新連載

「乳幼児のこころと発達 その3 ~心理療法について~」 3回シリーズ(3)

乳幼児のこころと発達 その3 ~心理療法について~

花園大学児童福祉学科 講師 藤森旭人

 今回はこれまでの「内的対象」と「こころの抱っこ」を踏まえて、心理療法について書いてみたいと思います。現在、スクールカウンセラーやキンダーカウンセラーが比較的身近な存在になり、心理療法やカウンセリングという言葉も耳にするようになられているのではないでしょうか。しかし、その具体的な方法、中身についてはあまり知られていないかもしれません。相談者の話に耳を傾けて「傾聴」したり、子どもと楽しく遊んで気持ちを発散したりすることで、問題が解消するといったイメージを持たれている先生もいらっしゃるかもしれません。

 私は精神分析と呼ばれる、こころの奥にあるであろう「無意識」を理解するという立場をとっています。来談者がこころの中に抱いている「内的対象」を捉えながら、彼らが抱いている気持ちを一緒に考えていきます。「今、ここで」起こっている私と来談者との関係は、「内的対象」が反映されたものだとして見ていくわけです。子どもの場合は遊びを通じて考えていくことになります。例えば幼稚園でも、タロウ君には「やさしい先生」として関わってこられ、タクヤ君には「鬼のように恐い先生」として関わってこられて、もしかしたら先生方も「私はそんなにやさしくも、怖くもないんやけどなあ」と違和感を持たれたことがあるかもしれません。これは、まさにその子の「内的対象」を通じて、先生を見ているからなのです。一般的に心理療法に連れてこられる子は、生活の中で何らかの問題がみられたり、不適応を起こしたりしていることが多く、周囲も対応に追われていることが多いのではないでしょうか。そして、あまり良好な「内的対象」がこころの中に存在しないことが多いのです。

 具体的に見てみましょう。幼稚園年中のタクヤ君は、友達にすぐに手を出してケガをさせたり、幼稚園の花子先生のお話も落ち着いて聞くことができません。注意をしても「うるさい、ババア」と、悪態をつくばかりです。でも、ひらがなが書けたり、計算もできるなど、学習の能力はあるようでした。ご両親に園での様子を報告しても、事態は一向に変わりません。困り果てた花子先生は一度心理療法を受けてみてはどうかとご両親に提案されました。そして、お母さんと2人で心理療法を行っているフジモリ先生のところへやってきました。フジモリ先生と2人になり、始めに「ここで、一緒にタクヤ君の思ってることを考えようと思うよ」と伝えると、「フジモリ?ふん、チャライねん」と言い、一人、人形で遊び始めました。フジモリ先生はおいてけぼりにされた感覚を抱き、とても寂しくなりました。どうやらタクヤ君のこころの中には自分の気持ちなんか聞いてくれない大人(内的対象)が存在していそうでした。そして相手にされずとても寂しい思いを抱いてきたのではないだろうかと想像しました。この気持ちを大人に理解してもらう(抱っこしてもらう)ことが必要だと想い、心理療法を続けていくことにしました。お母さん面接も並行して行われました。そこでは担当のサトウ先生に「私たちは忙しくて、全然タクヤの相手をしてあげられなかった。タクヤがいうことを聞かず、怒ってばかりきたんです」といったことが語られました。その後も、タクヤ君はフジモリ先生に悪態をつき続け、気持ちの交流を閉ざそうとする時間が続きました。それはまるでこころに鎧をまとって、小さく傷ついた子どものタクヤ君を守っているかのようでした。それでも関心を持って、タクヤ君の表現していることを見続け、タクヤ君が思っていそうな言葉をかけ続けます。すると、1年ぐらい経ってから人形遊びの中で、フジモリ先生と仲良く遊園地に遊びに行くタクヤ君を表現し始めました。また、寂しい子どもがお父さんと休みの日にキャッチボールをするという人形での表現も始めました。次第にタクヤ君はこころの中に「自分のことを考えてくれる大人」という存在を見つけました。こうして、タクヤ君の問題児の部分は抱えられて、幼稚園でも落ち着きがみられるようになりました。またお母さんも仕事を何とか減らし、タクヤ君に関わる時間を増やそうと努力するようになりました。

 このように、数年単位での長い取り組みが実を結ぶことも心理療法の特徴です。そして、心理療法は魔法のようなものではなく、じっくりと気持ちを考えるという作業であるため、子どもをとりまく大人との連携が不可欠であり、むしろ養育者や保育者との協働関係の中で子どものこころは発達していくものだと私は考えています。

 最後に、私が専門会員として所属しています「NPO法人子どもの心理療法支援会」(平井正三理事長)を紹介させていただきます。本NPOは、2005年に児童養護施設や社会福祉領域の子どもに対する心理療法的支援を目的として設立し、その中の事業の一環として「キンダーカウンセラー派遣事業」の支援を行っています。月に1回~3回の頻度で、京都市内の私立幼稚園にキンダーカウンセラーが派遣され、主に教諭への相談・助言や、保護者への相談・助言、保護者への面接・講習会などの活動が行われています。費用の半額を幼稚園が負担し、残りの半分を当NPOが支援しています。何か子どものことでご相談がありましたら、是非ともご活用いただけたらと思います。以下にホームページとメールアドレスを載せておきますので、何かありましたらご連絡いただければと思います。

「NPO法人子どもの心理療法支援会」ホームページ:http://sacp.jp

「NPO法人子どもの心理療法支援会」メールアドレス:info@sacp.jp

 これで「乳幼児のこころと発達」についての連載を終わらせていただきます。ありがとうございました。