新連載

【新連載】生活と絵本を紐付けて…行事と絵本   4回シリーズ(1)

絵本でSDGs 推進協会代表 朝日 仁美

はじめまして

 今回から4回こちらでコラムを書かせていただきます 絵本でSDGs 推進協会代表の朝日です。絵本専門士という肩書きと学校司書という立場から、絵本と日常生活が繋がっていくヒントをお示しできればと思っ
ていますのでお付き合いください。

行事と絵本

 今回は「行事と絵本」について書こうと思います。12月の行事と言ったら、クリスマスですよね。毎年10月末からクリスマスをテーマにした新刊絵本の発売が始まります。我が家にも今まで購入してきたクリスマス絵本はあるのですが、ついつい新刊を読むと欲しくなってしまいます。本来のクリスマスという行事を知ることが出来る絵本もあれば、ちょっと変わったサンタさんが登場する愉快な絵本も出版されます。書店等に並ぶ時間が短いので、「これだ!」と思った作品はすぐ手にしないともう出会えない場合もしばしば…。ちなみに今年のイチオシは『うらがえしサンタ』(佼成出版社)です。どこかで見つけたらぜひ読んでみてほしいです。

 このような行事をテーマにした絵本は気にしてみるとたくさんあるのです。物語性の高いもので、多様な感想を述べあうこともいいことです。またその行事についての由来や世界の国々での習わしなどが分かる絵本で知識を増やすのも素敵なことです。インターネットで調べたい事柄を瞬時に検索できる世の中です。しかし、子どもたちと一緒に「へ~! そういうことなんだぁ~‼️」と本から学ぶというのは、簡単なことではありません。時間と手間がかかる分だけ思い出が増えていき、知識も定着するのではないかと私は思っています。

クリスマスが終わった後は

 クリスマスが終わった後はお正月です。どんな絵本を読んだらいいか探す時は、その行事から連想する単語を手掛かりに探してみるとよいでしょう。お正月から連想するものはおせち料理や鏡餅、干支(来年は辰年なので 龍やドラゴン)などが思いつきます。雪の絵本や温泉が登場する絵本も楽しいかと思います。おせち料理がテーマの絵本は使用する食材が分かるものや作り方を教えてくれるものも出版されています。いろいろあるので一緒に読む子どもの年齢や興味によって探してみるのもよいかと思います。私のおススメは『おせちのみんなあつまって!』(ひさかたチャイルド)と『おせちりょうり しゅうくんかぞくのしあわせレシピ』(光村教育図書)です。こちらも探して読んで
みてください。

 日本には昔から伝わる年中行事があります。お雛祭りや端午の節句、七五三のお祝いと子どもに関する行事もあります。これからだと節分! 恵方巻が出て来る絵本もあります。ぜひこの文化を子どもと一緒に、子どもの時から楽しんで受け継いでいってほしいです。もちろんバレンタインデーやハロウィンという行事の絵本もあるので、毎月行事絵本を探してみるのも楽しそうですね。

【新連載】最近読んだ絵本から   4回シリーズ(4)

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 最近、「ころべばいいのに」というヨシタケシンスケさんの絵本を読みました。

 なんとなく、疲れていたのでしょうか。イラっと来ることが多い今日この頃で、題名で、すごく引き寄せ
られました。

 ヨシタケシンスケさんの本はとても大好きで、「ボクのにせものをつくるには」では、本当にそういうロボット売っていないかなとか、「あきらがあけてあげるから」は小さいころにすぐに手を出そうとした思い出がよみがえってきていました。ネタバレはいけないので、最小限にとどめておきます。

 最近、イライラすることが多いです。きっと今までに比べて、心に余裕がないのでしょうね。今日も雨が降っていたのですが、前から私より少し年配の団体さんが大勢でほとんど歩道の幅を占領しながらこっちに歩いてこられていて、すれ違いたかったのですが、傘が当たってその柄が顔にもろにあたるという事態に見舞われました。誰が悪いわけでもないのですが、つらくなりました。しかも目的地に到着したら急に晴れてきて、「あーなんかついてないな」と思っていました。そういえばここのところ電車に乗っては事故で止まることも多く、果物を買ったらすぐ近くで同じものが半額で売られていたりと、いやほんと、こういう時は続きますよね。

