新連載

【新連載】幼児期の子どもへの関わりにおいて 大切なこと1 ~感じているものを言葉で表現する~   4 回シリーズ(1)

京都府・京都市スクールカウンセラー臨床心理士 大下 勝

私は、幼小中高のカウンセラーとして縦断的に子ど もの成長に 20年以上関わってきました。本掲載では、その体験を通して幼児期の子どもへの関わりにおいて 大切なことをお伝えしたいと考えています。

子どもの悩みは様々ですが、その背景には必ず人間 関係があり、それぞれの感情や思いがすれ違ったり、ぶつかったりしています。カウンセリングでは、そういった感情や思いをさらに深めて整理し、悩みとどう 向き合うかを一緒に考えていきます。その過程において、とても大切なことがあります。それは、自分の心や身体が感じているものに気づいているかどうか、言葉として認識して表現できるかどうかです。自分の感じているものを言葉として認識していないと、考え無しに行動してしまうこともありますし、振り返って考えることも深めることもできません。カウンセリングに限らず、感じているものを言葉で表現できる能力が 育っているかどうかは、人生の豊かさや生き易さに大きく影響します。

例えば、学校ですごくまじめで人に優しくできる子 どもがいました。大人から見ても理想的な子どもです。 そのような子どもが突然体調不良になり、不登校にな ることがあります。その子の場合は、まじめ過ぎるが 故に、大人が期待する行動を優先し、自分が本当はど うしたいのか気づけなかったので、ストレスで体調不 良になっていました。 また、生まれ持った性格特性があり衝動的に行動し 易い子どもがいました。自分の今感じているものに意 識を向ける前に行動してしまい、いつも注意されてばかりで学校が嫌になり、大人に反抗的な態度を取るよ うになっていました。他にも似たような事例を多く経 験してきましたが、それらの課題に本人が向き合っていくには、自分の感じているものを言葉で表現できる ことがとても重要でした。

言葉は 1 歳前後から話し始めると言われていますが、まさに幼児期に基礎となる大量の言葉を獲得していき ます。そして、子どもが心と身体で感じているものを どの言葉で表現すればフィットするのかの試行錯誤も この時期に多く経験しています。例えば、子どもが園 庭に咲いているお花を見て何かを感じている、そのと きに教員が「きれいだね」と微笑む。おもちゃの取り 合いになって泣いている子どもに「悲しいね」と声を かける。夢中で絵を描いているときに「楽しそうだね」と一緒に笑う。もちろん、本人がどう感じているかを尊重する必要はありますが、最初は感情を表現する言葉を積極的に伝えていいと思います。何か違ったら本人の表情に出ると思いますし、そういった経験の中で フィットする言葉を本人が選択していきます。

幼児期は、自分の言いたいことを言葉で表現できる ようになって嬉しくて仕方ない時期だと思います。幼稚園の先生方には、そのような積極的に言葉を獲得するタイミングに「感じているものを言葉で表現する」 体験を特に意識して関わって頂ければと思います。それは子どものこれからのより良い人間関係の一助にな ることと思われます。