巻頭言

子ども・子育て新制度・幼児教育の無償化について

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
理事長 藤本明弘

 第一回目となる国の「子ども・子育て会議」が4月26日に開催され、京都府においても地方版の会議の設置のための条例案がいよいよこの6月府議会に提案される見通しです。それに先立ち京都市では既に5月の京都市議会に条例案が提出されました。このように京都府内のみならず今後は全国の様々な市町村で動きが出始めることになります。
 当初は国レベルでの「子ども・子育て会議」が一定の方向性や結論を示してから、地方版がそれに沿った形で進められることが予測されていましたが、ニーズ調査の内容も含めて都道府県や市町村ごとに議論の方向性が異なる可能性が出てきました。もちろん子どもの成長・発達の視点が重視され、地域の特色が生かされるならば結構なことですが、親の就労支援ばかりに偏った方向にすすむことが危惧されます。
 このようにいよいよ子ども・子育て3法が実際に動き始めていますが、今後の京私幼の加盟園が進むべき道を模索していくためにも、改めて問題点を整理したいと思います。

<基本的スタンス>

1.子ども・子育て関連3法は、「総合こども園」構想、株式会社の参入など、廃案となったものの、我が国の教育制度の流れと大きく矛盾する考えに基づき法案化されたものであり、子どもの最善の利益を保証する立場を最重要視する私立幼稚園としては、根本的に受け入れることは出来ない。(昨年の3月30日に提出された法案に対しては全日本私立幼稚園連合会と全私学連合は反対を表明している。)
2.少子社会、待機児童は社会問題ではなく、これは社会現象である。本当に解決すべき問題や根本的な原因は目に見えないところに存在することを認識し、そこに真剣に政策をうたない限り、受け入れ枠を増やす方策ではいつまでたっても根本的な解決はしない。
3.子育て世帯が仕事に出るばかりではなく、ある一定期間は家庭で育児に専念できる社会を目指すべきである。その意味において今回の制度改革は極めて近視眼的で、場当たり的なものであり、すべてのしわ寄せは幼い子ども達や保護者や教育現場に向けられていることを国家として正面から認識すべきである。この影響が子ども達が成長する過程で我が国の将来に必ず歪となって、社会全体に重くのしかかることに責任をもって目を向けるべきである。
4.幼児期の教育は人格の形成の基礎を培っており、生涯に渡る生きる力の基礎を育む極めて重要な役割を果たしている。それだけにその教育効果はテストなどにより数値化できるものではなく、また決して短期間で成果を生むものではない。であるからこそOECD諸国は国家が責任を持ち、重要施策として質の高い環境のもと乳幼児期を過ごすことを国家として保障している。新制度の設置基準において現状の基準を下回るような特例が認められることがあってはならないと考える。
5.我が国の学校教育体系は「学校教育法」ならびに、その根幹法である「教育基本法」により子どもの発達段階に沿って定められている。今回の新制度における「教育基本法」第6条の適応は、幼児期のみならず、国家としての学校教育体系の全体を二分化する大問題である。従って本来であれば、広く教育現場の意見に耳を傾けながら、中教審などで慎重に議論されるべき極めて重要な内容である。今回のような結果ありきの乱暴な手続きは極めて遺憾であり、法律により整備されたとは到底理解しがたい。
6.幼児教育、学校教育、教育という用語が安易に各方面で用いられることは、保護者を含め社会全体に大きな混乱・誤解を生み、結果として幼児教育の質の低下を招く危険性を非常に多く含んでいる。従来より我が国の学校教育を担い、法体系を遵守してきた私立幼稚園としては、この度法律で定められたということだけで、これらの用語が安易に用いられることは容認しがたい。
7.「子ども・子育て支援新制度」の施設型給付の水準が明らかにされていない状況であるが、経過を見る限り公私幼保間の格差が是正されない方向で制度設計が議論されており、まずは公平な土壌を整えるべきである。

<今後の幼稚園の4つ選択肢>

  • 従来通りの幼稚園
    届け出が必要、従来通りの補助体系(私学助成、就園奨励費)

  • 施設型給付の幼稚園
    届けないと自動的に施設型となる、財政措置は施設型給付(市町村)による、保育料は市町村が設定する公定価格が基本となる、預かり保育の補助金は私学助成からは出ない

  • 改正幼保連携型認定こども園
    根拠法は認定こども園法となり、学校教育法の1条項に定められた学校ではなくなる、財政措置は施設型給付(市町村)が基本、保育料は市町村が設定する公定価格、幼稚園部分の預かり保育には補助は出ない、幼保育連携型と言いながら実質的に従来の幼稚園ではなくなる

  • 改正幼稚園型認定こども園
    施設体系は現行通りだが、財政措置は施設型給付(市町村)となる、保育料は市町村が設定する公定価格が基本となる、預かり保育の補助金は運営費補助金給付の対象とならず、しかも私学助成の預かり保育の補助からも外れる

 上記の通り、施設型給付を受ける幼稚園に移行するメリットは見当たらず、選択肢とは考えにくい。改正認定こども園は全ての類型が施設型給付となるのが最大の改正点であり、それにより幼稚園型であっても預かり保育に補助は打たれない、このため幼稚園型を施設型給付の外に出すか、安心子ども基金から補助を出す等の運動が必要である。また他にも以下の問題点が挙げられる。

  • 公定価格→国庫補助金は担保されるものの、地方交付税は一般財源化され市町村間で格差が生じる可能性が大きく、不安定な上、現状の保育料を上回ることは考えにくい。
  • 施設型給付→経営基盤を保証する考えではなく、あくまでも単価設定のため小規模園はかなり厳しくなる。将来的な施設整備費も支給されない見通し。
  • 民間保育所→基本的に従来通り、改正認定こども園に移行することは考えにくい。

 このように新制度には多くの問題が山積しており、「幼児教育の無償化」の実現のための運動展開が極めて重要であることが今まで以上に明確となってきています。そのことは私立幼稚園が全ての子ども達を受け入れるという幼稚園のユニバーサル化も意味しています。継承しつつも今日的な社会の要請に責任をもって応えていく必要もあることは間違いありません。京都方式の子育てシステムの創設に向け、皆様の更なるご理解・ご協力を心よりお願い申し上げます。
(今回は特集号のため合併号となりました)