新連載

【新連載】3回シリーズ(2)

絵の具やパスを使って

京都聖母女学院短期大学 准教授 山成 昭世

 私は長い間、具象形態を塑像で作品制作しています。簡単に言いますと見たものを、心にあるものを粘土を使って立体作品へと仕上げていくことです。方法は芯棒を組み立て粘土でモデルの人体構造や、動き、量感を肉付け造形します。このような塑像の技法で作品制作している有名な芸術家はロダンがあげられます。京都国立博物館にある「考える人」は塑像制作された作品をブロンズに置き換えて造形されたものです。原型があれば複製が可能なので世界中に「考える人」は点在します。私の塑像制作への道は、京都芸術大学名誉教授・故山本恪二先生のアトリエに入門し彫塑の勉強をしたことに始まります。鉛筆デッサンが苦手な私に「粘土でデッサンすればいい」とアドバイスしてくださり、その一言が私の苦手意識を払拭し一層、粘土という素材に親近感を抱き塑像制作に打ち込むようになりました。粘土でモデリングしモデルの動静や生き生きとした生命感が表すことができ粘土でデッサンすることはこのようなことなのか理解することができました。

 自分自身の幼児期の原体験を振り返ると常に土に触れて遊んでいた記憶があります。作ったものを先生がたいへん褒めてくれ、土だんごや紐作りで偶然できた形からイメージが湧き見立て遊びをし、形を発見した時の喜びや充実感は大きいものでした。土を触っていると「親水感」や「親和感」が得られ落ち着いた態度と穏やかな気持ちで、時間を忘れ土遊びに没頭していました。太古から土は人々の生活と共にあり人が火を手に入れたことで粘土の造形物は存在し発展しました。土で造形された最初のビーナスは紀元前6000 年前に造られたとされバルカン地方で発掘されました。その造形表現は乳房や臀部が誇張され豊穣多産を願う人々の強い思いを現代の私たちに伝えています。太古の人々が土から生命感やエネルギーを感じる思いが私の造形活動の柱であり、よりどころとなっていると強く感じます。

 土の第一の特徴である可塑性は変形しやすい性質、元に形の戻らない性質を言います。真逆に元にもどる性質を弾性と言います。幼児にとって粘土遊びは自分の思いのままに形を作っては壊し、また作り直すことができる安心できる素材と言えるでしょう。幼稚園教諭によると何を教えて良いかわからない。また、粘土は準備や後始末が煩雑で扱い方が面倒で敬遠する傾向にあるとの事を聞きました。そこで、幼稚園児を招いて、本学で「粘土の造形遊び」を実践しました。実践では普段園児が手にしたことのないような大量の粘土を渡します。粘土の塊を糸で切断しそのなめらかな切り口を楽しんだ後は、団子作りや紐作りにはじまりそれらを繋いで「積む・つなげる・並べる」の活動がはじまります。隣の友だちと紐がくっついたり離れたりしながらそれらの遊びが発展し子どもたちが主体的に周囲と関わり目を向けて粘土の造形活動が展開していきます。ある園児が粘土の上を飛び跳ねていてその様子を見ていた他の園児たちも同じように粘土の上を飛び跳ね遊びの連鎖が起こりました。圧縮されて伸びた粘土は密度が細かく重なりより強くなります。その粘土を使って新たな造形活動が展開していきます。粘土は子どもが思ったように姿を変えます。これこそ可塑性と言う大きな特徴です。

 保育者研修で粘土造形の連続講習を担当していますが、参加した保育者の報告には「子どもの心情、意欲、態度、思いに寄り添う、共感するということが粘土造形を体験して理解できた。一番の成果は子どもと同じ立場に立ってその思いを感じた。」とありました。また、「楽しそうだからやってみたいという意欲、作品作りに没頭した集中力、自分のイメージに通りの表現法を見出した時の喜び、作品が出来上がるまでの期待感、そして完成した時の達成感。そのような感情こそが保育に大切なものと感じた。さらに、言葉ではなく心で理解する。心が育つ、心を育てることがこの研修会で理解できた。」と述べられていました。幼稚園教育の現場で働く皆さんも、土に触れ園児と共に思う存分粘土遊びを楽しんで欲しいと願っています。