新連載

「わらって おはよう」3回シリーズ(2)

「わらって おはよう」

京都聖母女学院短期大学 児童教育学科
教授 河嶋 喜矩子

 私が大切にしている心・言葉は、『わらって おはよう』です。この言葉は亡くなった母の口癖の言葉でした。京都うまれの、京都そだちの母は、私に小さい頃からよくこんな風に言っていました。「朝ニコニコ顔で出逢ったお人さんに おはようさんって言うとおみ。その日ええことあるえ」と。

 京都では、言葉のはじめに よく「お」と「さん」をつけます。豆腐のことを「おとふさん」、油揚げのことを「おあげさん」という風に。母の言う「おはようさん」の言葉は、幼い私にとって、とてもやさしい響きがあり、特別な言葉として心の奥に残り続けました。

 しかし、ニコニコ顔で、おはようさんと言うと どんなええことがあるのか、その意味はわかりませんでした。

 私は「ええことって 何やろ」と長い間 思い続けていました。そして、ある日、母の言うように、ニコニコ顔で「おはようございます(おはようさん)」と言ってみてはじめてその意味がわかりました。言った私がとてもいい気分になったのです。そして言われた相手の方、どなたも笑顔になられました。お互いにいい気分になれる、相手と心がつながるこんなええことはありません。その日、特別に何かあったわけでなくても、とても爽やかな気分で、人との出逢いの楽しさを感じるひとときを過ごせます。きっと、母が私に伝えたかった「ええこと」の意味は、このことだったのではないでしょうか。

 そして、私は幼稚園につとめました。毎朝150人の子どもたちと出逢います。ニコッと笑って私の前を走り抜けていくけんちゃんには、「けんちゃん おはよう」と『わらって おはよう』の心を込めて 言葉をかけました。丁寧におじぎをしながら、「おはようございます」と言うじゅんこちゃんには、「じゅんこちゃん おはよう。きょうもげんきにあそぼうね」と『わらって おはよう』の心を込めて 言葉をかけました。一人ひとりの子どもに母から教わった『わらって おはよう』のこころ・言葉を伝え続けました。

 おかげさまで、かわいい子どもたち、お母さん(保護者)方、そして仲間の先生方という「人という宝物」に出逢うことができました。本当に「ええこと」がたくさんありました。

 現在、私は 大学で 幼稚園の先生や、保育士を目指す学生さん達に、保育の楽しさ、むつかしさ、重要さ、そして 素晴らしさなどを伝える仕事をしています。授業のはじめには必ず『わらって おはよう』のあいさつをかわしあっています。

 

 今も、これからも 『わらって おはよう』のこころ・言葉は 私の生きていく上での大切な指標となり続けることでしょう。