新連載

【新連載】生活と絵本を紐付けて…行事と絵本   4回シリーズ(4)

絵本でSDGs 推進協会代表 朝日 仁美

偉人と絵本

 「偉人」を辞書で引くと〈偉大な人・すぐれた人・大人物〉(広辞苑 岩波書店)と載っています。もう少し分かりやすく言うとするなら、歴史に名前を残すようなすごい仕事をした人・多くの人から尊敬される人とでも言い換えることができるかと思います。学校図書館などにはこのような人物について書かれた伝記というジャンルの本があり、皆さんも読んだことがあるのではないでしょうか? 絵本でも偉人の生い立ちや功績を綴った作品が出版されています。今回は「伝記絵本」について紹介します。

伝記絵本を読んでみよう

 伝記と聞くと戦国武将や発明家の本と思う人も多いと思いますが、絵本に関係する人についても描かれているのでその本から紹介します。

 イギリス湖水地方の田園風景の中、いたずらなウサギ ピーターが登場する「ピーターラビット」のお話は世界中で読み継がれ、キャラクター商品としても馴染みがあるかと思います。このシリーズを生み出した女性について描かれた『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』(廣済堂あかつき)を読むとこのシリーズがなぜこんなに読み手を惹きつけるのかが分かります。

 『おやゆび姫』や『雪の女王』といった多くの名作童話を世に残し「童話の王様」と呼ばれたアンデルセンの伝記は『アンデルセンの夢の旅』(西村書店)で読むことができ、アンデルセンの明言や人物像、そしてたくさんの作品について知ることができる絵本になっています。

 ポターやアンデルセンの描いた物語を読んだ後、その作品を作った人について知るといろいろな気づきがあり、再度読んでみたくなると思います。伝記絵本は文章量もあり、大人が読んでも十分楽しめるものが多いのでぜひ手に取ってみてほしいです。

 「切り傷などに貼る絆創膏はどうやってできたのか?」そんなこと考えたこともないですよね。そこで『「いたいっ!」がうんだ大発明 ばんそうこう たんじょう ものがたり』(光村教育図書)を読んでみてください。百年以上前の実話を基にしたお話です。素敵なご夫妻の思いやりからこの発明がうまれ、今につながる製品になっていることが分かります。何度も繰り返される商品開発の苦労や発明者の「誰かの役に立ちたい」という思いを絵本から知ることができます。ユーモラスに描かれた絵も必見です。絵だけお話が分かるよい絵本としておすすめします。

生活と絵本を紐付けて・・・

 絵本を軸に4回コラムを書かせていただきました。子どもの読書離れなどと昨今言われていますが、毎月新しい絵本がたくさん発売されます。またロングセラーと呼ばれる読み継がれてきた名作もたくさんあります。この中から何を読んだらいいのか?と迷うこともあるかと思います。そこはあまり難しく考えず、子どもたちと一緒に「今」を楽しみながら絵本探しをして読んでみてほしいです。時には想像したお話と違ったり、ちょっと内容が難しかったりするかもしれませんが、それは読んでみたから分かることです。そんな経験も後に役に立つ時がきっと来ると思います。今回のシリーズで物語絵本以外のジャンルを少しだけ紹介しました。子どもたちの興味はその時々、日々変化しています。その変化に近くの大人が気づき「今だ‼️」と興味を深めて知識に変化させていってほしいです。絵本はそれができるツールだと思っています。勉強のためではなく、楽しみながら学ぶ時間は思い出となり、その経験はそれぞれの財産として心と頭に刻まれていくことでしょう。

 拙い文章で絵本から広がる多方向な世界を紹介した4回でした。いかがでしたでしょうか? 子どもたちと一緒に読み手の大人が楽しむことが大事だと最後に再度伝えておきます。これからも多くの方々に絵本で楽しく、幸せな時間が過ごせることを祈っています。

【新連載】生活と絵本を紐付けて…行事と絵本   4回シリーズ(3)

絵本でSDGs 推進協会代表 朝日 仁美

 4回シリーズのコラムも折り返しとなりました。
 絵本を通じてこのように多くの方と紙面上ではありますが、交流できることに感謝しています。
 今回も「何を読もうかなぁ?」と思っている方へのヒントになればと思って書かせていただきます。

