新連載

「一冊の絵本から保育を考えると…」2回シリーズ(1)

一冊の絵本から保育を考えると…

平安女学院大学短期大学部 保育科教授
金子 眞理

 絵本「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ」おかざきけんじろう 絵・谷川俊太郎 文クレヨンハウス

 9年前「月刊クーヨン」(2004 年4月号付録クレヨンハウス出版)の付録だったこの絵本と出会った瞬間、今までに味わったことのない感動を覚えました。それからというもの、私は読む機会があればどこででもこの本を読み語り、いつしかこの本が私自身の宝物になったくらいです。

 さて2000 年にブックスタート運動が始まりあかちゃんに絵本をプレゼントする市町村が増えてきました。私自身もブックスタート関連事業でこの5年間、0ヶ月から6ヶ月のあかちゃんのグループそして7 ヶ月から12 ヶ月のあかちゃんのグループにわけて図書館でのおはなし会をもっています。そこで最初に語る絵本が「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ」です。前期のグループでは平均おおむね4ヶ月のあかちゃんが母親とやってきます。
絵本をひらいて「ぽぱーぺぽぴぱっぷ ぱぱぺ ぱぷぽぴ・・・」と語っていくと、あかちゃんは手と足を緊張させたり呼吸を絵本のリズムに合わせたりします。そこで親はあかちゃんが全身で絵本のリズムを感じる瞬間に出会い、そして感動するのです。後期のグループはおおむね7ヶ月のあかちゃんがやってきます。こんどはおすわりができ、はいはいができるあかちゃんです。
「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ ぱぱぺ ぱぷぽぴ・・・」と語っていくと、はいはいしているあかちゃんの動きがとまり笑顔に、またおすわりして手と足をばたばたしているあかちゃんの動きがとまりいっしょうけんめいに絵本のことばのリズムを感じそして笑顔になる瞬間に出会います。親たちはその瞬間、瞬間の姿に感動し絵本の持つ力に圧倒され笑顔で図書館をあとにされます。幼稚園に通っているこどもは「英語や!」とさけんだりもします。この絵本の力はいったいどこからくるのか今も不思議でなりません。

 絵本の作者である谷川俊太郎さんと出会う機会があったとき、大きなヒントをいただきました。それは、「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽのひみつ」だと。確かにぱ行(オノマトペ)の音はマザリーズのように抑揚のある音、またぱ行を発すると表情筋も豊かになるなど、ぱ行のひみつに気付かされました。さらに、ぱ行を声にだしてみました。するとその声は額に響くのです。それはまさしく頭声発声と言われているものであることに気がつきました。頭声発声でことばを発するとそのことばが豊かに、そして心地よく広がっていきます。さらに「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ…」を声にだして読んでみると、マザリーズと頭声発声の関係が良く理解できてきたのです。

 さて、そのひみつから保育を省みると、保育者の発することばかけの声はどのような声になっているでしょうか。心地の悪い胸声発声になっていませんか。それとも心地の良い広がりのある頭声発声になっていますか。今一度、保育環境の振り返りをしてみてください。保育者は、こどもが遊びたくなるような、歌いたくなるような、楽しくなるような心地の良いことばを、そして何よりもこどもの笑顔がみられるよう願いと祈りをこめたことばかけの環境を構成していかなければなりません。

 さあ大きな声で「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ」の絵本を語ってみませんか。