【新連載】子ども自身が考えを生かし合う生活を創る 4 回シリーズ(4)
京都教育大学 教育学部幼児教育科 教 授 古賀 松香
集団生活を一つの特徴とする園生活において、子ど もが生きる主体であることをどう実現していくか。こ のことは保育実践における重要な課題です。たとえば 行事や全学年での活動が予定されたとき、子ども一人 ひとりの思いがどのように発揮されているか、丁寧に 見ていくことは大切です。 ある園でいもほりの様子を見ていた時のことです。 園庭で育ててきたさつまいもをこれからみんなで掘ろ う、と 5 歳児担任保育者がクラスの子どもたちに話し ていますが、園庭が広いので、掘り出したさつまいも を園舎までどうやって運ぶかが話題になりました。す ると、ある子どもが「コロコロ転がるやつで運ぶ」と、 4 歳児のときのいもほりで 5 歳児が使っていた台車の ことを思い出して言いました。保育者はいいアイデア だねと認めた上で、他に使えそうなものはあるかなと さらに聞きました。子どもたちはそれぞれに考えて、 「新聞紙」とか「たらい」と意見を出していきます。 保育者は「なるほどね。新聞紙、今どこにある?」と さらに質問をすると「工作コーナーにある」と子ども が知っていることを言葉にして情報を共有します。保 育者が「今 3 つ出てきたね。それくらいでいけそう?」 と聞くと、待ちきれない様子で数人の子どもが台車を 取りに倉庫に走っていきました。保育者は笑って「あ りがとねー」と声をかけ、他の子どもたちもうずうず している様子を見て「コロコロ転がるもの、新聞紙、 たらい、ようし、探しに行こう」と言うと、子どもたちはそれぞれに思うものがあるところへ走っていきました。
ところが新聞紙を持ってきて広げてみると、風で飛んでいきそうです。保育者が「どうする?」と聞くと
「石拾ってこよう!」と石を拾いに再び走っていく子 どもたち。園庭のいろいろなところから重しになりそ うな石を拾って運んでは、新聞紙の上に置いていきま す。ある子どもは新聞紙の真ん中に石を置いていまし たが、その様子を見た友達が「端っこに置いたら?」 と新聞紙が飛んでいかないようにするという目的に沿 って自分の考えを伝えて、友達の考えと合わせてより よい対応策をとっています。中には台車を使って自分 の顔より大きな石を運んできた子どももいます。5 歳 児クラスの子どもたちはこれまでの経験を生かし、目 の前の課題に対してよりよい解決策を生み出そうとし ているようでした。
行事や活動をスムーズに進めようと思うと、つい大 人側が用意して、子どもは決められた範囲の行為を行 うだけになりがちです。子ども自身が目的に応じて何 が必要か考え、友達と一緒に動きながらさらによい考 えを生み出していけるように、この園の保育者は子ど もの発想や行為を受け止め、さらに問いかけて明確に したり、子どもの行為を言葉にして伝え、子どもの間 をつないだり、子どもが生活を創る主体となっていく ように支えていました。子どもが生きる主体である生 活を創るために、どのような毎日を積み重ねるのか、 あらためて問いかけられているように感じました。