新連載

「本物に触れて…自然活動の大切さ」2回シリーズ(2)

本物に触れて…自然活動の大切さ

公益財団法人 京都YMCA
事業部 青少年育成部門
部長 久保田 展史

 キャンプのお話をいたします。自然の中での自然の大きさに触れ、仲間同士と指導者のもと共同生活をするキャンプのスタイルは、子どもたちに自立や自信、新しい興味を見つける機会が与えられ、新しい友人ができるなど大きな喜びを体験させます。そのことは子どもたちの生涯にわたって大きな影響を与える、「生きる喜び」を知ることのできるチャンスであろうと私たちは考えています。

 YMCAのボランティアリーダーの大先輩に弘田さんという方がおられました。K医大の脳外科のドクターでしたが、残念ながら脳出血で10年前にお亡くなりになりました。生前に先生はよく話してくださいました。中学校の時にYMCAのキャンプに参加して、夜のキャンプファイアーの時の指導者のお話を聞いて医者になろうと決意したという話です。その時の指導者のお話はあらかたこの様な内容だったそうです「この火はいくつもの薪が重なって燃えている。1本の薪ではこんなに大きな火にはならない。いくつもの薪が重なってこんなに大きな火になって、明るく温かく周りを照らしてくれる。そしてこの薪のすごいところは自分たち自身を灰にしてこのことを成し遂げているのだ。自分も自らをささげて多くの人々に明るさを与えるような生き方がしたい。」というお話であったそうです。このお話を聞いて弘田少年は人の役に立てる職業は何であろうと考え、医者になろうと決意してその道を歩みはじめたのだそうです。

 わたしたちは「キャンプは子ども達の生き方に大きな影響を与える」と考えています。

 毎年1週間の日程のサバイバルキャンプに参加してくれていた男の子、あるとき「リーダー!僕、来年はもっとすごいことがやりたいなあ」と自ら挑戦を申し出てきました。『じゃあ、いつも浜に出て1泊するサバイバル(毎回最小限の持ち物と食糧、テント代わりのビニールシートを持って一人で1泊して帰ってくるサバイバルプログラム)で、ビニールシートを持たずに出かけてみようか』「えっ!雨が降ったりしたらどうするの?」『テントの代わりになることを考えたら?たとえばかやぶき屋根の小屋を建てるとか・・。』「うん考えてみる…。」この子は1年かけて考えてきて、翌年に「お願いだから草刈り鎌だけ追加して貸して!」とそのほかの道具と一緒に草刈り鎌を持って浜に出かけ、流木で柱を建て、草を刈ってその上に敷き詰めて、小さな小さな小屋を作りました。(最初は大きなものを作っていましたが、何度もやり直して小さなサイズにしたのです)それはほかの子ども達にとっては驚くべき存在で、工夫することの素晴らしさを知らしめました。もちろん本人は得意満面です。翌年はより工夫を凝らした小屋を作りましたし、その次の年には水を持たず井戸を掘って水を得て浄化することに挑戦、一人で3メートルの穴を掘りました。(これは衛生面で最後まで達成できませんでした)彼はその後も指導者と相談しながら課題を作っては挑戦してゆきました。高校3年生を終えた彼は私のところに来て「僕は府立大学の森林科学科に行くわ!自然のことをこれからもやっていきたいねん。そう期待してたやろ!」とにやりと笑って帰っていきました。今は林業にかかわる仕事についています。

 成長期の多感な時に自然の中の生活や、ある意味不自由な生活の中で真剣に生活する体験をすると、あらゆる感性が研ぎ澄まされると考えられます。そしてそこで見聞きしたことや体験は必ずや忘れられないもの、あるいはその子の将来にわたる重要な価値観になることでしょう。

 ぜひ子ども達に自然の中での体験や共同生活体験の機会をたくさん持たせてあげたいですね。