 そんな時、うちの娘(小2)が図書館で「ころべばいいのに」を借りてきていまして、そういうのはダメなのですが、そういう気持ちになりまして、思わず一気読み(というほどの分量ではないですが)してしまいました。

 ヨシタケシンスケさんの本は、本当に子どものある

【新連載】絆が深まる   4回シリーズ(3)

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 先日、卒業生の結婚式に呼ばれて行きました。今は立派な小学校の先生ですが、在学中は何かといろいろありました。同じテーブルが新婦の同級生だったので、思い出話に花が咲きました。その中で、旅行中に喧嘩した話が出てきました。仲良し4 人組で旅行に行った時のこと、些細なきっかけで話もしないほどの喧嘩になったそうです。確か、帰ってきてからもすこし引きずっていて、その話を新婦が学生時代ゼミの時に私に話していたことを思い出しました。ただ、「そんなこともあったよねー」と、当時喧嘩していたメンバーが顔をそろえていたので笑って話してました。そのうちの一人が友人代表のスピーチで「このことで絆が深まった」と言っていたのは印象的でした。

 最近、インターネット関係でこどものいじめ関係の会議に出させていただくことが多くなり、強く思うことがあります。それが、「人の痛み」のわからなくなってしまっているこどもが少なからず存在することです。このような席に話題の挙がるこどもの大半は、いい子で問題を起こしたことがなく、喧嘩などとは無縁のこどもたちです。しかし、よくよく精査してみると、人との関わり以外のところ(例えばゲームやネットや)では裏の顔を持っており、傷つくことを恐れながらびくびくしている姿が浮き上がります。遡っても、幼稚園時代にも喧嘩などたことがなく、本当の意味での人との交流ができていないことが浮かんできます。

 勘のいい皆さんなら何が言いたいかはもうお判りでしょうが、喧嘩や言い合いの経験はやはり必要で、軽く傷つく経験をしておくことで、人の痛みを知ることができるように感じます。もちろん理不尽な喧嘩や教職員の強圧的な態度によって傷つくことには意味がありませんが、こどもが自分の感情を前に出し、意見を戦わせる経験は、幼稚園時代にぜひとも経験しておいてほしいものだと思います。

 今、本学の学生を見ていると、すべての学生がそうであるというわけではありませんが、自分の意見は言うものの、人の話は圧倒的に聞かない傾向を感じます。直接的な意見のぶつかり合いを経験しないまま、小中学校でグループ学習を多く経験させられ、人の意見に流れていくことで楽に過ごそうとしてきた人は、人の話を聞くことで間接的に傷つくことをどこかで会得しているので、信じるものだけを考え、大勢の意見の中に埋もれていることでなんとかバランスを保っているように感じます。そのため時折「承認欲求」なるものが出てきて、自分の言いたいことだけを言い結果的に周りに迷惑をかけていく姿を何度か見てきました。

 幼稚園の取組で、こども同士の学びあいは当然取り入れておられると思います。ただ結果が出なくても、少し言い合ったりする場面を我慢してみていただければと思います。もちろんその方が後々面倒になるわけではありますが、数年後には「絆が深まる」可能性も信じてみてください。

【新連載】子どもたちのこれからのために幼稚園で育てたい3つの力

京都ノートルダム女子大学 現代人間学部こども教育学科教授 神月紀輔

 1 進むICT の利活用
 先生方は実感をされていると思いますが、幼稚園での生活は3年間で長いようで短いです。もう少し言葉を代えればあっという間に小学生になるということです。
 新聞ニュース等でご存じのこととは思いますが、小中高等学校では「GIGA スクール」構想により1人1台のパソコン(またはタブレット)が配布されます。
家にも持って帰ってきますので、家でネットが使える環境が必要になります。
 好む好まないにかかわらず、小学校1年生からは、何らかの形でネットと付き合うことになってきます。今後の学習や先のことにはなりますが就労のことなどを考えますと、このことはいいことであるとは思います。しかし、急に来ることを考えると、幼稚園生活でもその準備がある程度必要になるということになります。

