【新連載】ゆるやかに一緒になっていく ― 思いを寄せて共に過ごす 4 回シリーズ(3)
京都教育大学 教育学部幼児教育科 教 授 古賀 松香
園生活は、子どもがさまざまな人と共に生きる生活へ向かうスタート地点になります。その大事なスタートを、あたたかさの中で、そして子どものペースで歩めるようにと願います。今年度、私はある幼稚園の3歳児クラスに定期的に観察に来ています。入園した当初は保護者と離れられず、毎日園で保護者と一緒に過ごしていたあいちゃんも、7月のこの日は朝小走りに「せんせーおはようございます!」と後ろを振り返ら ずに保育室に入っていきました。
この日はプール遊びが予定されていたので、保育者 は保育室でプールカードを点検していると、テラスの 方から泣き声が聞こえてきました。保育者はパッと声 のした方を見て立ち上がると、近くにいたサキちゃん が話しかけてきます。サキちゃんと会話しながら「ち ょっとミトちゃん泣いてるから、行ってみよう」とサ キちゃんの手を取ってテラスへ出ます。「どうしまし たかー?」と声をかけますが泣いて言葉にならないよ うです。どうやら、だんごむしの入った飼育ケースの 土の入れ替えをしようと、先生を待っていた途中で心 細くなったようでした。保育者は「お待たせやったね。 みんなの分あるかなーってみてたんよ。」とカードを 見せながら 1 枚ずつ数えあげていると、周りに子ども たちが寄ってきます。保育者は数え終えたカードをま とめ、立ち上がる時に、ミトちゃんの手をそっと取り ます。ミトちゃんはすっと保育者について歩きます。 保育者はミトちゃんの思いを受けるように、テラスに置いてある飼育ケースを一緒に見ながら「だんごむし さんのおうちをきれいにしてあげようと思うんだけ ど」と周りにいる子どもたちに話します。すると、シ ョウちゃんはじっと飼育ケースを覗き込みます。保育 者は「じゃあミトちゃんもお靴履いていこうか」と言 うと、ミトちゃんは泣きながらもはっきりと「うん」 と答え、靴を取り出し始めました。一緒に外に行こう と思ったのか、帽子をかぶりながらマコちゃんは「な んでミトちゃん泣いてるの?」と聞いてきます。保育 者は「なんでだろうね。朝からちょっと元気なかった みたいなんだよ」と言って、ミトちゃんの靴を出すの を手伝い、しゃがんで見守っています。そうしている うちにまた子どもが寄ってくるので、保育者は「だん ごむしさんのおうち」の話をし、話を聞いた子どもは 飼育ケースを覗き込み、そうか、と納得するのか、帽 子をかぶり靴を履いて、一緒にでかけようとしていき ます。中には、友達の帽子までとってきて渡す姿もあ り、保育者が「ありがとう」と声をかけています。保 育者が支えるゆるやかな集まりは、みとちゃんやだん ごむしさんのおうちにそれぞれに思いを寄せて、それ ぞれに支度をし、園庭に出かけて行きました。なんだ かわからない思いもそのままに受け止められ、思いを 寄せ合うことで支え合うような時間を過ごす。こうや って人と共に在るここちよさを感じ育つことの価値、 尊さを思うのです。