新連載

【新連載】3回シリーズ(1)

第一回 : 鬼決めうた「いろはにほへと」

京都教育大学附属幼稚園長 平井恭子

 今回から 3 回シリーズで「幼児の生活に息づく わらべうた」というテーマで、お話したいと思い ます。私は十数年前から現在勤務している大学で 将来保育者をめざす学生たちに「音楽表現」の指 導をしてきましたが、その傍ら昨年の春からは、 大学の附属幼稚園で園長を兼務することとなり、 3 歳から 5 歳までの子どもたちと触れ合う時間が 多くなりました。子どもたちと触れ合う中で見え てきたのは、私の予想以上にわらべうたがしっか り子どもたちの遊びや生活の中に息づいていると いうことです。今回は「鬼決めうた」を例に、わ らべうたがもつ魅力についてお伝えしたいと思い ます。
11 月の終わり頃、園庭の大きないちょうの木の 下で 7 ~ 8 人の 5 歳児がぎゅっとかたまって何や ら相談中です。近づいてみると、今から「こおり鬼」
(鬼ごっこの一種で、鬼にタッチされた子は凍って 動けなくなるというルール)が始まるところで、 誰が鬼になるかを決めている最中でした。その方 法はまず、全員が円の中心に向かって片足を出し、 しゃがんでいる一人が「い・ろ・は・に・ほ・へ・ と…」(譜例)と唱えながら、順に靴を指さしてい きます。そして、「…ち・り・ぬ・る・を」まで指 したところで手を止め、「を」で指された子は、足 を引っ込めます。そうして、足の本数が 1 本少な くなったところで再度、「いろはにほへと…」が始 まり、同様のやり方で足の本数を減らしていき、最後に残った足の子が鬼になる、という方法でし た。この日は、「鬼が 3 人」という取り決めだった らしく、足が 3 本になった瞬間に「わーっ」と蜘 蛛の子を散らすように子どもたちは走り出し、鬼 ごっこが始まりました。 この場面を見て疑問に思ったのは、なぜ子ども たちは鬼決めの方法として「うたを唱える」という、 大人からすると回りくどい方法を選択するのかと いうことです。鬼を選ぶことのみが目的なら、機 械的にじゃんけんで決める方が断然、楽な気がし ます。しかしわざわざ譜例のようなうたを用いる のには、何か理由がありそうです。ここからは想 像ですが、この遊びでは「を」で指された足が抜 けていくたびに、自分が鬼役になる確率が高まっ ていき「誰が最後に残るんだろう」というドキド キ感があります。それは唱え役の子の手先を、音 に合わせて頷きながら真剣に見つめる子どもたち の様子から伝わってきます。「うたを唱える」こと で、仲間の気持ちが一つになり、遊びの楽しさを 盛り上げる、そんな力がわらべうたの中には隠さ れていると考えられます。ごっこ遊びの中でドロ ーンやパソコンなどが登場する現代っ子たちが、 平安後期に作られたとされる「いろはうた」の一 部を嬉々として唱えている様子から、時を経て子 どもから子どもへ歌い継がれてきたわらべうたが もつ力を改めて感じることができました。