今回は「天気と絵本」について書こうと思います。

 先日も今までに無い寒波がやってくると報道され、皆さんもその対応に追われたのではないでしょうか?私の住んでいる場所は雪の降る地域ではありますが、寒波と聞くと最近の一度に降る雪の量が恐ろし時もあるので身構えます。いつも雪が降っても積もらない地域だと突然の降雪は非常事態。そして積もりでもしたら身動きが取れなくなり…不自由なことばかりかと思います。しかしこんな時こそ「雪」が出てきる絵本を読んで雪国気分を味わってみてください。私は雪の降り始めに『はつゆき』(岩崎書店)から読み始めます。初雪を降らせるために夜中に湖で空からこぼれ落ちた星屑を集めたり、森の奥で光るコケを集めたりして準備します。夜明けと共に初雪が降り出す様子はなんと
も幻想的お話です。

 「雪が降る」と言ってもチラチラ降る雪もあればドカっと降ることもあり、このドカ雪が私たちの生活に支障をきたす訳で…『おおゆき』(鈴木出版)は大雪で車が1000台も立ち往生。そんな状況をそこに住んでいる人たちの思いやりある行動で渋滞に巻き込まれた人々を助け、大人たちの行動を見て子どもたちも手伝います。楽しい雪だけではなく突然脅威に変わる自然の力も教えてくれる絵本です。

 『ふぶきのみちはふしぎのみち』(アリス館)は小学生の姉妹が吹雪の日の登校途中に突如現れたしろくまとの楽しく不思議なお話です。絵本は体験できないことをその物語の世界から疑似体験できるところに魅力を感じのですが、まさにこの絵本が楽しい雪の日の通
学を体験できるお話です。

 雪に関してはこのほかにも、雪の結晶を写真で紹介するものや雪だるまが主人公の物語などたくさんあるので、この時期に探して読んでみてください。

空の絵本 雲の絵本

 空の絵本も探してみるとたくさんあります。『そらの100かいだてのいえ』(偕成社)は縦に開いて読み進める人気のシリーズのひとつです。冬のお話なのでぜひ今読んで空の上へ登ってみてください。お天気のことも想像しつつ、1から100までゆっくり数字も数えてみてください。最近私が読んだ絵本の中では『リジーと雲』(化学同人)がおすすめです。ちょっとせつないファンタジーですが見ごたえ、読みごたえがある作品です。

 『くもとそらのえほん』(PHP 研究所)は雲のことがよく分かる科学絵本です。空の探検家が監修をされている本で雲の名前や形を小さな子どもでもわかるように解説してくれています。これを読んだ後は間違いなく親子で雲談義ができるようになりますよ。
地球のことを知るチャンス!

 天気に興味を持ったら、地球にまで話を広げてみてください。

 『地球と天気の絵事典』(パイ インターナショナル)はめくって楽しみ仕掛け絵本です。30 ヶ所の扉を開きながら、地球と天気のことを12のテーマで学べます。10ヶ国語に翻訳された作品で大人が読んでも充分楽しめます。「火山」や「どうくつ」のページは冒険家になった気分で楽しめおすすめです。

 私たちの住む地球がどうなっているか知るとこで、今起きている自然現象を考えるきっかけになると思います。地球温暖化に関する絵本もありますので、興味が湧いたら大人も子どももどんどん知識を広げていってほしいです。

【新連載】生活と絵本を紐付けて…行事と絵本   4回シリーズ(2)

絵本でSDGs 推進協会代表 朝日 仁美

 今年もよろしくお願いします

 令和6年元日、石川県能登半島を震源とした大きな地震が起こりました。私の住む糸魚川でも震度5強の揺れを感じました。今までに体験したことのない長い揺れでした。幸い本棚などが倒れることはなく、火の元を確認し玄関に置いてある防災用品を持って外に出ました。ここまでするのがやっとでした。避難は免れましたが、その晩は家族全員で洋服を着たままリビングにて就寝しました。

