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【新連載】3回シリーズ(1)

カメルーンの森に暮らす子どもたち

国立民族学博物館 戸田美佳子

 中央アフリカに位置するカメルーン共和国。アフリカの縮図と呼ばれるこの国は、赤道近くの南部熱帯雨林帯から、北に向かって雨季と乾季をもつ半乾燥の草原であるサバンナ、そして乾燥したステップへと、湿潤から乾燥へと連なる多様な気候や植生が広がっている。人びとはそれぞれの自然環境に適応した狩猟や採集、農耕、牧畜を営み、平等主義的な社会から王をもつ重層的な社会まで多様性に富む社会を築いてきた。

 私は2006 年からほぼ毎年この国を訪れ、人類学的な調査をおこなっている。この国の公用語である仏語も現地語もできなかった私に「これは・・って言うんだよ」とたくさんの物の名前を教えてくれ、川や森で一緒に遊びながら生活の仕方を身につけさせてくれたのが、優しくも頼もしい、そこに暮らす子どもたちである。
3回にわたって、私の先生でもあるカメルーンの子どもたちを紹介していく。初回は、熱帯雨林に暮らす狩猟採集民である。

 カメルーン東南部は、世界第2の森林面積を誇るコンゴ盆地の北西端に位置し、森林性のマルミミゾウやゴリラ、チンパンジーなどの希少動物が生息している。そしてこの森に古くから暮らしてきたのが、肘から拳までの長さを表すギリシャ語にちなんで「ピグミー」と名付けられた狩猟採集民たちである。

 鬱蒼とした森林のなかをさっそうと駆け回る彼らは、まさに「森の民」といえる。動植物について驚くほどの知識をもち、例えば、(私には)どこにいるのかもわからない動物の鳴き声だけで「(動物の名)がいるよ」と発見し、何かに擦れた樹皮をみつけて「ここはゾウの道だよ」と教えてくれる。こうした豊かな森の知識を子どもたちはどのように身につけていくのだろうか。実は、狩猟採集民社会では、学校制度をもたないだけではなく、大人が子どもに物を教えるという態度がほとんどなく、しつけらしいしつけもみられない。子どもは年長者や大人と行動をともにしながら、森の知識や生きていくための技術を身につけていく。

 そうした狩猟採集民社会では近代的な学校教育は馴染まないものだと言われてきた。狩猟に適した乾季や野生果実の結実期には、普段暮らす村を離れて、森のなかで遊動生活をする。なかなか学校に通わない狩猟採集民に学校関係者は頭を抱えているのも事実だ。

 他方で現在、森林の開発と自然保護をめぐる政策の間で、彼らは主流社会から排除されてきた「先住民」としての立場が強調されるようになっている。

 本誌で紹介した狩猟採集民はバカ語を話すが、カメルーンでは250 以上の民族集団が存在し、それぞれに独自の言語をもつ。幼稚園、小学校から大学まで公立学校では公用語である仏語と英語が使われており、仏語が話せないと町で仕事をしたり、公的なサービスを受けることもできない。ただし、学校に通ったことがない狩猟採集民の年長者や女性のなかには仏語を話せない人が少なくない。狩猟採集民が公に発言できる機会は限られており、不利な立場を強いられてきたのも事実である。

 最近では、彼らのなかにも教育を受けて、自分たちの生活を守るために活動する人が増えてきた。ただ、変わるべきは狩猟採集民だけなのであろうか。伝統と近代といった2 項対立的な選択を迫るのではなく、私の小さな先生が目を輝かせて語る森の話に耳を傾け、彼らのよりよい生を探っていきたい。

※おすすめ本『森の小さな<ハンター>たち―狩猟採集民の子どもの民族誌』
亀井伸孝著(2010 年、京都大学学術出版会)