輝く瞬間

【輝く瞬間】 2025年 5月

今宮幼稚園 園長 岸 省子

「せんせ…」と小さな声でつんつんと背中をつっつかれた。振り向くと年長の男の子「せんせ、あのねちょっと濡れてる」誰にも気づかれない声で囁くように私の耳元に顔をくっつけて「あんなちょっと間違えてな、ちょっと遅かっただけやねん」年長になり年少さんに優しく色々教えてあげたり、虫を見つけてあげたり、三輪車を譲ってあげてるうちにタイミングが合わなかった様である。彼の言い訳が続く。お兄さんになった彼のプライドが垣間見える。「そうなん、大丈夫だよ着替えようか」私と彼は友だちに気づかれず、そーっと二階のお部屋に行って着替えた。これは今のところ二人だけの秘密となった。すぐさま彼はまた園庭で楽しそうに遊びの続きに溶け込んでいった。

翌朝、しゃがんだ背中をつんつんと。「せんせ、これあげる!」見ると手の中に小さなお花が二つあった。両手の中に5cmもない葉っぱと青い花、つゆ草だった。「わぁ! 素敵ありがとう」私は喜びつつ、花の短さに戸惑いながらも「可愛い! これ、イヤリングにするわ」と両耳にそっと当てて「似合う?」と振り向いて聞いてみたが、彼はもうそこにいなかった。

知られたくない彼の秘密を守ったお礼なんだろうと理解した。彼が登園途中に見つけたつゆ草をペットボトルの蓋に水を入れ一つづつ浮かべてみた。五歳くらいでも気づかいをするんだなとお花を見ながら嬉しさでニタニタしている私。「つゆ草」を調べて分かった事があった。花言葉は「恋の心変わり」朝に咲いてお昼にはしぼむ花なのである。五歳の彼は知っているのだろうか。

彼が大きくなって素敵な人にプレゼントにするとして「つゆ草」はね! というのは野暮な話であるが、私の心はずっと温かいままである。そして秘密は未だに守っている。