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【新連載】3回シリーズ(1)

 子どもと言葉と英語教育(1)

福岡女学院大学 人文学部 現代文化学科(准教授)能勢 卓

 小学校での英語の教科化が様々な方面で話題となっている現在、多くの人々が早期英語教育への関心の高まりを感じているかと思います。そこでこの4月号から始まる3 回の連載を通して、子どもと言葉の関係に着目しながら、外国語としての英語を早い時期から学習することの有効性と注意すべき点について、少し考えてみたいと思います。

 そこで今回は子どもの言語獲得について考えてみたいと思うのですが、難解な議論をするのではなく、私の前任校である京都聖母女学院短期大学の講義におきまして学生に話していた、子どもの言語獲得に関します基本的な事柄から始めたいと思います。子どもと言語獲得については児童教育に関わる多くの人々が様々な不思議を感じているのと同じように、言語学者たちも様々な疑問を抱いていました。例えばレネバーグという言語学者は、「子どもが生後18ヶ月から28 ヶ月の間に言葉を話しはじめるのは、なぜであろうか?」と疑問に思いました。しかし世界中の母親がこの時期に言葉の訓練を始めている訳はないだろうから、それならば言語を発達させる要求は、主に子どもたちの内部における成熟過程によるものだと考えたのです。そしてレネバーグは、人に生得的に備わっている言語を獲得するプログラムのおかげでおおよそ2 歳頃の時期に言語が発生すると考えたのです。この人に生まれながら備わった言語を獲得する能力というのは、チョムスキーという言語学者が提唱したもので、人には何語であれ対応できる「普遍文法」(UG)が備わっており、それ故、人は生まれながらにして「言語獲得装置」(LAD)が備わっているのだという考えがもとになっています。

 さて話が小難しくなってきましたのでポイントを整理しますと、言語学者にとっても子どもが言葉を話すということ、つまり言語を獲得するということはとても謎に満ちたことなのです。その中で言語学者たちは、子どもが喃語や二語文などを経て言語を確立していくのは、人間に備わった言語獲得装置によるのだと考えたのです。そして子どもたちは大人では考えられない物凄い吸収力で言葉を獲得していくのです。ここで不図子どもの頃はよく覚えられたのに、大人になると中々覚えられなくなるということを思い出してしまいます。実はこの子どもと大人の物覚えの差は、いわゆる脳の柔らかさに原因があると考えられます。しばしば指摘されるように、子どもの脳はとても柔らかいのです。もう少し専門的な言い方をすると、子どもの脳はその可塑性が非常に高いのです。それ故子どもたちは、大人では考えられない程の吸収力で言葉を習得していくのだと考えられます。そしてレネバーグはこの脳の可塑性から、2 歳から12 歳の間を人が言語を獲得するのに適した時期とする「臨界期仮説」というものを提唱しました。つまり言語を獲得するには「脳の可塑性が高い(= 脳が柔らかい)時期」が良いという考え方です。そして実はこの考え方は、現在の日本の早期英語教育の潮流のもとになった考え方の一つなのです。そこで次号では、子どものための英語教育という話に進んでいきたいと思います。