新連載

【新連載】4回シリーズ(3)

森のようちえんの世界的広がり

広島文教女子大学教授(人間科学部・初等教育学科) 杉山 浩之

朝の会が終わると子どもたちは目的の場所まで走ったり、ゆっくりと道草したり、それぞれの自分のペースだったり仲間と一緒だったりする。6 人に1人程度のスタッフ(保育者)は先頭付近と後尾付近を子どもと共に歩んでいく。

 子どもの遊びにはいろんな活動がある。季節の草花の造形、お店屋さんごっこを初めとしたごっこ遊び、鬼ごこ、川遊び、小動物を見つける遊び、木登り、ツリーハウス造り、ターザンごっこ、野菜栽培や収穫・調理、薪割りや焚き付けなどなど。すべて生の自然から創り出す遊びの生活である。

 身体の爆発的な成長期でもある幼児期は、体力の限界に挑戦するような急な山道登りも達成感や冒険心を味わう活動として好まれる。身体面の発達と精神面の発達が重なった時、子どもは大きく成長する。帰りの会では、一日の活動の振り返り、歌、読み聞かせなどが行われる。最後に、森にあいさつして、森を後にする。

 保護者は、森のようちえんに様々な思いや期待を込めて子どもを預ける。認可外の森のようちえんに子どもを預ける保護者は、子ども時代の自然体験の良さを知っている場合が多い。子どもの教育だけでなく、生活スタイルも自然を大切にし、食生活を初めとする衣食住に拘る保護者もいる。

 自立した子どもを育てるためには、保育者の援助は控えめがふさわしい。積極的に手伝う、助けるという行為は自立を遅らせるからである。転んで泣いても、近づいて、慰める必要はない。褒める、叱るもしてはいけないわけではないが、余計なお節介は必要ない。ただし、一人ひとりの発達を見極め、必要に応じて、自己肯定感を高めたり、自
惚れを戒めたりするような関わりを行うことは大切なことである。ナイフやノコギリ、鉈も徐々に使えるようになる。マッチで火をつけることも覚えていく。かつての子どもたちがしていたように、遊ぶ道具を自然から調達し、自分で作る。自然の中で生きるための技術と知恵も身につけていく。自分で食べるものを自分で調理する経験も必要で
ある。森のようちえんでは「木登り」もよく行われる。昔は子どもの遊びとしてよく見られたが、最近は木登りする子どもは見かけない。木登りは腕や足だけでなく、恐怖心を克服する勇気や登り方を工夫する前頭葉の知的活動である。年少児は、初めは年長児の登る様子をじっと見ているが、やがて身体が大きくなり登れる日がやって来る。精神的にも大きくなる契機となる。

 森のようちえんは森が活動の中心であるが、地域で暮らす人々と交流し、社会生活も体験する。高齢者と子どもの生きるリズムが合い、お互いに求め合うということもある。里山保育がそれを可能にし、地域の伝統も継承される。