新連載

【新連載】2回シリーズ(2)

子どもの発達とおもちゃ

神戸女子短期大学 永井久美子

 今回は、保育者・保護者の視点から子どもの発達とおもちゃの関係を考え直す事を趣旨として、記載させていただきます。とかく子どもとおもちゃの関係ということになると、一般家庭でのそれと幼稚園・保育所での保育のそれとはまったく別のものとして捉えられています。というのは、一般家庭での子どものおもちゃと言えば、保護者が買い与えた商品として流通しているおもちゃであり、後者の教育・保育現場においては自然物や文房具、廃材などを使って作られたおもちゃ等ということになるからです。前者の場合はともかく話題の既製品を購入し、その最新の仕様を決められた形で楽しむことに主眼があり、後者の場合はそのままではおもちゃとして遊べない素材を製作過程と見立ての遊びを通して、おもちゃへと加工していくプロセスこそに主眼があります。幼児教育学・保育学の研究ということで言えば、前者についてはあまり触れられることなく、後者の作成方法やつくられたおもちゃの保育への活用は研究の対象として扱われることが多くあります。

 このようなおもちゃをめぐる家庭と保育現場の違いについては、ここでお伝えする必要はないかと思われます。そして、今日の子どもを取り囲むおもちゃ環境は、教育や保育に精通した専門家や保護者が首肯できるものとは言いがたいものがあります。1年ごとに仕様変更されるヒーローものは遊びの継続性を切断し、また保護者に商品を買わせる経済的な意図しか持たないように思われます。また幼児から電子ゲーム機器といった遊びになじませることは、弊害が多くあります。電子ゲーム類のような、身体的な活動ではなく脳・神経系のみに特化した刺激的な遊びは、依存性があり、また実際の身体を用いないため、運動や巧緻性の発達を促しません。

 このような事情から、全面的に今日のおもちゃ・遊び環境に賛意を表することはできませんが、しかし今日の大多数の教育施設・保育施設に子どもを通わせ、近隣の子どもや保護者と人間関係を営んでいる限り、商品経済、マスメディアと結びついたおもちゃや文化環境から離脱することは困難であると思います。それゆえ、子どもの文化世界および発達を守る環境として、教育施設・保育施設の保育環境は重要だと考えます。
一方で、このような観察や考察は、商品としてのおもちゃを普段は使わない幼児教育・保育の実践者にも資するところが大きいと思います。それを顕在させるためには、私たちは、家庭のおもちゃと教育・保育のおもちゃという高い壁、そして家庭の遊びと教育・保育の遊びという高い壁を取り払う事は無理としても、壁を低くして研究していく必要があるのではないかと考えます。

参考・引用文献
弘田陽介・永井久美子(2015)子どもの発達と「メディア」としてのおもちゃ-保育現場におけるおもちゃと家庭における「妖怪ウォッチ」の商品の狭間で- 大阪城南女子短期大学研究紀要 49,69-92