幼稚園の教育のそれぞれを独立したものとして考えてきましたが、これからは家庭の教育機能、地域の教育機能をサポートする役割を幼稚園に期待する声が上がってきています。子どもが生まれれば気軽に幼稚園に出入りし、家庭の教育に対しての援助をしてもらえるという安心感を与えてあげる機能が幼稚園に求められているのです。これからの新しい幼稚園像を目指してそれぞれの幼稚園が地域に必要な機関としての役割にチャレンジして頂くことを期待しています。

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟の振興について

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
振興担当副理事長 中浦 正音

 日頃より当連盟の振興活動に御協力賜り有難うございます。平成27年6月の総会にて振興担当副理事長を拝命し、久しぶりに連盟の事業に関わる事になり、約9カ月が経ちました。体力的に8年のブランクは大きいと感じますが、それ以上に痛感するのは、私立幼稚園を取り巻く環境が混沌とし、本当に厳しくなってきたという事です。振興活動についても以前は加盟園が心一つに、教育環境の充実・教職員の処遇の改善・保護者負担の軽減を柱とした運動が展開できました。しかし今日では新制度のもとそれぞれの園が独自の将来設計をする必要があり、その方向性によって陳情する先やその内容も異なってきます。京都府下各地における地域ニーズ、それに応える私立幼稚園の役割、そして市町村の考え方が多様である為、一つのモデルケースを提示して一丸となって進むことも困難となってきています。結局は各園が自己責任において将来の道を模索することになると思われますが、新制度がスタートして1年が経とうとする今、全国的な制度移行の現状の分析を共有し、少なくとも市町村単位で心を同じくする仲間との連携が不可欠であると思います。その中で、どの道を進もうとも、「こどもがまんなか」を堅持し、私学の独自性と、保護者と共に歩むという私立幼稚園のアイデンティティーは共有していきたいものです。

 
さて、当連盟も平成27年度、様々な振興事業が行われました。振り返りますと、
①園児大会の開催
植物園での中央園児大会をはじめ、5地区での園児大会が今年も盛大に開催されました。特筆すべきは今年度も山田知事様が公務ご多用の中、日程を最優先に調整頂き4つの大会に直接御参加下さったことです。他の都道府県では考えられないことであります。この大会で園児たちの笑顔に触れ合って頂き、保護者の方々の姿を見て頂く事で改めて、未来の希望は子どもの育ちにあり、社会の宝は子育てに頑張っておられる保護者であると再確認して頂いているのではないでしょうか。全国NO1にランクされる私立幼稚園に対する補助制度や、全国に先駆け第3子無償化にお取組み頂いていることはその表れでありましょう。平成28年度は京都府で全国育樹祭が開催されますが、全ての園児大会をその記念行事として行い、環境について考えると共に、持続可能な社会を子ども達に引き渡す責任を胸に刻む有意義なものにしていきたいと思います。

 
②かいが展
私立幼稚園の素晴らしさを社会に発信する事業として本年度も1月28日~2月2日の期間、髙島屋グランドホールにて「かいが展」を開催させて頂きました。入場者は昨年度より多く、16,000名に及ばんとする盛況でありました。「こどもがまんなか~笑顔を未来につなげよう~さあ出航」をテーマに、来場者の皆様に笑顔と希望をプレゼントすると共に、私立幼稚園の多様性を発信出来たのではないかと存じます。今年度は例年開催している保護者向けミニ講座の他、未就園の小さな子ども達も楽しめるアクアリウム(自分の描いた絵が海の中を泳ぎまわるコーナー)や、養成大学の学生さんを対象としたワークショップ等も開催し、好評でした。これからも広く未就園児子育て家庭や幼稚園教諭を目指される学生さんをはじめ、多くの皆様に私立幼稚園の素晴らしさをアピールして参りたいと思います。来年度のテーマは「こどもがまんなか~つながるこころが未来をつくる~」で準備を始めております。ご協力の程お願い致します。