 震源地付近の皆さまにはお見舞い申し上げ、これから私たちができることを考えていきたいと思っています。

 京都の皆さまには今一度 防災についてご家族で確認されてください。避難時に持って出るものや避難経路などです。防災用品の中に今の子どもの月齢にあったものが入っているかどうかです。どうかすぐに行動してください。お願い致します。

 今回は「しりとりと絵本」について書こうと思います。

 突然ですが、最近子どもたちとしりとりをしましたか? 我が家は子どもが小さい頃から車の中でよく行いました。そのせいか我が子の特技の一つにしりとりが入っている気がします。しりとりはものの名前などを知らないと続かないゲームです。ではやったことない子どもにどうやって教えるか? ですが、ここで絵本の登場です。

 実はしりとりをテーマにした絵本はたくさんあります。物語仕立てになっている『しりとりのだいすきなおうさま』(すずき出版)を読んでみましょう。何でもしりとりのように〈マド ドア アルバム〉と並んでいないと気がすまない王様が主人公です。お話の中のしりとりを体験してルールを理解するのがいいと思います。こちらの作品はたくさんの子どもたちに読み聞かせができるビッグブックもありますので、園での読み聞かせにもオススメです。

【新連載】生活と絵本を紐付けて…行事と絵本   4回シリーズ(1)

絵本でSDGs 推進協会代表 朝日 仁美

はじめまして

 今回から4回こちらでコラムを書かせていただきます 絵本でSDGs 推進協会代表の朝日です。絵本専門士という肩書きと学校司書という立場から、絵本と日常生活が繋がっていくヒントをお示しできればと思っ
ていますのでお付き合いください。

行事と絵本

 今回は「行事と絵本」について書こうと思います。12月の行事と言ったら、クリスマスですよね。毎年10月末からクリスマスをテーマにした新刊絵本の発売が始まります。我が家にも今まで購入してきたクリスマス絵本はあるのですが、ついつい新刊を読むと欲しくなってしまいます。本来のクリスマスという行事を知ることが出来る絵本もあれば、ちょっと変わったサンタさんが登場する愉快な絵本も出版されます。書店等に並ぶ時間が短いので、「これだ!」と思った作品はすぐ手にしないともう出会えない場合もしばしば…。ちなみに今年のイチオシは『うらがえしサンタ』(佼成出版社)です。どこかで見つけたらぜひ読んでみてほしいです。

 このような行事をテーマにした絵本は気にしてみるとたくさんあるのです。物語性の高いもので、多様な感想を述べあうこともいいことです。またその行事についての由来や世界の国々での習わしなどが分かる絵本で知識を増やすのも素敵なことです。インターネットで調べたい事柄を瞬時に検索できる世の中です。しかし、子どもたちと一緒に「へ~! そういうことなんだぁ~‼️」と本から学ぶというのは、簡単なことではありません。時間と手間がかかる分だけ思い出が増えていき、知識も定着するのではないかと私は思っています。

クリスマスが終わった後は

 クリスマスが終わった後はお正月です。どんな絵本を読んだらいいか探す時は、その行事から連想する単語を手掛かりに探してみるとよいでしょう。お正月から連想するものはおせち料理や鏡餅、干支(来年は辰年なので 龍やドラゴン)などが思いつきます。雪の絵本や温泉が登場する絵本も楽しいかと思います。おせち料理がテーマの絵本は使用する食材が分かるものや作り方を教えてくれるものも出版されています。いろいろあるので一緒に読む子どもの年齢や興味によって探してみるのもよいかと思います。私のおススメは『おせちのみんなあつまって!』(ひさかたチャイルド)と『おせちりょうり しゅうくんかぞくのしあわせレシピ』(光村教育図書)です。こちらも探して読んで
みてください。

 日本には昔から伝わる年中行事があります。お雛祭りや端午の節句、七五三のお祝いと子どもに関する行事もあります。これからだと節分! 恵方巻が出て来る絵本もあります。ぜひこの文化を子どもと一緒に、子どもの時から楽しんで受け継いでいってほしいです。もちろんバレンタインデーやハロウィンという行事の絵本もあるので、毎月行事絵本を探してみるのも楽しそうですね。

