新連載

【新連載】「遊びをせんとや 生まれけむ」 その3   3 回シリーズ(3)

元立命館大学 教授 幼稚園協会特別支援教育研究会 顧問 朝野 浩

 「遊び」と大人とのかかわり方について、問題提起をした形で、前号は終りました。さて、先日、個別相談訪問である 園の事後相談が終り、外も暗くなり帰路に着こうとした折に、 幾人かの園児が残っていることに気づきました。子ども園に なってから、朝は8時前から夕方は閉園ぎりぎりまで預かっておられるとのこと。 お母さんがお迎えに来て、帰宅して、 夕食の準備と食事を済ませ、入浴をして就寝させ、朝の当園までの1日の循環を考えると、親子のかかわりの時間だけでなく、保護者間の時間も少ない状況と考えます。働き方改革が言われていますが 、「 豊かな生活 」 と は程遠い環境が幼児の状況にあります。幼稚園教育要領の中に「環境」という 語句があります。幼児を取り巻く周囲の環境の大切さとその 影響があるということです。

近年の状況から SNSの影響は多大なものがあると考えます。NHK 番組「チコちゃんに叱られる」で親子が生涯で一 緒に過ごせる時間について実 態報告( 解説 : 保田 時男 ・ 関西大学)がありました。『わが子と生涯で一緒に過ごす時間』 についての研究報告では、母親は約7年余りで、父親はそ の半分以下の約3年で、親子が一緒に過ごせる時間は約9 年ばかりとなります。平日1日に親子が一緒に居る時間は約 3時間になるということです。現代の保護者は忙しいので、 SNS や YouTube、TV を話相手の代わりに利用することがあると思います。親子の触れ合いから生まれる子どもの情緒 の発達やことばの獲得や言語能力などを考えると、ソーシャルメディアでは親の代わりにはなれないと分かってはいても、 子育てや家庭のあり方について多様な価値観があります。そ こで1日の多くの時間を過ごす幼稚園での生活の中身がます ます重要になり保育者のかかわりが 効果をもたらす可能性が高くなります。この中で、先生方や保護者からの相談の多いのが「ことばの発達」の問題です。よく「ことばのシャワー」 の重要性が言われますが、ソーシャルメディアによる機械的 なシャワーでは効果がないことは先人の研究から分かってい ます。子どもに向かって話しかける人は、生身の人間でないと効果がありません。

この向かい合う「対話」の形でのことばの量が大切です。 そこで気になるのが、子どもたちの好きな「絵本の読み聞かせ 」 活動です。 どの 園でも見受けられる光景ですが 、 意外と活動の進め方など画一的な感じを受けます。お帰りの前の 集会の一環として行われるものや設定保育の中のものでも、 保育者と子どもたちとの生き生きとした対話が少ないのです。 しかし、子どもたちは目をキラキラ輝かせ聞き入っており 、ASD の子どもたちも一番前や立って保育者に近づいたりし ながら絵本に見入っています。そこで、子どもたちに「くまさんは何をしているのかな」「赤いチューリップはいくつある」 など、Yes や No で答えられる質問でなく、ことばで返す会 話をしながら読み聞かせをする「対話的読み聞かせ」(小野 雅裕・慶応大学)を積極的に遊びの要素を入れ、保育者に は是非行って欲しいものです。このことが非認知的能力を育 てるとともに語彙力や表現力などの言語能力を向上させ、子どもたちの生活に反映すると多くの研究事例にあります。ここ10年以上、京都市私立幼稚園協会特別支援教育研修・ 研究にかかわり、その変容ぶりに驚かされてきました。その 思いの一端を文章にしましたが、問題提起とお受け取りください。

3ヵ月にわたるリレー掲載の最後に当たり、先日亡くなられた谷川俊太郎氏の詩集より、『どんなに目をみはってもみらいは見えないのにこどもらの体の中に明日は用意されている』をまとめにかえ終ります。駄文にお付き合いいただき感謝します。