新連載

【新連載】3回シリーズ(2)

子どもと言葉と英語教育(2)

福岡女学院大学 人文学部 現代文化学科(准教授)能勢 卓

  前回の4 月号では、主に子どもの言語獲得ということを中心にお話をいたしました。そこで今回は子どもと言葉の習得に関係して、外国語としての英語を学習・獲得するということを中心に少し考えてみようと思います。

 さて仮に40 代の父母と二人の子ども( 中学1 年生と幼稚園年長) のいる一家が、アメリカに行くことになった場合、現地で生活を始めて1 年ほどした時にその家族の中で誰が一番英語を自由に使いこなせるようになるかを考えると、恐らく幼稚園年長の末子が最も自然な英語で周囲の人々と会話をしていると予想されます。もちろん一年もアメリカに滞在すると中学生の子どもも日常的な会話は問題なく対応できると考えられますが、学校などでなされる説明や口頭での発表においては、発話内容の難易度が高くなっているためにある種の困難を抱いている可能性はかなり高いと考えられます。それに対し幼稚園年長の子どもの場合、1年もすれば周囲の子どもたちとコミュニケーションを図る上で何らの困難もなく、ネイティブ・スピーカー並みの自然な英語で周囲の子どもたちと遊びまわっていると予想されます。この幼稚園児の英語力の著しい伸長は、前号で紹介しましたレネバーグの言う臨界期の子どもたちの脳の可塑性の高さに起因する吸収力のお陰であるとも言えるでしょう。しかしここで一つ気をつけておきたいことは、言語の発達は全般的な知的発達に伴うものですから、認知的に準備のできていない子どもに難しい文法的な説明をしても効果は期待できないということです。それよりもむしろ、子どもたちは日常の言語使用の中で発音や言葉の使い方を自然と習得していくことが望ましいとも言えるでしょう。とは言え英語圏の国で生活していないのであれば、日常的に英語を使用する環境を得ることは難しく、必然的に限られた時間の中で英語に触れる機会を確保していくことになるかと考えられます。しかしその場合でも、子どもたちが第二外国語としての英語の学びを積み重ねていく上で対話や音声面のアプローチに重きを置くことは、それなりに効果を期待できるものと考えられます。

 それでは外国語としての英語を子どもたちが学ぶ上で重要とされてきた考えを二つ紹介しますと、一つはクラッシェンという学者のイン・プット仮説で、もう一つはスウェインのアウト・プット仮説です。このイン・プット仮説のポイントは、対象となる子どもが理解出来る内容の英語に沢山触れさせて、英語の音声や文構造に慣れ親しませることを通して、
対象となる英語表現を学習・獲得させていこうというものです。そしてアウト・プット仮説の方は、このイン・プット仮説を発展させたもので、理解可能な内容に触れるだけではなく、子どもたちにいかにしてその理解可能な内容を発語させていくかということをも含めた授業を設計していこうという考え方です。そこで次号では、これまでの先行研究を踏ま
えた上で、実際に幼稚園年長の子どもたちに実施した授業を例にとりながら子どものための英語教育における授業の組み立てについて考えてみたいと思います。