2 幼稚園で何をすればいいのか
 私の私見も混じりますが、幼稚園児の発達段階では、急いでPC やネットに触れる必要はないと思っています。むしろ、デジタル機器の画面は、認知や視力などに関してあまり好ましいとは思いません。
 では、何を準備すればいいのでしょうか。
 実は、これまでの教育を大きく変える必要はありません。むしろ推進すべきです。幼稚園の時期こそ、人と人の触れ合いや、人を思う心を育ててほしいと思っています。

3 今育てたい3つの力
 PC やインターネットは人と人の連絡の手段です。前回のこの欄でも書きましたが、インターネットをしっかり扱うためには、人として人を思う気持ちが育っていることがまず前提で、拙速に機器を扱っても、人を思う気持ちがなければ、その情報は宙に浮いた情報になってしまいます。
 では特に必要な力は何でしょうか。私は、それは判断力・自制力・責任力の3つであると考えています。
 まず、判断する力は、経験が特に必要です。もっといえば失敗であったり、うまくいかないことから自分の力で解決していくことの経験が必要であると思います。例えば、お友達と意見が合わず衝突したり、思い通りにいかなかったり、それをどう解決していくか、まさにそんな経験を幼稚園では園児は毎日しているのではないでしょうか。そのことは、自信を待った判断や、正しい判断に結びついていきます。いろんな場面で人と一緒に活動することこそ判断力を育てると思い
ます。
 次に自制する力。やりたいなと思うことがあっても、人に迷惑がかかりそうだとか、別にやるべきことがあるとか、これもいろんな人との活動の中で経験し育てられていきます。家族の中だけでは、この力はなかなか育てることは難しいと思います。また、楽をしようとしたしり、簡単に物事を済まそうとばかりしているとこの力は育たないと思います。
 そして責任を持つ力。自分のやったことに責任を持ちたいです。掃除がうまくできる。自分で散らかしたら片付けをちゃんとする。一つ一つに自分でやったことは自分で責任を持つ。責任が持てそうにないことであれば人に相談したり、自制を働かせたりすることができてほしいと思います。

4 重要な幼児教育での人とのかかわり
 前回にも書きましたが、無責任な書き込みや、少し考えたらやめておけばいいようなことに手を出すなど、ネットの世界ではいろいろなトラブルが起きていますが、人として成熟していないことがまずは原因と思われます。
 いま、これからの世界を発展させるために、実は幼児教育や小学校の低学年での人とのかかわりをしっかりもつことが本当に重要になっています。

【新連載】いつも帰れる港をつくる

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 人は生まれてから人生を終えるまで冒険を続け、困難な航路を渡っていく試練に耐えていかなくてはなりません。誰かに助けてもらいながら、一人で生まれてきて一人で決めて一人で航海を続けていくのです。真っ暗な孤独な夜を迎えたとしても、荒波の中で明日の生命の危機を感じても、私には「帰る港がある」と思えることが心の拠り所になるのではないかと思います。
 「可愛い子どもには旅をさせろ」と言いますが、どんな子どもにも自分の人生を自分の力でたくましく生き抜く子どもに育ってほしいと思いませんか。帰れる港があることを知っている子は勇気をもって挑戦できるにちがいないと思うのです。いくら失敗してもかまわないのです。人生は失敗の連続です。大人は失敗を責めるのではなく、失敗は悪いことばかりではないということを教えることが重要です。そして生きていれば必ずいいことがあるということを教えておかなければなりません。そこには、基本的な信頼関係が重要です。信じられる大人がそこに居てくれること、いつも見守ってくれている人がいるということを体で感じて知っているからこそ、安心して失敗を乗り越えることができるのです。
 子どものこころを木にたとえてみます。こころの根っこを育てておけば、どんな強い風雨にも、どんな重い雪にもその枝が折れることはありません。しなやかにしなってまた元にもどってきます。そして寒い季節を枝の中でじっと芽吹く時を待ち、世界にたった一つの花を自分で咲かせるのです。愛情を深く受けた経験が根っこを深く張らせるのです。
 自分の考えや意見を自分の言葉で発する勇気は、子どもの時代の経験が大きく影響します。自分の言いたいことが言えずに、何かにおびえていたり、失敗や否定によって受け入れてもらえないかもしれない不安な表情を見せたりする子どももいます。自分の意見に耳を傾けてもらったり、共感してもらったりした子どもは、自信をもって次の日も次の日も挑戦し続けることができるのです。子どもが自分で解決しようとしているのに、先回りをして大人が代弁したり解決したりしていませんか?そんなことを子どもは望んでいるわけではないのです。自分の気持ちに寄り添ってほしい、自分で解決しようとしている背中を押してほしいと思っているのです。根っこのしっかり張れている子どもとはどんな子どもでしょうか。それは間違いなく愛情を深く受けている子どもです。安心して自分を受け入れてもらっていることを早くから感じ取っている子どもです。どんな
ことがあっても帰る港があることを知っている子どもです。子どもはいつまでも子どもではありません。一人の人間としての人格を形成していきます。だから、子どもを信じて待つことやどんなささいなことでも、子どもの考えを尊重し耳を傾けることを忘れずにいてほしいと思うのです。

