新連載

【新連載】4回シリーズ(1)

子どもを見る目 その1
~信頼関係を築く「視線」/実習生の学びから~

立教女学院短期大学 幼児教育科 准教授 高瀬 幸恵

  保育者養成校に勤務し、教育・研究に携わっていますと、「子どもを見る目」について考えさせられることが度々あります。今回から4回にわたって「子どもを見る目」をテーマとして考えていきたいと思います。

 「子どもを見る目」とは、子どもをどのように理解するか、どのように捉えるかといったような子ども観や、子どもの言動や表情から思いを読み取り理解する力のこと、とすると、両者とも保育者にとって欠くことのできないもの、ということができるでしょう。

 短大の教員である私にいたっては、自分の「学生を見る目」の無さに反省することが多いのですが、保育者の卵である学生たちは実習を通してどうやって「子どもを見る目」の芽を育てていくのでしょうか。とある実習生の日誌の一部を抜粋して紹介したいと思います。

* * * * * * * * * * * *

 今までお弁当前のお祈りの時に、手を合わせることができなかったM ちゃんが、今日は自らお祈りをすることができていた。その様子を担任の先生は見ていて、お弁当の時間の後に、「今日、自分でちゃんとお祈りできてたね!」とM ちゃんをほめていた。お弁当の後は、色々とやることがあるにもかかわらず、さらに先生は、Mちゃんの前で他の先生にも「今日、M ちゃんがきちんとお祈りできていたんですよ!」と報告していた。

 M ちゃんは嬉しそうに体をゆらし、私に「今日ね、一人でお祈りできたの!」と教えてくれた。私が、「やったねM ちゃん!先生にもほめてもらえて嬉しかったんだね!」と言うと、顔をくしゃくしゃっと満面の笑みでいっぱいにして、私と一緒にジャンプした。そして、「お外へ遊びに行こう!」と私を誘い、元気に外へでていった。お片づけの時も、「ちょっとあっちのお手伝いしてくるわ!」と言って、自分からすすんで動くMちゃんの姿が見られた。

 M ちゃんは先生たちに強い信頼感を持てるようになったと感じた。先生たちの、個を見ながら集団を、集団を見ながら個を見ることができる視線が、きちんと子ども達に伝わり、信頼関係のもとになっているのではないかと思った。また、子ども達はそういった「ちゃんと見ているよ」というメッセージを受け取ることができるからこそ、自ら活発的に動こうという気持ちを持てるのだと思った。

* * * * * * * * * * * *

 この実習生は、M ちゃんと保育者の間に形成された信頼関係を感じ取り、さらにその背景には、保育者の「視線」があるのではないか、と気が付きました。その「視線」とは、集団を見ていながら個を見る視線です。この「視線」がもとになって信頼関係が形成されているのでは、と分析しています。また、子どもたちは保育者の個を見る「視線」のメッセージを受け取ることができ、それが子どもの自発性につながる、と考察しました。

 集団を見ながら個を見る、という言葉は保育を学ぶときによく耳にするフレーズですが、この実習生はそのことを実際の現場を通して自ら掴み取ったということがはっきり分かります。こうした学びを獲得するためには、学生自身が一人の人間として信頼関係を感じ取る力、他者からの「視線」のメッセージを感じ取る力を持つことが必要なのだろうと思います。そのためには、養成校や幼稚園の教員も、学生を一人の人間としてその個性を見つめ、信頼関係を築きながら学生と関わり、育てていくことが不可欠、と言うことができるでしょう。