【新連載】最近読んだ絵本から   4回シリーズ(4)

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 最近、「ころべばいいのに」というヨシタケシンスケさんの絵本を読みました。

 なんとなく、疲れていたのでしょうか。イラっと来ることが多い今日この頃で、題名で、すごく引き寄せ
られました。

 ヨシタケシンスケさんの本はとても大好きで、「ボクのにせものをつくるには」では、本当にそういうロボット売っていないかなとか、「あきらがあけてあげるから」は小さいころにすぐに手を出そうとした思い出がよみがえってきていました。ネタバレはいけないので、最小限にとどめておきます。

 最近、イライラすることが多いです。きっと今までに比べて、心に余裕がないのでしょうね。今日も雨が降っていたのですが、前から私より少し年配の団体さんが大勢でほとんど歩道の幅を占領しながらこっちに歩いてこられていて、すれ違いたかったのですが、傘が当たってその柄が顔にもろにあたるという事態に見舞われました。誰が悪いわけでもないのですが、つらくなりました。しかも目的地に到着したら急に晴れてきて、「あーなんかついてないな」と思っていました。そういえばここのところ電車に乗っては事故で止まることも多く、果物を買ったらすぐ近くで同じものが半額で売られていたりと、いやほんと、こういう時は続きますよね。

 そんな時、うちの娘(小2)が図書館で「ころべばいいのに」を借りてきていまして、そういうのはダメなのですが、そういう気持ちになりまして、思わず一気読み(というほどの分量ではないですが)してしまいました。

 ヨシタケシンスケさんの本は、本当に子どものある

【新連載】絆が深まる   4回シリーズ(3)

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 先日、卒業生の結婚式に呼ばれて行きました。今は立派な小学校の先生ですが、在学中は何かといろいろありました。同じテーブルが新婦の同級生だったので、思い出話に花が咲きました。その中で、旅行中に喧嘩した話が出てきました。仲良し4 人組で旅行に行った時のこと、些細なきっかけで話もしないほどの喧嘩になったそうです。確か、帰ってきてからもすこし引きずっていて、その話を新婦が学生時代ゼミの時に私に話していたことを思い出しました。ただ、「そんなこともあったよねー」と、当時喧嘩していたメンバーが顔をそろえていたので笑って話してました。そのうちの一人が友人代表のスピーチで「このことで絆が深まった」と言っていたのは印象的でした。

 最近、インターネット関係でこどものいじめ関係の会議に出させていただくことが多くなり、強く思うことがあります。それが、「人の痛み」のわからなくなってしまっているこどもが少なからず存在することです。このような席に話題の挙がるこどもの大半は、いい子で問題を起こしたことがなく、喧嘩などとは無縁のこどもたちです。しかし、よくよく精査してみると、人との関わり以外のところ(例えばゲームやネットや)では裏の顔を持っており、傷つくことを恐れながらびくびくしている姿が浮き上がります。遡っても、幼稚園時代にも喧嘩などたことがなく、本当の意味での人との交流ができていないことが浮かんできます。

 勘のいい皆さんなら何が言いたいかはもうお判りでしょうが、喧嘩や言い合いの経験はやはり必要で、軽く傷つく経験をしておくことで、人の痛みを知ることができるように感じます。もちろん理不尽な喧嘩や教職員の強圧的な態度によって傷つくことには意味がありませんが、こどもが自分の感情を前に出し、意見を戦わせる経験は、幼稚園時代にぜひとも経験しておいてほしいものだと思います。

 今、本学の学生を見ていると、すべての学生がそうであるというわけではありませんが、自分の意見は言うものの、人の話は圧倒的に聞かない傾向を感じます。直接的な意見のぶつかり合いを経験しないまま、小中学校でグループ学習を多く経験させられ、人の意見に流れていくことで楽に過ごそうとしてきた人は、人の話を聞くことで間接的に傷つくことをどこかで会得しているので、信じるものだけを考え、大勢の意見の中に埋もれていることでなんとかバランスを保っているように感じます。そのため時折「承認欲求」なるものが出てきて、自分の言いたいことだけを言い結果的に周りに迷惑をかけていく姿を何度か見てきました。

