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【新連載】3回シリーズ(1)

絵の具やパスを使って

京都聖母女学院短期大学 准教授 山成 昭世

 本学の美術科授業では保育や教育現場で日常よく使用されている絵の具やパスを使ったさまざまな表現技術を習得し体験する授業を設けています。学生の中には「小さいころから思ったように上手く描けない」など造形表現に苦手意識を持ち、積極的になれず周りの目を気にして萎縮した態度で課題に臨む学生が多くいます。私は保育者や教育者を目指す学生が消極的な態度で苦手意識を抱えたまま、保育の場で造形指導に臨むことは避けたいと常々思っています。言葉による自己表現がまだまだ拙い子どもは絵や形に表したり、音やリズムに身体全体を使って何かを表そうとします。その思いを受け止め、子どもと共感できる保育者を育成したいと考えています。授業は具体物をそのままに書き写すのではなく、絵の具やパスを使ったさまざまな技法による表現を体験し、偶然できた色や形から意外性や面白さを感じ取り、思いがけない造形表現を発見する授業内容を取り入れています。絵の具やパスを使ったさまざまな技法をモダンテクニックと言い、小学校の「図画工作科」や幼稚園、保育園の造形指導でも多く取り上げられています。
 マックス・エルンストやジャクソン・ポロックなどの芸術家もさまざま技法を用いて作品を制作しています。シュルレアリスム作家を代表するマックス・エルンストはコラージュ(はり絵)やフロッタージュ(こすりだし)やドリッピング技法を用いて幻想的な作品を制作しました。エルンストにとってデカルコマニーやフロッタージュによる偶然の造形表現は想像力を刺激し創作に駆り立てイメージの源を与えるものでした。アクションペインティングを代表
するジャクソン・ポロックは、大きなキャンバスの上を筆を用いず絵の具を垂らしながら歩き回るドリッピング(drip)技法で、絵の具の重なり合った軌跡を表現し鑑賞者を圧倒しました。1950 年作「One(NO.31)」はポロックの代表作といえます。保育や教育の場でもよく使われているこれらの技法は、多くの芸術家も創作活動に取り入れており造形表現は広く深いと言えるでしょう。機会があれば是非、画集をご覧になってください。
 さまざまな技法を学ぶ授業は机上の作業に縛られず、一人ひとりの感性と身体全体の感覚を駆使しながら躍動感やリズム感を表現し新しい造形表現の発見になります。自らが体験することで全身を使った子どもの身体的リズムや感情表現と結びつき、子どもの自発的な造形活動を理解する手がかりとなっています。線を引いたり、点を打ったり、手で描いたり、見たままを描く緊張感から解放され、造形遊び的な活動を通して試行錯誤しながら表現する楽しさを味わえるように工夫しています。しかし、これらの技法表現は簡単に取り組むことができるが故に無意識に量産されて作品つくりの意識が低くなることは否めません。そこで瞬時の造形表現も時間をかけて取り組むように指導することで、画面構成や色調、リズム感、動静などが反映されテーマ性を帯びた作品となります
 授業アンケートからは「造形表現が深まり広がった。」「解放感がありのびのびと楽しく取り組めた。毎回わくわくした気持ちで活動したので、この気持ちを保育・教育の場で子どもと共有したい。」造形活動への意欲の高まり、さらに教育や保育現場での支援や環境設定や言葉かけにも意識が向き保育者としての気付きも伺うことができました。最終的に作品集としてまとめ作品を振り返ることで、「新しい表現に出会い、自分の作品を客観的に評価し自信が持てるようになった。自分の本ができたようで嬉しかった。」など達成感、自己肯定感が述べられていました。
この授業を通して自分が楽しんだ造形活動を子どもと共に実践し共感したいと意欲的に保育現場での造形活動を考える一助になったのではないかと思っています。