新連載

3 回シリーズ(1)

「学校だより」より、「本」と出合おう!

京都市立小栗栖宮山小学校 校長 畠田靖久

 文化の日をはさむ2週間は『読書の日』です。
 私自身、今まで数多くの「本」と出会いは、現在の姿に大きく影響していると思います。
 最初の本との出合いは、記憶に残っている限り「いやいやえん」という本です。幼稚園以前のことです。
内容は、積み木の船で海に出かけたり、約束を破って山に入ると鬼が出てきたり、お話の世界に引き込まれて、すごくワクワクしました。何十回も何百回も読んでもらったと思いますが、毎回、海や山、森に行き、主人公のしげると一緒に冒険し遊んだことが鮮明に印象に残っています。モノクロの絵ですが、しげるがクレヨンで落書きした赤色がなぜか強烈に心に焼き付いています。その後も、限りなくいろんな本と出合いました。

 戦後間もない昭和22 年、まだ戦争の傷跡が数多く残る中で、「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」と、官民マスコミが一緒になって『読書週間』が始まりました。この運動は日本の国民的行事として定着し、日本人は世界有数の「本を読む国民」になりました。戦後の日本の発展を支えてきたのはこんな読書習慣の
積み重ねであったかもしれません。

 しかし、時代の流れの中でテレビやゲームが急速に普及し、子ども達から「本」が離れていきました。さ
らにコンピュータやケータイの加速度的な普及は、その利便性の一方で「読書」という子どもの全人格的な「ま
なび」を阻害し始めました。ケータイ依存、ゲーム中毒といった緊急的な課題はさて置き、目に見えないところで子ども達の活字離れがどんどん進行してきている状況は、未来の日本を背負って立つ子ども達の「想像力」「人間力」に大きな影を落としているのではないでしょうか。
 日本の子ども達の「学力」が相対的に低下しつつあるという議論がよくされます。「学力」を支える「考え
る作業」は、脳に豊富に使えるツール(道具)としての「言語」なしでは成り立ちません。算数でも社会で

も学校でのすべての教科の学習は「言葉・文字」を通して行われます。脳の中で言語を自由に使いこなせる
子と、使うのに四苦八苦している子とでは、「学び」の量や質に大きな差が出てくるのは当然です。それぞれ
の豊かな発想を、整理し表現していくのはまさにその子が持つ「言葉・文字」の力です。

 一方、子どもを取り巻く言語環境の劣化も見過ごせません。テレビのお笑いで「しね!」というような言葉が平気で使われる状況や、顔の見えないネットで相手へ誹謗・中傷の書き込みの氾濫など、人と人を豊かにつなぐ「言葉」の環境がどんどん失われつつあります。
また、家庭で一日を振り返りながら楽しくじっくり語り合う場や時間が減ってきているのも事実です。さらに、本や新聞などがいつも身近にない環境にもなりつつあります。そんな中で、家庭での会話が短い単語文でしか成り立っていないところも多くなってきているでしょう。

 だからこそ、今もう一度、意識的に「本」を子ども達の手元に取り戻すことが必要なのです。学校でも『読
書週間』での発信や、「一人一冊」「いつも手元に本を!」といった取組を進めています。ぜひお家でも簡単な絵本でいいので子どもに読み聞かせをしたり、一緒に図書館や本屋さんで好きな本を選んだり、大人が読書を
する姿を見せたり、テレビを消して本に向かう日や時間をきめたりして、子どもの「本」との出合いをいっ
ぱいさせてあげてください。

 勉強を楽ちんにスムーズに進められることで「学力」を向上させ、一人一人の想像力を生きる力に結び付け、
未来につながる世界や道を広げること間違いナシ!です。