 幼稚園の取組で、こども同士の学びあいは当然取り入れておられると思います。ただ結果が出なくても、少し言い合ったりする場面を我慢してみていただければと思います。もちろんその方が後々面倒になるわけではありますが、数年後には「絆が深まる」可能性も信じてみてください。

【新連載】子どもたちのこれからのために幼稚園で育てたい3つの力

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 1 進むICT の利活用
 先生方は実感をされていると思いますが、幼稚園での生活は3年間で長いようで短いです。もう少し言葉を代えればあっという間に小学生になるということです。
 新聞ニュース等でご存じのこととは思いますが、小中高等学校では「GIGA スクール」構想により1人1台のパソコン(またはタブレット)が配布されます。
家にも持って帰ってきますので、家でネットが使える環境が必要になります。
 好む好まないにかかわらず、小学校1年生からは、何らかの形でネットと付き合うことになってきます。今後の学習や先のことにはなりますが就労のことなどを考えますと、このことはいいことであるとは思います。しかし、急に来ることを考えると、幼稚園生活でもその準備がある程度必要になるということになります。

2 幼稚園で何をすればいいのか
 私の私見も混じりますが、幼稚園児の発達段階では、急いでPC やネットに触れる必要はないと思っています。むしろ、デジタル機器の画面は、認知や視力などに関してあまり好ましいとは思いません。
 では、何を準備すればいいのでしょうか。
 実は、これまでの教育を大きく変える必要はありません。むしろ推進すべきです。幼稚園の時期こそ、人と人の触れ合いや、人を思う心を育ててほしいと思っています。

3 今育てたい3つの力
 PC やインターネットは人と人の連絡の手段です。前回のこの欄でも書きましたが、インターネットをしっかり扱うためには、人として人を思う気持ちが育っていることがまず前提で、拙速に機器を扱っても、人を思う気持ちがなければ、その情報は宙に浮いた情報になってしまいます。
 では特に必要な力は何でしょうか。私は、それは判断力・自制力・責任力の3つであると考えています。
 まず、判断する力は、経験が特に必要です。もっといえば失敗であったり、うまくいかないことから自分の力で解決していくことの経験が必要であると思います。例えば、お友達と意見が合わず衝突したり、思い通りにいかなかったり、それをどう解決していくか、まさにそんな経験を幼稚園では園児は毎日しているのではないでしょうか。そのことは、自信を待った判断や、正しい判断に結びついていきます。いろんな場面で人と一緒に活動することこそ判断力を育てると思い
ます。
 次に自制する力。やりたいなと思うことがあっても、人に迷惑がかかりそうだとか、別にやるべきことがあるとか、これもいろんな人との活動の中で経験し育てられていきます。家族の中だけでは、この力はなかなか育てることは難しいと思います。また、楽をしようとしたしり、簡単に物事を済まそうとばかりしているとこの力は育たないと思います。
 そして責任を持つ力。自分のやったことに責任を持ちたいです。掃除がうまくできる。自分で散らかしたら片付けをちゃんとする。一つ一つに自分でやったことは自分で責任を持つ。責任が持てそうにないことであれば人に相談したり、自制を働かせたりすることができてほしいと思います。

4 重要な幼児教育での人とのかかわり
 前回にも書きましたが、無責任な書き込みや、少し考えたらやめておけばいいようなことに手を出すなど、ネットの世界ではいろいろなトラブルが起きていますが、人として成熟していないことがまずは原因と思われます。
 いま、これからの世界を発展させるために、実は幼児教育や小学校の低学年での人とのかかわりをしっかりもつことが本当に重要になっています。