 
③府PTA連合会との連携・協力
10年前に改正された新教育基本法には「家庭教育」「幼児教育」の充実が明示されました。私立幼稚園の目指すべき方向性は充実した家庭教育と連携して、集団を通して培われる育ちを担う所にあるのではないでしょうか。家庭教育の充実を支援する為、今年度も府PTA連合会と連携し、様々なネットワーク作りや保護者の方々の学びの場の提供を図ってまいりました。連盟の事業であるキンダーカウンセラー事業や親子関係研究所事業「ぬくもり」の発刊もその一環であります。次年度以降もPTAとスクラムを組み、共に育ち合う関係を大切にしていきたいと思います。

 
④子育て支援事業
私立幼稚園は地域の子育てステーションの役割を充実して参りました。その社会的ニーズは今後益々増大すると思われます。京都府におかれましては「未入園児一時保育事業費補助金」等で御支援を頂いておりますし、連盟としても各地区未就園児親子交流事業への協力を実施しております。全日私幼連が現在成立に向けて運動を推進しております「幼児教育振興法(仮称)」においてしっかりと私立幼稚園がこの分野において果たすべき法的根拠を明確にし、公的支援の質・量の拡大を目指して参りたいと存じます。社会的ニーズを私立幼稚園がしっかりと対応すると共に、これらの取り組みを通して私立幼稚園ファンの輪を拡げる事が、喫緊の課題であると思います。

 
⑤教員確保
私立幼稚園において、そのほかにも課題が山積しています。特に全国的に叫ばれている保育士不足でありますが、その余波を受けて幼稚園教諭の採用難の時代が訪れています。各園が処遇改善を目指す必要がありますが、その為の公的支援が不可欠であります。保育所においては国の処遇改善政策がダイレクトに反映されるのに比べて、私立幼稚園の補助制度はこういった点が弱いように思われますので、この点も要望して参りたいと存じます。
連盟としては、短期的には上原理事長時代よりスタートした「わくわくリワーク事業」の充実を図っております。中長期的には藤本理事長時代よりスタートした高校生幼稚園教諭体験事業の充実も必要です。中学生の職場体験事業でしっかりと私立幼稚園ファンを作り、高校生になりこの事業に参加し、進学において幼稚園教諭の道へ進む気持ちを持ってもらう機会となる事を願います。

 
⑥情報交換
もう一点、やはり大きな課題は新制度の中でどの道に進むのかを悩まれている加盟園の皆様に対する情報提供でありましょう。府下設置者園長会での論議や市町村対策委員会の開催を通しての情報交換は必要不可欠で、次年度以降より充実を図ります。6月の総会等の機会を通して全日本私立幼稚園連合会の認定こども委員会の先生の講演会も予定しておりますので是非とも御参加下さい。

 
⑦私学振興会との連携
最後に、改めて振興事業を振り返りますと、一つ一つの事業が私立幼稚園の未来を支える為に不可欠である事、そしてそれらは密接に関連していることが解ります。そしてこれらの事業を充実するには大きな資金が必要となります。京都府におかれましては、各幼稚園への助成の他、連盟に対しても大きな御支援を頂いているところで心より感謝を申し上げます。対応しなければならない新しい課題もあり、更なる団体補助についてもお願いできればと考えます。もう一点、公益財団法人京都私学振興会の大きなバックアップについて触れなければなりません。京都の私学関係者、特に中学高校の先人達が未来の私学振興の為に立ち上げられたのが振興会です。現在その振興会により多額の支援金を頂いてこれらの振興事業は実施されています。連盟会員一同、振興会に対して感謝の念を持つと共に、私達自身が、未来の私立幼稚園の為に何が残せるかをしっかりと考える事も大切であると思うのです。

年 頭 所 感

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
理事長 田中 雅道

 明けましておめでとうございます。本年が皆様方にとりまして良き年となりますことをお祈り申し上げます。

 OECD諸国は、幼児期からの教育環境の充実を国家戦略として掲げ、幼稚園をスタートとして義務教育年齢の学びを繋ぐ教育体制強化を重視した人材育成を急いでいます。乳幼児期の良質な教育環境が、その子の将来にとって非常に重要であるという知見に大きな影響を受けているのです。生まれたての子どもは、母性に育まれながら育っていきます。何もできなかった赤ちゃんが、様々な刺激を受けて育っていきます。その過程で最も重視されなければならないのが、自然に触れたり、人と触れ合ったりできる良質な環境の充実です。子どもが、自分の力で周囲の事象を体系化し、自己の中に取り込んでいく過程が非常に重要なのです。単に教え込まれて「できる」ようになればいいというのではありません。

