新連載

保育実践で遣いたい『明元素ことば』3回シリーズ(3)

保育実践で遣いたい『明元素ことば』

京都聖母女学院短期大学 児童教育学科
教授 河嶋 喜矩子

 保育者が、保育実践の場で遣っている言葉には、『明元素ことば』と『暗病反ことば』の2種類があるといわれています。

 『明元素ことば』とは、文字通り、明るく、元気で、前向きな言葉です。たとえば、楽しい、おもしろい、幸せ、きれい、すばらしい、やってみよう等です。

 『暗病反ことば』とは、暗くて、病気で、否定的な言葉、たとえば、忙しい、つまらない、いやだ、だめだ、まずい、不幸だ、困った、つらい、やりたくない等です。

 この2 種類の言葉は、思いを伝えると共に、保育者の生き方や考え方を表すものではないでしょうか。

 先日、ある幼稚園の保育を参観させてもらった時のことです。偶然、この2つの言葉を耳にする機会がありました。遊んでいる途中で、雨が降ってきました。すると、その様子をみたA保育者は、子どもたちに、「あっ、雨が降ってきた。いややねぇー」と不満そうに言葉をかけられました。近くにいたB保育者は、「おや雨さん、降ってきた。お部屋にはいろ。何してあそぼ。お部屋でいっぱいあそべるねぇー」とにこにこ顔で、子どもたちに言葉をかけられました。

 保育実践の場で、保育者は子どもたちに、さまざまな言葉をかけています。言葉を遣って話すということは、保育者としてたいへん重要な役割のひとつです。A保育者の遣った「いややねぇ」は『暗病反ことば』、B保育者の遣った「お部屋でいっぱいあそべる。うれしいねぇ」は『明元素ことば』です。二人の保育者の言葉を聞いて、それぞれの子どもたちは、どう思ったでしょうか。

 保育の営みとは、子どもたちと、夢と勇気と希望を語らうくらしです。私たち保育者はどんな言葉を遣っていけばよいのでしょうか。

 『明元素ことば』を遣おうと心掛けてられるけいこ先生のエピソードをご紹介したいと思います。
[イチゴ いいにおい、イチゴジュースができました]

 3歳児のクラスで、イチゴの栽培をはじめました。みんなで、毎日毎日みずやりをして、大切に育てました。イチゴは見事に育ち、みんなで食べました。

 ある日のこと、葉の下にかくれていた最後の一粒を、まみちゃんがみつけました。大喜びのまみちゃんは、まっ赤に熟れたイチゴを手にして大好きなけいこ先生のもとへ大急ぎで走り出しました。ところが途中でスッテンコロリと転んでしまいました。まみちゃんはイチゴを握りしめたまま大泣きです。まみちゃんの様子をみて、かけよるけいこ先生。さて、けいこ先生は、まみちゃんにどんな言葉をかけられたでしょうか。