【新連載】いつも帰れる港をつくる

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 人は生まれてから人生を終えるまで冒険を続け、困難な航路を渡っていく試練に耐えていかなくてはなりません。誰かに助けてもらいながら、一人で生まれてきて一人で決めて一人で航海を続けていくのです。真っ暗な孤独な夜を迎えたとしても、荒波の中で明日の生命の危機を感じても、私には「帰る港がある」と思えることが心の拠り所になるのではないかと思います。
 「可愛い子どもには旅をさせろ」と言いますが、どんな子どもにも自分の人生を自分の力でたくましく生き抜く子どもに育ってほしいと思いませんか。帰れる港があることを知っている子は勇気をもって挑戦できるにちがいないと思うのです。いくら失敗してもかまわないのです。人生は失敗の連続です。大人は失敗を責めるのではなく、失敗は悪いことばかりではないということを教えることが重要です。そして生きていれば必ずいいことがあるということを教えておかなければなりません。そこには、基本的な信頼関係が重要です。信じられる大人がそこに居てくれること、いつも見守ってくれている人がいるということを体で感じて知っているからこそ、安心して失敗を乗り越えることができるのです。
 子どものこころを木にたとえてみます。こころの根っこを育てておけば、どんな強い風雨にも、どんな重い雪にもその枝が折れることはありません。しなやかにしなってまた元にもどってきます。そして寒い季節を枝の中でじっと芽吹く時を待ち、世界にたった一つの花を自分で咲かせるのです。愛情を深く受けた経験が根っこを深く張らせるのです。
 自分の考えや意見を自分の言葉で発する勇気は、子どもの時代の経験が大きく影響します。自分の言いたいことが言えずに、何かにおびえていたり、失敗や否定によって受け入れてもらえないかもしれない不安な表情を見せたりする子どももいます。自分の意見に耳を傾けてもらったり、共感してもらったりした子どもは、自信をもって次の日も次の日も挑戦し続けることができるのです。子どもが自分で解決しようとしているのに、先回りをして大人が代弁したり解決したりしていませんか?そんなことを子どもは望んでいるわけではないのです。自分の気持ちに寄り添ってほしい、自分で解決しようとしている背中を押してほしいと思っているのです。根っこのしっかり張れている子どもとはどんな子どもでしょうか。それは間違いなく愛情を深く受けている子どもです。安心して自分を受け入れてもらっていることを早くから感じ取っている子どもです。どんな
ことがあっても帰る港があることを知っている子どもです。子どもはいつまでも子どもではありません。一人の人間としての人格を形成していきます。だから、子どもを信じて待つことやどんなささいなことでも、子どもの考えを尊重し耳を傾けることを忘れずにいてほしいと思うのです。

3回シリーズ(2)【新連載】三つ子の魂は「食」から

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

子どもが健やかに成長し自分の夢を実現するために、一番大切な資源は”健康”であることです。だから子育ては健康第一で考えてほしいと思います。人の体は、食べ物と経験でできあがっていきます。だから「食べる」という営みを慈しむ子どもに育ってほしいと思うのです。生きるエネルギーは食べることで与えられます。食べ方も教えてもらわないとできません。子どもから大人まで一生を左右するといっていい大切な人の営みです。人は食べることで命をつなぎ、食べることで人と人をつないでいきます。このような信念をもちつつ、私は小学校の教育現場で食育に取り組んできました。そして取組を進めていく中で、小学校以前の就学前教育から食を大切にしていただきたいと願い、子育て講座などで食育の話もさせていただいています。
 台所から聞こえてくる音、香り、今日のごはんは何かを想像する脳が一斉にフルパワーで活性化して働きます。このような経験の繰り返しが子どもの脳を刺激し、鍛えていきます。このような基本を知ると臨機応変に物事は展開されていくのだということが分かります。次は舌です。幼くても侮ってはいけません。本物の味は小さい子どもほどよくきき分けます。危険なものは感じ取って口から吐き出します。味覚は3歳から5歳でほぼ出来上がるとされています。できるだけ、子どもの目や耳が届く距離で調理をしてみてください。幼稚園や保育園でも同じです。小学校でも同じです。「美味しそうなにおいがしてきた!早く食べたい」
毎日の楽しみです。家庭では毎日の手の込んだ料理がむずかしいかもしれませんね。しかし無造作に食べさせるのではなく、手間暇かけることができないときも「これは○○ちゃんが好きなおかずだから」「これはおばあちゃんがよく作ってくれたよ」「これはこの季節が一番おいしいお野菜だから」「これは一緒に食べておいしいっていってたから」「きのうは何を食べたら今日はこれにしよう」といった会話を大事にしてほしいです。なぜそれを今日は食べるのかを子どもにも伝えることで、子どもはいろいろなことを学びます。そして一緒に
「おいしいね」と言って共感できる喜びを積み重ねることが大切なのです。
 自分の体をつくる食べ物なのですから無頓着な子どもにしないように心がけておきます。子どもは大人の真似が大好きですから、いろいろな情報をもとに自分で食べるものを選ぶ力がついてきます。無理やり嫌いなものを食べさせることを目標にする「おどしの食育」はよくありません。生きる自信と勇気につながる食育が大事です。ちなみ
に食育という言葉は家庭以外の保育や教育の中で使う言葉です。食育で取り組めることはほんの一部にすぎません。大半は家庭での食習慣で子どもの食生活は決まります。私たちは公平にどんな子供たちにも食育を通して、いろいろな経験をさせたり、知識を与えたりすることで、そのお手伝いができたらと思って取り組んでいます。

