新連載

「子どもと音楽」3回シリーズ(1)

「声を合わせる~歌うことは、生きること、つながること」

京都教育大学
平井恭子

 今回から3回シリーズで「子どもと音楽」についてお話したいと思います。まず第一回目は、子どもにとって最も身近な「歌うこと」の意味を皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 先日ある幼稚園のそばを通りかかると「こいのぼり」の歌が聞こえてきました。「ああ、もうすぐ子どもの日だな」と感じるとともに、歌は子どもたちの生活を豊かに彩ってくれる大切なものだなと改めて思いました。

うたとの出会いはいつから?

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 ところで、子どもたちはいつからどのようにして歌と出会い、歌うことできるようになるのでしょう。最近の研究では、通常の語りと歌とでは、はるかに歌の方に赤ちゃんが強く引き付けられることが分かっています。写真は、生後3か月の赤ちゃんにお母さんが童謡の「ぞうさん」を歌い聞かせている場面です。お母さんが「ぞうさん、ぞうさん…」と歌い始めると、赤ちゃんはにこにこしながらお母さんの目をじっと見つめ、歌を聞いています。そして、お母さんが2番の歌詞にさしかかったとき、それまで黙って聞いていた赤ちゃんは母の声にやわらかい小さな声で「アー、アー…」と声を重ねてきました。赤ちゃんと身近な養育者との間で声を通じたコミュニケーションが成立した瞬間です。

同調することでつながる

 赤ちゃんとお母さんの例からも分かるように、他者と声を重ねることは一体感を得たり、共鳴したり、社会的なつながりを得る上で非常に有効にはたらいているといえます。またこうした特徴は歌に対してだけでなく、マザリーズとよばれる抑揚の大きい、ゆっくりしたテンポの独特の語りかけにも同様の反応が認められます。音声を通して人と人とがつながること、これがうたの原点といえましよう。

歌の原点を見直してみましょう

 幼児期になると、歌は生活の中で友達との喜びを共有したり、きずなを深めたりするうえでとても大切な存在になります。一人で歌う歌、仲良しの友達と歌う歌、先生やクラスのみんなと歌う歌、歌うスタイルも様々に変化してきますが、互いの声を聞きあい声を重ね合わせることは心と心をつなぐ大きな力となります。少々音がはずれても、ピアノが下手でも気にする必要はありません。歌の原点に立ち返り、先生自身が心をこめて積極的に子どもたちに歌いかけてもらいたいと思います。