巻頭言

『一年の節目にあたって』

(社)京都府私立幼稚園連盟
理事長 藤本 明弘

 早いもので平成23年度も終了の時を迎えます。改めて会員の皆様のご理解・ご協力に対しまして心より厚く御礼を申し上げます。

 さて、大震災も発生してから1年が経過しましたが、被災地の復興はまだまだ非常に厳しいのが現状です。しかしそんな中にあっても、子ども達のことを思い、前を向いて保育をされている幼稚園がたくさんあります。
 1年経ったから支援・応援はもう終わりではなく、これからが本当に大切であることをこれを機に皆さんと共有したいと思います。

 そこで今回は、(財)全日私幼研究機構の幼児教育実践学会においても大震災に関する意見発表を積極的にされ、今回の「ぬくもり」の取材にもご協力をいただいた福島県いわき市「ほうとく幼稚園」の生駒恭子副園長先生からのメッセージをご紹介させていただきます。

『いつだって・・・お母さん、お父さんの苦悩は勇気に変わる・・・。』

ほうとく幼稚園
副園長 生 駒 恭 子

◆恐ろしいことが起こりました 平成23年3月11日午後2時46分地震発生。まもなく、津波襲来。同日午後7時03分緊急事態宣言。翌日3月12日午後3時36分水素爆発。福島の人々の暮らしが根底から変わりました。

  この日からまもなく1年を迎えようとしています。日本中の皆様の温かい善意を頂き福島の子どもと大人が一歩一歩あらたな暮らしを創る努力を始めました。この紙面をお借りし心より御礼申し上げます。

◆お外にでられなくて嫌ですね 幼稚園に届けられた義捐金に添えられたかわいい何通もの手紙を子どもたちに読んでいくと「先生、遠くに友だちがいるってなんだかドキドキするね!」「本当だね、ドキドキするね」「どうしてそう思ったの?」「だってね、お外で遊べなくてやだな~って思っていることを遠いのに知っててくれたから」そんなやり取りが5歳児のクラスで交わされました。

子ども達との会話を聞きながら手紙を寄せてくださったそのお子さんとお母様の姿が浮かんでくるようでした。福島のことをどのようにお母さんは語ってくださったのでしょうか。その、文字に込められた「ことば」に触れた子どもや保育者、保護者が「遠くにいる友達」を感じ、絶えず、同じ子どもをもつ多くの保護者の皆様が福島で起きていること、そしてそこで苦悩し子どもと暮していることを自分のこととして考え思案してくださることが、どれほど福島の子どもと大人を元気付けてくれたか知れません。

◆怯え続けることがどんなに切ないか・・・放射能の問題はこれから30年にも渡って私達と共にある問題となりました。事故発生当初、避難を余儀なくされた家族、自主的避難を選択した家族、福島に暮らすことを選択した家族、様々な家族の苦悩を私たち保育者はそばで共にしてきました。放射能汚染と言う初めて経験する事態にどの選択をした家族も苦悩の選択をしてきました。

福島で暮らすことを選択しつつも本当に福島で子育てすることが良いのか、福島で保育することへの罪悪感すら心をかすめました。しかし、子どもと共に暮らす中で私たち大人は子どもの生き生きしさに心を奪われずにいられませんでした。怯え続ける辛さより子どもと共に生きることの努力をとめないことを選択できるようになりました。

◆子どもを愛さずにいられない 日々の子どもの暮らしに目を向けるとそこにはユニークでそして仲間と豊かな発見に満ちて遊ぶ姿がちりばめられていました。支援物資でのお店屋さんごっこ、沢山のミネラルウォーターでお水やさん、野菜の切れ端で水耕栽培・・・そこからの様々なアクシデントと発展!そこには環境を受け止めあらたに変えていく子どもの生きる力が感じ取れました。

子どものしぐさ、言葉・行動に私たち大人は目を奪われ心を揺さぶられずにはいられませんでした。あたり前の日々の暮らしの些細なこと、家族として、親として子どもと暮らす喜びを大切にしたいとみんなが思っています。

◆放射NOバスターズ! 戸外での活動を制限せざるを得ない中、10月の運動会シーズンを迎え大人たちの「放射能ブルー」をよそに子どもたちは「どうやったら外で運動会が出来るのか」を私たちに問いかけてきました。

子どもの問いは、「今、私たちのために何をしてくれるの?!」と突き詰められた思いがしました。全園児保護者・OBが集まり運動会一日のための除染作業「放射NOバスターズ」を決行。「子どもと今に生きる」ことを大人たちが誇りと思えるよう変化しています。

<御礼>
  (社)京都府私立幼稚園連盟の関係者の皆様には東日本大震災が発生して以来、本当にたくさんのご支援、ご協力を頂戴し、誠にありがとうございました。特に義援金活動に関しましては度重なるお願いに対して、とても温かいお気持ちを頂き、心より厚く御礼申し上げます。

  京私幼連盟としての平成23年度の一斉義援金活動は一旦終了させていただきますが、次年度以降も皆様方の温かいご理解・ご協力・ご支援の程、何卒よろしくお願い申し上げます。