3回シリーズ(2)【新連載】三つ子の魂は「食」から

滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

子どもが健やかに成長し自分の夢を実現するために、一番大切な資源は”健康”であることです。だから子育ては健康第一で考えてほしいと思います。人の体は、食べ物と経験でできあがっていきます。だから「食べる」という営みを慈しむ子どもに育ってほしいと思うのです。生きるエネルギーは食べることで与えられます。食べ方も教えてもらわないとできません。子どもから大人まで一生を左右するといっていい大切な人の営みです。人は食べることで命をつなぎ、食べることで人と人をつないでいきます。このような信念をもちつつ、私は小学校の教育現場で食育に取り組んできました。そして取組を進めていく中で、小学校以前の就学前教育から食を大切にしていただきたいと願い、子育て講座などで食育の話もさせていただいています。
 台所から聞こえてくる音、香り、今日のごはんは何かを想像する脳が一斉にフルパワーで活性化して働きます。このような経験の繰り返しが子どもの脳を刺激し、鍛えていきます。このような基本を知ると臨機応変に物事は展開されていくのだということが分かります。次は舌です。幼くても侮ってはいけません。本物の味は小さい子どもほどよくきき分けます。危険なものは感じ取って口から吐き出します。味覚は3歳から5歳でほぼ出来上がるとされています。できるだけ、子どもの目や耳が届く距離で調理をしてみてください。幼稚園や保育園でも同じです。小学校でも同じです。「美味しそうなにおいがしてきた!早く食べたい」
毎日の楽しみです。家庭では毎日の手の込んだ料理がむずかしいかもしれませんね。しかし無造作に食べさせるのではなく、手間暇かけることができないときも「これは○○ちゃんが好きなおかずだから」「これはおばあちゃんがよく作ってくれたよ」「これはこの季節が一番おいしいお野菜だから」「これは一緒に食べておいしいっていってたから」「きのうは何を食べたら今日はこれにしよう」といった会話を大事にしてほしいです。なぜそれを今日は食べるのかを子どもにも伝えることで、子どもはいろいろなことを学びます。そして一緒に
「おいしいね」と言って共感できる喜びを積み重ねることが大切なのです。
 自分の体をつくる食べ物なのですから無頓着な子どもにしないように心がけておきます。子どもは大人の真似が大好きですから、いろいろな情報をもとに自分で食べるものを選ぶ力がついてきます。無理やり嫌いなものを食べさせることを目標にする「おどしの食育」はよくありません。生きる自信と勇気につながる食育が大事です。ちなみ
に食育という言葉は家庭以外の保育や教育の中で使う言葉です。食育で取り組めることはほんの一部にすぎません。大半は家庭での食習慣で子どもの食生活は決まります。私たちは公平にどんな子供たちにも食育を通して、いろいろな経験をさせたり、知識を与えたりすることで、そのお手伝いができたらと思って取り組んでいます。