 自分の力で世界を広げていくには、子どもが「不思議だな」「おもしろいな」と思って主体的に関わっていける良質な空間が必要です。そして、その空間に良質な保育者が包み込むように見守って、自分の世界を広げていく子どもの育ちを支えていくことが重要なのです。OECD諸国は、このような視点から幼児教育環境を整備し、真の意味での幼児期からの知的教育充実を国家戦力として行っています。

 大人が働く環境を整備することも重要ですが、大人の都合で子どもが振り回されてはなりません。日本の子どもをどのように育てるのかという発達の視点からの議論が起こらないと、日本は、世界の歴史の中で20世紀に栄えた過去の国になってしまうのではないでしょうか。幼児教育の充実が子どもの将来のために、今、大人ができる最大の責務です

新制度がスタートして半年

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 中浦 正音

「子ども・子育て支援新制度」がスタートして約半年。全国の私立幼稚園の新制度への移行状況は、8124の私立幼稚園のうち幼保連携型認定子ども園が813園(10%)、幼稚園型認定子ども園が560園(6.9%)、幼稚園として新制度へ移行した園が511園(6.3%)。そして移行しなかった園が6221園(77.6%)でありました。都道府県別では8割が移行した茨城県を筆頭に、秋田県・宮崎県・滋賀県等8県が5割を越えて移行しています。京都府は奈良県に次いで全国で2番目に低い移行率(2.5%)となっています。次年度に新制度への移行を希望する園についても他の都道府県に比べてかなり少ない状況であると聞いています。

 京都府において移行園が少ない理由として、私立幼稚園に対して深い御理解をお持ち頂いている山田啓二知事様のもと、京都府が全国NO1の運営費助成の施策をしていただいている事があるでしょう。又、移行後の行政指導のあり方や給付制度・事務手続き・選考過程等がまだまだ不明確であり、教育環境や私学の独自性が担保されるのか、本当に子どもの為となる制度なのかという不安が大きいと思われます。移行率の高い地域では県より政策誘導等があった様に聞きましたが、じっくりと考える猶予を与えて頂いていることは有難い事であります。新制度に移行した園より全日本私立幼稚園連合会認定子ども園委員会に寄せられている主だった問題点は次の様なものです。

(1) 市町村における新制度への理解不足及び消極的な姿勢
(2) 福祉部局が窓口になっている為、すべてにおいて保育所行政が立脚点
(3) 市町村の取り組みの格差が激しく、広域利用もある私立幼稚園への大きな混乱
(4) 施設給付型になったことで自由裁量の部分が減り、私学独自性への将来不安
(5) 制度移行の混乱の中で給付費の支給遅れや予算確定の困難さ
(6) 入園選考の自由性や入園確定時期の遅れ
(7) 同一施設内における1号・2号・3号の制度格差
(8) 職員配置・職員研修の困難さ
(9) 満3歳児未満の保育研究の準備不足

 これらを始め色々な問題点が浮彫りになってきていますが、やはり新制度移行後1年経過しなければ本当のところは解らない状況だと思われます。
新制度に移行するか否かは、結局のところそれぞれの園の自己責任において決める事でありましょうが、その為にも連盟として情報を集め加盟園にその判断が出来る材料を提供して参りたいと思います。また、これ程市町村の格差(積極的に取り組み新制度導入を図るところから全く無関心な市町村まで)がある現状では、加盟園が希望しても新制度に移行出来ないという事がない様に、団体として市町村への働きかけも必要になってくるかと思います。私立幼稚園のまま存続するという選択肢も含めて、その地域・その園・そして何より子ども達にとって最善の選択が為される事を願ってやみません。

