巻頭言

集団を通して行われる幼児教育

公益社団法人 京都府私立幼稚園連盟
副理事長 中浦 正音

 新制度に移行して一年三ヶ月が過ぎ、各都道府県・市町村でそれぞれ違った歩みがあり、ますます混沌とした状況が今の日本の幼児教育の現場であります。認定子ども園等の平成27年度の行政監査がこの一年をかけて行われていきますが、その結果を見ながら全体像を把握していかなければなりません。京都府私立幼稚園連盟としては、これからも私学の独自性を守り、幼児教育の質を担保するというこの二点を柱に加盟園の皆様と進むべき道を談論風発、模索していきたいと思っています。今回は外形的な施設の形態云々というよりも保育理念、保育内容の視点から私見を述べさせていただきます。

 この数十年、幼稚園関係者は小学校以降の就学教育と幼児教育の根本的な違いを中心に幼稚園教育を語ることが多かったように思います。「学習」と「遊びを通しての学び」と整理してもいいでしょう。まだまだ未分化な状態である子どもにとっては、しっかりと整理・体系化された教科を中心として学習するよりも、むしろ混沌とした情報の中から自分にとって意味のある情報を自ら選び取り入れながらそれを類型化していく経験を積み重ねることのほうが大事であると考えます。主体的という言葉が幼児教育のキーワードであると位置づけられてきましたが、その意味は自分自らが情報や行動を選択するということだけに留まるのではなく、自分独自の情報の整理の仕方を身につけるという内面の働きにこそ注目されなければなりません。それこそが個性を確立するということではないでしょうか。

 さて、幼児教育において「遊びを通して学ぶ」のもう一つのキーワードは「集団性」にあると考えます。幼稚園における幼児教育の中心は集団との関わりにおいて育ちあうということに尽きます。さきほど「自分にとって意味ある情報」と示しましたが、集団の中における自分の存在を意識する度合いに応じてその「意味ある内容」は変化していきます。個の確立と社会性の育ちは密接に関係しますが、「集団を通しての学び」のスタートはいつがいいのかは、かねてから論議されてきました。最近では十年前、2歳児特区の検証がなされ、4年保育は、幼稚園教育の集団性にまだなじまないとの考察があり、満3歳児からが幼稚園教育のスタートであると位置づけられました。乳児期及び幼児前期が愛着形成を基礎とした情緒の安定や他者への信頼感が醸成される時期であることを考えれば、小さな子どもが無防備に集団の中に放り出されることは、十分に注意しなければなりません。発達で言えば未分化から分化を進めていく中で、どの段階で集団に馴染んでいくのが好ましいかという考察はまだまだ体系的に出来ていないと思われます。就学教育との比較において幼児教育を語ってきた私たちは、これからは同時に集団性をキーワードに幼児教育の持つ本来の「集団性」在り方を深く研究する必要があるのではないでしょうか。よく聞く話に「2歳児保育を経験したものは3歳児の保育が楽になる」というものがあります。この論議で言えば、「0歳児保育を受けたものは1歳児の保育が楽になる」という主張に繋がり、早く集団の中での保育をすべき、となってしまいます。果たして一生を通しての人間の成長を考えるとき、表面的に集団に馴染むという姿が本当に発達課題をクリアしているかどうかを慎重に考察・検証していくことが大切であります。新制度の大きな混乱の中、幼児教育の入口と出口についてしっかりと加盟園の皆様と論議ができればと考えています。

 連盟では、プレイパーク(教職員運動会)研究事業を整理し、新しく0~2歳児の育ちを考える研修会をスタートさせました。くれぐれも、3~5歳の幼児教育の延長線で安易な3歳児の保育内容を押し下げた0~2歳児保育にならないよう、注意したいものです。