3回シリーズ(1)【新連載】肝心なときの傘

p style=”text-align:right;”>滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 子育て講座の講演をさせていただくときに、いつも宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」と「千と千尋の神隠し」に登場する親子の話を例にさせていただいています。「魔女の宅急便」の主人公キキが旅立とうとするときに、父と母は帚とラジオだけを持たせて背中を押すように暖かく見守ります。

一方「千と千尋の神隠し」では千尋は新しい土地に移る心の準備ができないまま引っ越すことになります。友人とも別れて不満と不安いっぱいの彼女は「早くしなさい」と車の後部座席へ乗るように母にせかされます。そして車を降りてからも、父母はさっさと道を歩きトンネルの方へ向かいます。「待って、待って」と千尋が叫んでも、振り返ることもなく置いていきます。真逆の象徴的な親子関係です。
 子どもは弱い立場です。親にこうしてほしいと思っていても、自分の思い通りにしてくれるわけでもないし、どうしてほしいのかもよくわからないのが子どもだからです。そこで、傘の話に例えて、子どもとの関わりを考えてみようと思います。「どうでもいいときに持たされるほど邪魔な傘はない」し「肝心なときに出てくる傘ほどうれしいものはない」という話です。親はどうでもいい時に傘を持たせていないか、肝心な時に役に立つ傘を持たせているか、このイメージを自分の子育てにあてはめるとはっと気づく親御さんも多いようです。

 次に傘をたとえに、しつけの話もしておきます。傘のありがたみがわかると、傘の扱いもうまくなります。傘をさしたりすぼめたり自分でできるようにさせます。私は校長をしていたときに毎朝、玄関で子どもたちを迎えていました。天気予報で夕方から雨がふりそうな日には傘を持たせてもらう子が多く、親御さんの愛情を感じました。そして雨の日も雪の日も子どもは傘をさして登校してきます。その子に合ったサイズの傘かどうか見ていると、もう小学生なのに幼児用の小さな傘でずぶぬれになっていたり、大人用の使い捨てのようなビニル傘の骨が折れて泣きそうになっている光景も見受けられたりします。子どもはすぐに大きくなるので、靴や傘は年齢にあったものを持たせてほしいと思います。そして、しずくが人にかからないように、道を歩くとき、電車やバスの乗ったとき、人の家や公共の場所での傘の置き方、階段での無配慮な傘の持ち方などきちんと教えておかなければなりません。こういったことは、実際に雨の日に傘をさして一緒に歩いてみないとわからないことばかりです。

 急いで傘をさして自転車に乗ったり、車に乗せてしまったりするのではなく、できるだけ時間がかかっても雨の日も一緒に歩いてみてほしいと思います。雨の日の登校や登園は時間もかかり、危険もいっぱいです。だからこそ自分の命を守るために身に付けておかなくてはならないのです。雨の日は、子どもの送迎があるから職場でも出勤時刻や退出時刻に余裕をもたせていただくようなお金のかからない子育て支援があってもよいでしょう。家計だけでなく時計にもやさしい子育て支援は子どもを真に健やかに成長させると思いますがいかがでしょうか。

【新連載】(番外編)「働き方改革」に思う

「働き方改革」に思う

(公社)京都市私立幼稚園協会特別支援教育研究会 顧問/ 元立命館大学教授 朝野 浩

 (公社)京都市私立幼稚園協会特別支援教育研究会を担当するようになって10 年を超えました。当初は、障害についての先生方の理解がまだまだ十分ではなく「保育上の困りの原因が、障害のある子どもたち自身によるものだ」との考えがありました。先生方の指導上の「困り」の原因が、子どもの行動上の偏りが障害そのものからくるとの考えです。ですから、「教室から飛び出すのを止めるにはどうしたらいいのでしょうか」「みなと同じ行動がとれないので、どうしたら参加できるでしょうか」「保育の途中に突然に保育者に話しかけてきて中断させてしまいます。どうしたら制止できますか」などコミュニケーションのとれな
さや集団行動に参加できない状態や日常身辺生活に関する行動の偏りに「どうしたらいい」と保育者だけでなく保護者なども含めて振り回されている感がありました。

