新連載

【新連載】3回シリーズ(1)

「白でも黒でもない保育の世界(1)」

京都教育大学 幼児教育科 准教授 佐川 早季子

 「なんでも見守るべきなんでしょうか。見守ってばかりだと、遊びがバラバラで続かなくて…」
「でも保育者の思いが、子どもの自由な思いを囲い込んでいるような気もして…」

 保育を実践されている先生方がふとした瞬間にこぼす悩みやためらいに、こういう声が聞かれます。体を丸ごと投げ出して、子どもと同じ時を生きている先生方の葛藤する声として、なぜこのような悩みやためらいが出てくるのかを考えました。

 幼稚園教育要領や保育所保育指針の変遷を見る限り、現在は、大人主導の一斉保育型の活動ではなく、子ども主導・遊び中心の保育を目指している園が多いと言っていいでしょう。子ども主導・遊び中心の保育をシロだとするならば、大人主導の一斉保育型の保育はクロとでもいうような二項対立の図式が、この二つの保育方法(保育形態)を指す物言いには含まれているようにも感じます。シロかクロかの世界は、わかりやすいものであり、人はわかりやすいものに惹かれるものでもあるようです。

 2019 年12 月、イギリスの乳幼児教育研究センター(CREC)のホームページに、保育研究者であるクリス・パスカルとトニー・バートラムの対話が掲載されまし
た。その対話は、「ハイブリッドな保育方法」(Hybridpedagogy)をめぐるものでした。
「ハイブリッドな保育方法」とは何でしょうか。ハイブリッドカーが、電気とガソリンという二つの動力源を組み合わせて走る自動車であるように、ハイブリッド
な保育方法とは、異質に見える保育方法を組み合わせて行う保育と言えそうです。

なぜ、今、「ハイブリッド」という言葉を使うのでしょうか、また、異質に見える保育方法とは何を指すのでしょうか。2 人の保育研究者の対話では、次のように
語られています。

 子ども主導・遊び中心の保育と大人主導の保育には緊張関係があり、この二つの保育のあいだで「バランスの取れた保育方法」がよさそうだということについては根拠があります。でも、私たちの調査では、「バランス」というよりも「融合」「ブレンド」の方がしっくりくるということがわかりました。

 バランスというと、保育者が子どもたちに、大人主導の活動と子ども主導・遊び中心の活動を別々に提供しているように思えてしまいます。でも「ハイブリッドな保育方法」は、二つの保育方法が切れ目なく融合され、一つの活動のなかに入っているようなことを指しています。とは言っても、このときの大人主導の保育方法というのは、大人が強要したり強制したりするものではありません。

 この対話からは、大人主導か子ども主導かのどちらかにだけ重きを置いたり分けたりする議論ではなく、そのブレンドや融合とも言える保育を考える議論が、日本に限らず、他の国でも起こっていることなのだということを確認できます。

引用文献
Pascal,C. , Bertram, C. & Fisher, J. (2019)“ Considering the value of a ‘Hybrid pedagogy’ for the EYFS: Chris Pascal and Tony Bertram in dialogue with Julie Fisher.”
CREC Homepage
http://www.crec.co.uk/announcements/considering-valuehybrid-
pedagogy-eyfs?fbclid=IwAR2AAeT578nNJp9t_faapi
Q9CW8DKD_5qWYy9DLgvYbncYZmY1omRw2WJ8k
(2020 年10 月30 日閲覧)