新連載

「子どもと音楽」3回シリーズ(3)

【第3回】「「互いに感じ合って生み出すリズム」

京都教育大学
平井恭子

 「子どもと音楽」のシリーズも3回目になりました。1回目と2回目では、人が生まれてうたと出会い、やがて声と身体の動きがリズミカルに同期するようになる過程についてお話してきました。最終回の今回は、他人の声や動きのリズムに自分の声や動きを合わせる行為がもつ意味について考えてみたいと思います。

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 写真は、5歳児と6歳児が「じゃんけんほいほい」の遊びをしている場面です。この遊びでは「じゃんけんほいほいどっちかくす? こっちかくす、あいこでほいほいどっちかくす? こっちかくす…」とリズミカルに唱えながら拳を出したり引いたりします。二人は勝敗が決まっても、飽きることなく何度もこの遊びを繰り返しており、その様子からこの遊びの楽しさの要因が勝敗を決める以外にもあるのではないかと考え、遊びの様子をよく観察しました。すると、「動作のタイミングを揃え」たり、「二人揃って唱え」たりするために、拍に合わせて両腕や膝を上下させたり、お互いの呼吸を感じて拳を出すタイミングを調整していることが分かりました。つまり、こうして生み出されたリズムがこの遊びをさらに楽しくしているのではないかと気付きました。

 さらに、ある幼稚園で4~5歳児50名を対象にじゃんけんをしている場面を観察したところ、じゃんけんのタイミングをそろえるために子どもたちは様々な工夫をしていることが分かりました。例えば腕の振り下ろし以外にも、声を出しながらジャンプする、「あいこでしょ」の「しょ」の部分で足を踏み出す、など、足でタイミングをとったり、前傾姿勢で構える様子も見られました。また、1回目に相手とテンポが合わなかったある男児は、2回目にはかけ声と動きのテンポを落とし腕の動作を大きくして、タイミングを合わせるべく改善を試み、見事成功しました。このように、子どもたちは、遊びの中で相手と声や動きを合わせることに楽しさを見出し、そのために実に様々な工夫をしているのです。

 音楽を演奏する時、相手の音をよく聞き、互いの音を合わせることは非常に大切なこととされています。クラス全員で歌ったり合奏をする時など、先生方は全員の「声(音)を合わせ.る」という点でいつも苦労されているのではないでしょうか? しかし、互いに「音を合わせる」「タイミングを合わせる」といった感覚は、先生に教えられて急に身につくものではありません。じゃんけんのような日常の遊び場面で、子どもたちは、わくわくどきどきしながら互いに呼吸を感じ合い「合わせる」快感をつかんでいきます。子どもたちが掛け声をかけあったり、動作を揃えたりして成立する遊びはじゃんけん以外にもたくさんあります。幼稚園生活の中で子どもたちが互いに感じ合ってリズムを生みだす遊びを、たくさん経験させてあげたいものです。