新連載

【新連載】ゲン担ぎ   4 回シリーズ(2)

真宗佛光寺派 大行寺住職 英月

 こんにちは英月です。突然ですが、みなさんは「ゲンを担ぐ」ことって、ありますか? 以前に良い結果が出たことと同じことをして、また良い結果が出ることを推し量る意味があるこの言葉。実は、私の友達が面白いゲン担ぎをしています。

 彼女の仕事は歌手。作詞作曲をし、ツアーで全国を回っています。透き通るような歌声、ゆるくパーマのかかった長く茶色い髪、レースを多用したヒラヒラの舞台衣装。そんな彼女はステージに立つ時、「お年寄りの銀座」といわれる巣鴨で買った、おへその上まで覆う赤いパンツを履くそうです。儚げな雰囲気とのギャップに、聞いた時は声を出して笑ってしまいました。けれども彼女は大真面目。何でも、運気がアップするといわれている下着を、面白半分で買ったのは10 年近く前のこと。有名なお笑い芸人さんたちも愛用しているというそれを、試しにライブの時に身に着けたら、満足のいくステージになったそうです。以来、ライブでは必ず身に着けるようになったとか。関西在住ですが、わざわざ東京の巣鴨まで買いに行くというから驚きです。

 さて、ライブではないですが、私も仕事でステージに立つことがよくあります。全国各地、そして時には海外でも、講演のご縁をいただきます。僧侶としてお声がけをいただいているので、お話しをする時は、黒い衣の上に輪袈裟という、輪っか状になった袈裟を首
にかけます。そして、手にはお念珠を持ちます。輪袈裟のデザイン、お念珠の色や素材は様々で、それぞれ何種類か持っています。たとえば輪袈裟なら、春には桜が織られたものを、夏には蛍と季節に合わせたものを選ぶこともありますが、実はそれだけではありません。講演会が盛り上がり、自分自身、うまく話せたと思う時に身に着けていたものは連続して使い続け、思うように話せなかった時に身に着けていたものは、しばらく使わなくなります。何となく手が伸びないのです。

 講演会の出来不出来の原因が、輪袈裟やお念珠にないことは百も承知です。けれども、心のどこかで、それらの“せい” にしているのか、ハタマタ“せい” にしたいのか。同じ物を使い続けたり、反対に身に着けなくなったり。けれどもこれは、私だけではないと思
います。「勝つ」に通じる豚カツを食べたり、「ご縁」があるようにと5 円玉を身につけたりしたことは、皆さんもあるのではないでしょうか。

 そのようなことが、ダメだと言いたいのではありません。私自身、輪袈裟やお念珠を選ぶ時に、何気なくやっていたように、意識せずともやっているのがゲン担ぎです。当然ながら、それには根拠はありません。そして、根拠がないと知ることが、実は大事なことなのかも知れません。残念ながら、これを身に着けていれば大丈夫!とゲン担ぎで得られる安心は、裏を返せば、それがないと不安に駆られてしまうものです。安心だと思ったものに振り回されているって、滑稽ですね。他でもない私自身のことですが。