新連載

【新連載】4回シリーズ(4)

森のようちえんの世界的広がり

広島文教女子大学教授(人間科学部・初等教育学科) 杉山 浩之

 保育者(スタッフ)は、保育園・幼稚園の保育者を初めとして、キャンプ野外活動の指導者、小学校教員、森林関係の指導者、保護者など様々な出身からなる。無認可の場合、資格免許は必要とされてはいない。しかし当然、保育者としての感性や野外活動・自然についての基礎的な知識は必要である。それは一つの園で全員が持っている必要はなく、保育者が協働で得意分野や苦手分野を支え合いながら子どもたちの成長を見守っている。

 森のようちえんでは、保育者は積極的な関わりや声かけはしない。安全性の確保に関しても例外でなく、前もって安全のためのルールを子どもたちは覚えている。相当な危険な場所は、初めから遊び場として排除されている。ルールを守れば安全性が確保される環境が中心とはいえ、草むらに入れば蛇がいる可能性はある。しかし、前もって下見して、まむしなど毒蛇がいるような場所は出来るだけ避ける。深い池があるような環境であるとか、落ちれば命に関わるような崖がある環境などは適当な場所ではない。植物の漆(かぶれの木)やマムシ草が生える場所は自然環境では至る所にあるので、そのような場所では子どもたちに毒性のある植物は触れないことを教えておく。木の実に関し
ても、食べてよいものと食べてはいけないものとがあるので、自然状態に応じて決めるが、似ている木の実があるときなどはすべて禁止することが安全である。
ジュースや飴などは蜂を誘うので、森の中には持って来ないようなルールも必要である。安全性確保のための、服装があり、長袖長ズボンは夏でも同じである。胸元や足首の露出は危険である。それも環境によって柔軟に対応することが基本であろう。

 日本の森のようちえんでは、森に傾斜のある場合が多く、そこには小川や渓流がある。保育環境に水があることは活動の幅を広げる。水の中には生物が棲息し、生命活動がある。きれいな石があり、植物も育っている。
さらに日本では森に針葉樹や広葉樹など多様な樹木があり、食べられる木の実や果物も豊富にある。可能な食べものを見分け、調達する力も生きる力として大切である。

 多様な経歴を持つ保育者がいることは子どもにも良い刺激となる。生物多様性は種の保存を支える条件となる。人間組織の場合も同様のことが言える。保育者の特技や感性・考え方が多様であることは保育の豊かさを保障する。

 森のようちえんでは、森や里山など自然環境を中心にした野外保育が行われる。森や里山には、不思議で感動を与える自然の事象があふれている。そこでは、子ども一人ひとりが自分のペースで興味・関心のある事象にかかわることを通して、自己発揮を遂げ、遊びこんでいく。さらに、豊かな自然の中で好奇心を満たされて、仲間ととともに遊びを深めた満足感や達成感を味わいながら、子どもたちは遊びきっていく。保育者は自然環境の豊かさを十分に生かし、子どもたちが異年齢交流しながら、仲間とともに協同して遊びを創造したり工夫したりすることを援助する。森のようちえんの子どもたちは、豊かで不思議に満ちた自然環境の中で遊びきることを通して、健康な身体、豊かな人間性、学びの基礎を培い、仲間との遊びを通して思いやりや探究心が育ち、生きる力の基礎を身につけていく。