3回シリーズ(1)【新連載】肝心なときの傘

p style=”text-align:right;”>滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 子育て講座の講演をさせていただくときに、いつも宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」と「千と千尋の神隠し」に登場する親子の話を例にさせていただいています。「魔女の宅急便」の主人公キキが旅立とうとするときに、父と母は帚とラジオだけを持たせて背中を押すように暖かく見守ります。

一方「千と千尋の神隠し」では千尋は新しい土地に移る心の準備ができないまま引っ越すことになります。友人とも別れて不満と不安いっぱいの彼女は「早くしなさい」と車の後部座席へ乗るように母にせかされます。そして車を降りてからも、父母はさっさと道を歩きトンネルの方へ向かいます。「待って、待って」と千尋が叫んでも、振り返ることもなく置いていきます。真逆の象徴的な親子関係です。
 子どもは弱い立場です。親にこうしてほしいと思っていても、自分の思い通りにしてくれるわけでもないし、どうしてほしいのかもよくわからないのが子どもだからです。そこで、傘の話に例えて、子どもとの関わりを考えてみようと思います。「どうでもいいときに持たされるほど邪魔な傘はない」し「肝心なときに出てくる傘ほどうれしいものはない」という話です。親はどうでもいい時に傘を持たせていないか、肝心な時に役に立つ傘を持たせているか、このイメージを自分の子育てにあてはめるとはっと気づく親御さんも多いようです。

 次に傘をたとえに、しつけの話もしておきます。傘のありがたみがわかると、傘の扱いもうまくなります。傘をさしたりすぼめたり自分でできるようにさせます。私は校長をしていたときに毎朝、玄関で子どもたちを迎えていました。天気予報で夕方から雨がふりそうな日には傘を持たせてもらう子が多く、親御さんの愛情を感じました。そして雨の日も雪の日も子どもは傘をさして登校してきます。その子に合ったサイズの傘かどうか見ていると、もう小学生なのに幼児用の小さな傘でずぶぬれになっていたり、大人用の使い捨てのようなビニル傘の骨が折れて泣きそうになっている光景も見受けられたりします。子どもはすぐに大きくなるので、靴や傘は年齢にあったものを持たせてほしいと思います。そして、しずくが人にかからないように、道を歩くとき、電車やバスの乗ったとき、人の家や公共の場所での傘の置き方、階段での無配慮な傘の持ち方などきちんと教えておかなければなりません。こういったことは、実際に雨の日に傘をさして一緒に歩いてみないとわからないことばかりです。

 急いで傘をさして自転車に乗ったり、車に乗せてしまったりするのではなく、できるだけ時間がかかっても雨の日も一緒に歩いてみてほしいと思います。雨の日の登校や登園は時間もかかり、危険もいっぱいです。だからこそ自分の命を守るために身に付けておかなくてはならないのです。雨の日は、子どもの送迎があるから職場でも出勤時刻や退出時刻に余裕をもたせていただくようなお金のかからない子育て支援があってもよいでしょう。家計だけでなく時計にもやさしい子育て支援は子どもを真に健やかに成長させると思いますがいかがでしょうか。