 人の行動には必ず原因があり、環境や周りの状況に左右され、障害の特性がより困難さを増幅させてしまうことを、研修や個別相談の巡回指導の場で、対処療法的な方法ではなく、課題のある子どもだけではなく、全ての子どもにも当てはまる、日ごろの保育の上での大切な子どもの行動の見方、捉え方を説いていました。

 その解決には、先ず「ASDはこんな障害特性があります」「ADHAはこれこれの行動を示します」などという予防的・対策的指導法の考えから解き放たれ、子ども自身の行動をじっくりと観察することから始めます。保育者の「困り」の原因であるできていないことでなく、失敗しても頑張ってやろうとしていることやできようとしていること、これを私は「芽生え現象」呼びますが、これを見つけて、「いつ・どんな状況で・誰と一緒か」などを記録することから始めなさいと研修会で説き続けて10 年が経ちました。

 先生方の保育上のご苦労をもう少し全体に伝わるような方法がないものかと考え、特別支援教育研修会の事業の一環として、有志の先生方と共同で『保育支援計画』の作成もしました。なかなか活用していただいている現状ではありませんが、子ども自身の「困り」や成長を捉えることができ、
保育者同志や保護者と情報共有する材料となるものと考えます。

 標題の「働き方改革」は、一般的には労働者の働く環境や条件の改革を意味するものですが、究極は「はたらき甲斐」をどのようにしていくことだと思います。私たち幼児教育に携わる者は、子どもたちが楽しく、元気に、安全・安心して健康的に過ごせる環境を提供することに努めることと思います。そのためには、こども理解のための働き方(保育)を「生き甲斐」をもって挑戦することだと思います。課題や障害のある子どもの姿も多様性が日々増している中で、園内で保育者同志が協力して問題解決や障害や課題性ついて情報共有のあり方に挑戦する時代が来ていると思います。研修会のあり方も、よりニーズに応じた内容に改革していくことが大切になります。教育者の私たちの「働き方改革」はこの視点を除いては「やり甲斐」「働き甲斐」はないと思いました。

【新連載】4 回シリーズ(2)

ツシマヤマネコの生息域外保全

京都市動物園 園長    坂本 英房

 京都市動物園では、令和2 年に定めた「動物福祉に関する指針」に基づいて飼育する動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。

 京都市動物園の正面エントランスを入ってすぐにある施設で展示しているツシマヤマネコ。国内では長崎県の対馬にだけ生息する野生のネコの仲間で、哺乳類では、絶滅に最も近い動物の1 つです。東南アジアから中国、朝鮮半島に広く分布しているベンガルヤマネコの亜種とされ、約10 万年前に当時陸続きだった大陸から渡ってきたと考えられています。生息に適した環境の減少や交通事故などで生息数が減少し、2010 年代後半の調査によれば、対馬における生息数は約100 頭または約90 頭と推定されています。1971 年に国の天然記念物に、1994 年に「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」いわゆる「種の保存法」に基づいて国内希少野生動物種に指定されました。環境省レッドリスト2020 では、近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧IA 類に分類されています。
ツシマヤマネコを絶滅から守るにはふたつの方法があります。ひとつは対馬の自然の中で安定して暮らせるように環境を整えて数を増やす「生息域内保全」です。もうひとつは動物園など対馬以外の安全な施設で育てて増やす「生息域外保全」です。

 対馬では、対馬野生生物保護センターが拠点となって、生息状況や生態の調査・研究、保護されたヤマネコを野生に返すための治療やリハビリ、地元ボランティアや企業と協力し、ツシマヤマネコと共生する地域社会づくりなどヤマネコが暮らしやすい環境づくりの取組が行われています。

 動物園では、公益社団法人日本動物園水族館協会の生物多様性委員会を中心に京都市動物園を含め10 園が協力してふたつのことに取り組んでいます。ひとつは動物園で数をふやすことで、動物園で生まれたツシマヤマネコを、対馬の環境が整い自然の状態で安定して暮らしていけるようになったときに、野生復帰個体として対馬に送り出すことが期待されています。また、複数の動物園で飼育することは、生息地で災害や感染症の発生など大きな問題が生じたときに、絶滅を防ぐ目的もあります。もうひとつはツシマヤマネコのことを、動物園を訪れる多くの人に知ってもらうことです。多くが民有地で暮らしているツシマヤマネコを守るためには、多くのみなさんの理解と協力が必要です。ツシマヤマネコがおかれている厳しい現状や、対馬のすばらしい自然環境などについて知ってもらうためには、実際にツシマヤマネコを見て、身近に感じてもらうことも大切だと考えています。