幼児教育振興法(仮称)の早期制定を求める 全国集会 ~幼児教育振興法(仮称)の早期制定に向けて~

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
財務担当理事 川名 マミ

 平成27年9月17日に全日本私立幼稚園PTA連合会および全日本私立幼稚園連合会共催の全国集会に参加してきました。

当日は
下村  博文 文部科学大臣(9月17日現在)
中曽根 弘文 自由民主党幼児教育議員連盟 会長
山本  順三 自由民主党文教制度調査会幼児教育小委員会会長
遠藤  利明 国務大臣:東京オリンピック・パラリンピック担当
橋本  聖子 参議院文教科学委員
山谷 えりこ 国務大臣:国家公安委員会委員長・拉致問題担当 他数名をお迎えし開催されました。

ご来賓のご挨拶の中で、中曽根 弘文 幼児教育議員連盟会長の幼児教育振興法(仮称)の制定により幼児教育を国家戦略として位置付けるとの力強いご挨拶をお聞きし、アメリカのヘックマン(経済学者)の「4歳5歳でどれだけ良質な教育を受けるかがその子の将来を決めることになり、将来、税金を納めるか、使うかの差ができるほどである。幼児教育にかける費用は経費ではなく投資である。」という論理に基づいてのお話を思い浮かべました。幼児教育の振興についての概要は次の通りです。

1.基本的な考え方

 ・幼児期の教育(幼児に対する教育を意味し、幼児が生活するすべての場所において行われる教育を総称したもので、具体的には幼稚園、保育所、認定こども園などにおける教育、地域における教育を含む広がりを持った概念としてとらえる。以下「幼児教育」という。)は生涯にわたる人格形成の基礎を培う非常に重要なもの。
・質の高い幼児教育は、好奇心などに溢れる心豊かな子どもを育て、健全で安定した社会を想像することにつながるため、国家戦略の一環として取組み、幼児教育分野への思い切った重点的な資源投入が必要。

幼児教育の振興方策

 (1)幼児教育の質の向上
① 幼児教育の内容の充実と小学校教育との円滑な接続
② 教員・保育士等の資質向上及び計画的な人材確保
③ 幼児教育に関する適正な評価システムの導入
④ 幼児教育に関する研究拠点の整備、実証的な調査研究の推進

(2)質の高い幼児教育の提供体制の確保
① 地方自治体等における幼児教育の推進体制の整備
② 障害のある子どもへの適切な支援体制の整備
③ 家庭や地域の教育力の向上

(3)幼児教育の段階的無償化の推進

(4)幼児教育の充実のための財政支援の充実

(5)子ども子育て支援新制度の検証

(6)幼児教育振興法(仮称)の制定

 また、中曽根 弘文 幼児教育議員連盟会長は上記の概要をペーパーを見ることなくすべて口頭で挙げて、これらの事を文部科学部会幼児教育小委員会で検討し実現に向けて邁進すると述べておられました。

京都では幼児教育振興法(仮称)のお話しは機会があるたびに田中雅道理事長からうかがっていましたが、正直なところここまで話が進んでいるとは思っていませんでした。が、全国集会に参加して、幼児教育振興法の実現に向けて全日本私立幼稚園連合会の努力と並々ならぬ意気込みを感じました。
各園での署名活動も始まりましたが、我が事として取り組んでいかなくてはならないと再認識しました。連盟加盟園の皆様方にもご協力のほどよろしくお願いいたします。

本 物 の 新 制 度

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
総務担当副理事長 藤本明弘

 新制度が始まり半年が経過しました。この制度を総合的に判断するには今しばらくの時間が必要です。とは言え各幼稚園はこの間何もしなくてよいという訳ではなく、様々な視点から自園の歩む道を模索する必要があることは言うまでもありません。

 しかしながらこの状況の中ではっきりとした将来像を描くことは困難を極めます。だからこそ先ずは自園を冷静に分析し、地域や保護者から何を求められているのか。願う子どもの育ちの具体的な姿とその理由は何なのか。などなど挙げ出すときりがありませんが、突き詰めると「私立幼稚園としてこれから何を大切にし、何を切り捨てるのか。」というところに集約されるのかもしれません。

