新連載

「花が咲く朝顔と咲かない朝顔」3 回シリーズ(1)

花が咲く朝顔と咲かない朝顔

佛教大学 教育学部

 自然は、幼児の心を育むのにいろいろな経験を与えてくれます。
幼児にとっては具体的な体験を通して自分自身の目でつかみ取ることが大切です。
初夏の頃蒔いた朝顔が、夏休みになる前からつるがのびてきました。
苗床に蒔いた種からかわいい双葉が生えてきました。毎日水をやり、肥料をやっているうちに大きくなったのです。
そして、終業式にその朝顔を家に持って帰りました。
「きっと大きな花が咲きますよ。毎日忘れずに水をあげて下さいね」。
先生のことばをまもって一生懸命に世話をしました。
朝顔のつるや葉はぐんぐんのびて大きくなりました。夏休みに入ると大きな花を毎日一輪ずつ咲かせました。
幼児の生活に何とも言えない豊かな心を与えてくれます。
「一生懸命お世話したからよ。良かったね」。
お母さんに褒められた幼児はどんなに嬉しかったことでしょう。
朝顔の成長を眺めることは、一朝一夕ではできません。
土の中に埋めた種が芽を出してのびる、そして、花を咲かせる。それがまた萎れる。このようなことは文字や絵で説明しても理解できないものなのです。
土の中から種が芽を出してきて、双葉となる道程などはとても不思議なことです。
「どうして種から芽が出るの?」「どうして茎に蕾がつくの?」「どうして花になるの?」
花にいろいろな色がつくのはとても珍しいことでありますが、幼児が目でみて、肌で感じることができるのです。それをこの夏の間に知ることができたのです。
9月になった時のことです。
あるお母さんから、
「せっかく持って帰ってきた朝顔に一つも花が咲かなかったのです。もっと良い種を植えて花が咲くようにしてください」。
ということばを聞きました。
種を植えると必ず花が咲くというものではありません。花の咲かない朝顔もあるのです。それを知ることも大きな収穫になるのです。
花が咲くことは良いことですが、花の咲かない朝顔には、どのようなことでそうなったのか、水が足りない? 逆に雨が多すぎて根が腐った? 肥料が足りない? その原因を調べる方向付けを幼児に知らしめることだってできるのです。
やがて芋掘りも経験します。土を掘った時に、芋がつるに一つもついていないのに腹を立て、「一つも芋がついていないなんて、つまらないわ。もっといい畑にすればいいのに」と、幼児を前にしてこのことばは禁物です。
土の中に必ず芋が二つずつ出来ているのなら、どこかのスーパーで購入し、畑に並べておけばいいのです。
土を掘ってみて、土の中から出てくる芋が大きかったり、小さかったり、全くできていないところもあるのです。それがわからないところに芋掘りの楽しさがあり、科学の芽生える余地があるのです。
自分の目で、手で知ることができること、時間をかけなければ知ることができない経験を与えることができるのです。
失敗から学べるもの、それも経験から学べるものは幼児にとっていかに得難いものかを知っておくと、その時の幼児へのことばは変わってくるはずです。