新連載

【新連載】3回シリーズ(3)

子育ては「うまくはがれるように離す事」(3)

Joyit 代表 臨床心理士 井上知子

 では、最初の回で述べた例、B 子ちゃんに「静かにして」と何回も言われて、歌う声を小さくしたにもかかわらず更に要求されたため、ついに蹴っ飛ばした事件のA 君への対処はどうしましょう?色々な対処法があると思います。ここでは案の一つを述べてみます。

完全解では到底ありませんが、少なくともA 君の判断力を付けられるかもしれないと思います。親でも先生でもいいのですが、大人の振る舞い方を考えたいのです。多分、女の子が泣き出し「A 君が蹴った!」と訴えたところから事件は発覚です。大人から見れば小さな事件ですが、その子たちには生きている事そのものの大きな事件です。そのプロセスを子どもがいかに体験するかは、その子達の育ちに影響するのではないかと私は考えています。ここでは先生(または親)とA君との会話を想像で書いてみます。

 (先生がそれぞれの気持ちを汲みながら話せば、B子ちゃんと3 人でも、よく似た形で出来ると思います)
先生「あら、A 君。B 子ちゃんを蹴ったの?どういう事でそうなったか教えてくれる?」(一方的に怒られないと思った子供はスムーズに事実を話す可能性があります。)
先生「そうか~。A 君、よっぽど歌いたかったんだね?」
A 君「うん」
先生「その時B 子ちゃんは何してたの?」
A 君「絵本見てた」
先生「そうか~。だから声を小さくして協力したんだね」
A 君「うん、そう」
先生「でも、同じような事を何回も繰り返したんだね。…今その状況を思い出してね、A 君はどうすればよかったと思う?」
A 君「歌いたいから、B 子ちゃんに他のとこへ行って読んでよ、って言えばよかった」
先生「他のやりかたもある?」
A 君「他にはない」
先生「そうか~。…A 君が他の所へ行って歌う、という手もあるかなあ?」
A 君「それ、したくない」
先生「そうか~。すると、A 君は歌いたい、B 子ちゃんは静かに本を読みたい。これはけんかになるね~。どうしようか?」
A 君「う~ん、…僕、他の所に行って歌ってもいい」
先生「そうか、すると蹴っ飛ばさなくても歌えてそれはそれで気持ちいいかな~」
A 君「うん、多分ね」
先生「蹴ったことはどう思う?」
A 君「蹴らなくても良かった。B 子ちゃんは本読みたいんだ。でも僕歌いたい。どうしようって、言ってもよかった。」
先生「そうだね~。歌いたかったことは置いといて、蹴ったことは謝る?」
A 君「うん。謝る」
 こううまくいくかどうかは不明ですが、少なくとも私の今までの経験では、相手の感情を大切にして、行動をそのまま受け入れて話を聞くと、相手の気持ちが静まっていき、客観的に状況を理解しはじめ、小さな子でもそれなりの結論を出してきます。上記の対処を可能にしているのは、「反映的な聴き方」と呼ばれる相手の感情を映す聴き方と、「問題解決の模索」という手法です。よく、「相手に寄り添って」と言いますが、まさにそれが必要だと思います。大人が言葉で自立を強制することなく、プロセスを大切にしながら感情に寄り添い、子どもがした経験を子どもに考えてもらうように沿っていく事で、子どもが判断の力を蓄えていき、大人から自然にはがれるように自立していけたら、と願っています。