新連載

【新連載】4回シリーズ(1)

森のようちえんの世界的広がり

広島文教女子大学教授(人間科学部・初等教育学科) 杉山 浩之

 人間は自然の中で生命を継承し、自然を活用し文化を発展させた。人間は自然によって生かされ、生き方を学ぶ存在である。森のようちえんにおいて大人(スタッフ、保育者)は自然の中で主体的かつ協働的に遊び成長する子ども(3 ~ 6 歳)を見守る。一般の保育と同じように幼児の発達課題を洞察し、必要な関わりはするが、好奇心を否応なく刺激する自然の中、大人が自然と子どもの間に介入し興味関心に応じて働きかけることには限界があり、邪魔にもなりかねない。森のようちえんでは自然も教師である。
 質の高い保育のための見守り保育は、必ずしも子どもの活動を成功や達成に効率的に導くとは限らない。自分の力で解決したことを子どもは決して忘れることはなく、生きる力を身につけていくのである。例えば、自然環境を初めに設定するのは大人であるが、当日の天候から、どこの森や自然を選択するかは、朝の子どもたちの主体的な話し合いに任されている。

 「森のようちえん(Forest Kidergarten)」は北欧のデンマークで発祥したと言われているが、スウェーデンにおいても自然の中での保育は以前から行われていた。幼稚園の創始者と言われるフレーベルも森の入り口に園舎を立て、自然の教育力を認識していた。

 デンマークでは20 世紀半ば、既存の保育に魅力を感じなかった母親たちが森の中で保育を始めた。この毎日型の森のようちえんは、20 世紀の後半から今世紀にかけて隣のドイツや韓国など、そして日本へ波及した。しかし、日本の森のようちえんは無認可の保育である。国の法律には幼稚園設置基準があるが、園舎など適合しない部分が多く、幼稚園として認可されていない。これは、世界的に見れば異例なことである。デンマークの私立園は、大型バスが移動兼保育室として認められ、園舎の形に拘ることはない。国が定めた保育内容の基準を満たす保育をしていれば有資格者の専門性を信頼して、人件費等の補助金が交付されている。ドイツの場合も森の中にバウ
ワーゲンという貨物列車の車両風の小屋や劇団から譲り受けた移動式小屋などが設置されている。いずれの国も森での保育の後も預かり保育を行う園では園舎を持っている。

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 森林教育の活性化法を整備し、幼児教育から大学教育まで野外で自然教育を普及する教育政策が始めた韓国の森のようちえんの場合は、森組が一般的な幼稚園の中に設置され、週に三日以上野外保育を行うタイプがあり、希望者全員が入れないほど人気である。毎日型の森のようちえんも当然あり、例えばソウル市内の南山公園などで活動している。韓国は、日本と同様、知的に偏った早期教育が流行し、外国語教育や受験中心教育の勢いが激しく、青少年の不登校、落ちこぼれ、引きこもりなどの問題が深刻化し、この精神的な問題を解決するために森林教育が導入された。カナダ、オーストラリア、アメリカ合衆国などでも野外保育(Outdoor Preschool)という名称のもと、自然保育が積極的に行われている。オーストラリアなどでは、環境教育を意識した野外保育が流行している。

 近代文明が発達し、人間は益々、自然から遠ざかりつつある。大人は偶に大自然に帰れば心身がリフレッシュして人間性を回復したり疲れを癒されたりするが、五感の敏感期にいる幼児は、この時期に十分に自然体験を積み重ねておくべきであろう。