 京都市動物園では、2012 年から1 頭の繁殖適齢期を過ぎた個体の展示を開始し、2015 年からは非公開の繁殖施設で3 頭のツシマヤマネコを飼育し次繁殖に取組んでいます。2017 年には2 頭の赤ちゃんが誕生し、そのうちの1 頭は父親になりました。

 動物園で暮らすツシマヤマネコたちが、野生復帰も含めて対馬の個体群を支え、ツシマヤマネコが希少動物ではなく対馬で人と共に普通に暮らしていける日が来ることを心から願っています。

【新連載】4 回シリーズ(1)

動物が幸せに暮らすことができる動物園を目指して

京都市動物園 園長    坂本 英房

 京都市動物園では、令和2 年に定めた「動物福祉に関する指針」に基づいて飼育する動物が幸せに暮らせるように飼育担当者と獣医師、研究員という立場が違う職員が共同して動物福祉の向上に努めています。

 動物は、痛みや苦痛、喜びなどの感情を持つ点では人と同様です。一方、進化の過程でそれぞれが異なる環境に適応するために発達してきた独自のからだの特徴や行動を持っています。そうした人と似ているところ、違うところを理解したうえで、その本来の性質を十分に発揮できるような環境を整える必要があります。動物が幸せに暮らしているかどうかを動物から直接聞き取ることはできませんので、その行動から推し量ることになります。同じ場所を行ったり来たりするような問題のある行動を減らし、その動物が持つ本来の様々な行動を引出して、野生で暮らしている状態に近づけることを目指しています。

 こうした取組に欠かせないのが環境エンリッチメントです。環境エンリッチメントとは、動物が心身ともに健康で暮らせるように,動物の生態にあわせて、本来の生息環境に比べると単調で変化に乏しいものになりがちな飼育環境を豊かにするような工夫を加えることです。日差しが強い時には日陰のある場所を、日光浴がしたいときには日向を動物自身が選べるような選択肢を増やし、木の枝を折ったりかじったり巣の材料にするなど動物自身で操作ができることも重要です。

 令和2 年度にはアジアゾウ,キリン及びウサギ等のふれあい動物を,令和3 年度にはアカゲザル,フラミンゴ及びナマケモノを対象に,飼育員,獣医師,研究員がチームとなって動物福祉向上に取り組んできました。例えば、アジアゾウでは、夜間の寝室の狭さがストレスになっている可能性があったので、安全性を十分に検証したうえで、夜間、屋外のグラウンドを開放して、広い空間と屋内の両方をゾウが選択できるようにして、夕方18 時から翌朝8 時までを録画して5 分毎の行動を記録しました。そして、屋外を利用していた割合と問題のある行動や横になって眠っている時間について解析を行ったところ、20 年度はある程度の屋外利用があり、常同行動は減少傾向にあることがわかりました。また、21 年度は他の個体と一緒に夜間開放すると問題のある行動が減り、横になって眠るリラックスしている状況が増える個体もいることがわかり、良好な社会関係にある個体同士で夜間のグラウンド開放を行うことで、動物福祉の改善に有効であることがわかりました。特に,重点的にエンリッチメント向上に取り組んだゾウをはじめとする動物については,「生き物・学び・研究センター」の研究員を中心に科学的・客観的な評価を実施し学会発表や論文としてまとめました。さらに他の動物園や大学との連携等を通じ,さらなる取組の向上に活かしています。

 こうした動物園全体での動物福祉向上のための体制整備が評価され,令和3 年に市民ZOO ネットワークによるエンリッチメント大賞2021 を受賞しました。これからも飼育動物が幸せに暮らせる動物園を目指し職員が一丸となって継続して取り組んで行きます。