 私学としての独自性は守り抜くべき。子どもの育ちを何よりも重視すべき。我が子の側にいたいという保護者の思いに寄り添うべき…。こういった思いを持った先生方がいる一方で、理想だけでなくまずは安定した経営基盤を作ることが重要。3歳まで待っていたら地域に子どもが残っていない。受け入れ年齢の枠や保育時間を広げないとどうしようもない。母親が働くことが今後ますます加速する現実に目を向けるべき…。こういった考えを持つ先生方もおられることでしょう。

 このどちらが正解で片方が間違っているという単純な話ではなく、更に地域の中には行政があり、保育所も存在しているという現実があります。それだけに益々出口が見えづらくなっていることは間違いないでしょうが、保育所ですら定員割れしている地域は別として、今の時点で特に幼保連携型や小規模保育事業に乗り出すことは、今までの自由観あふれる私立幼稚園とは一線を画す施設となり、異なる価値観を持つ保護者が入ることは覚悟すべきであると感じます。

 その理由は言うまでもないことですが、これらは完全な福祉行政の中で義務的にサービスとして実施される事業であり、実施するのは園ですが主体はあくまでも行政であるということです。つまり開所日数や時間の決定権はもちろんのこと、入園決定に関しても保護ではなくあくまでも福祉事務所が決定権を持っています。

 この状況の中で多くの幼稚園が新制度に参入することは、私立幼稚園の持つ主体的で自由観あふれる魅力的で豊かな環境や、家庭との信頼関係に大きな歪を産み出すことにつながることは残念ながら否定できません。保育サービスの傘下に入る幼稚園が多くなれば多くなるほど、子どもの側に寄り添った私たちの声は行政には届かなくなるでしょう。

 働き方の見直しをせずに親子を引き離してばかりの肩代わり支援ではなく、親子がともに育ちあう本当の「子育ての支援」を組織として訴えることができるのはもはや京都だけです。care(福祉施策)からeducation(幼児教育施策)への転換。これが世界の先進諸国の潮流です。本物の新制度の確立は一人一人が責任を負っているのです。

幼稚園からの学びを繋ぐ

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
理事長 田中雅道

 平成30年度に向けて幼稚園教育要領改訂の作業が始まっています。現在ある職業の中で20年後も続いている職業は50%であるという命題を前提として、“新しい世界の中でも輝き続ける日本であるためにはどのような教育が必要か”が真剣に議論されています。

 従来、日本の教育は、“学校で先生が教えた内容をどれだけ正確に理解しているか”を学力の基準として学校教育を組み立ててきました。新しいアイデアを持った子どもよりも、教えられた知識を多く持った子どもを“良”としてきたのです。ところが、従来の知識を使って問題を解くというレベルは、コンピューターの進歩によって人間の仕事ではなくなりつつあるのです。従来の学力だけではロボットやコンピューターに職を奪われてしまうという現実を真摯に受け止めなくてはならない時代なのです。OECDが提案する問題解決型学力は、このような先進国の課題を克服するために新しく考え出された学力観です。

従来の学力から脱皮するにはどのような教育が必要かという問いを、先進各国はもう20年以上にわたって事例を集めて研究してきました。そのデータはどれもが“幼児教育の充実”が一番有効であり、すべての国民が良質な幼児教育を受けることが最も重要な教育的課題であるという認識が広がってきています。

IEA(国際教育到達度評価学会)では世界10ヶ国で4歳児の幼児教育環境を分析し、調査対象の子どもたちを20年間追跡しました。その結果、良質な幼児教育を受けた群は15歳での学力が高く、良質な幼児教育を受けていない群は、23歳時点での犯罪率が高く、他者からの信頼を得られていない状況が報告されています。良い幼稚園で幼児期を過ごすことは、その子の人生を大きく左右することが分かってきたのです。園庭など多彩な環境で主体的な遊びが展開できること、良い先生に出会うことが重要です。学力のみならず社会安定の為、幼稚園教育に重点的に資源配分する国が増えているのです。幼稚園教育の質を上げることは、これからの京都(日本)を支えていく上で最も重要な課題となっているのです。

 縁あって、20年ぶりに伝統ある京都府私立幼稚園連盟理事長を再度拝命しました。京都の子どもたちが、幸せな人生を歩めるよう皆様方と一緒に頑張っていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。