新連載

【新連載】2回シリーズ(1)

保育者の働き方改革の必要性

佛教大学教育学部教育学科 教授 佛教大学附属幼稚園 園長   佐藤 和順  

  働き方改革関連法が施行され,その必要性やワーク・ライフ・バランスの実現が保育現場でも課題となっています。しかし,実際には「毎日残業」「事務仕事が増えている」「ノンコンタクトタイムなんてとっても無理」という声が多く聞かれます。一方で,実際に働き方改革に取り組んで,一定の成果を出している園もあります。どこにその違いがあるのでしょうか。

 保育者は長時間労働になりやすい傾向があります。「子どもの最善の利益」「子どもファースト」の理念のもと,子どものことを中心に考えることは大切です。しかし,生産性などで判断できないためにどこまでやればよいのかが見えにくいことも事実です。そのために保育者が長時間労働を強いられ,持ち帰りの作業があったりするのが現実です。保育者の就業継続の困難感や労働環境が低下するのであれば,そのことが子どもの育ちの保障に支障をきたすことも認識しておかなければなりません。

 安易な残業依存や仕事の持ち帰り体質が保育の現場にある背景には,必要な時にはいつでも残業や持ち帰りができる仕事中心の保育者が多く存在していることがあります。そのような働き方を前提とすると,働く時間や場所に制約があったり,仕事も仕事以外の生活も大事にしたいと考える人材活用が困難となります。短時間勤務,パートを希望する保育者,またフルタイム勤務でも残業免除で働きたい保育者,さらには仕事だけではなく仕事以外の生活を大事にする価値観を持った保育者などが働きにくい職場環境であれば,保育者不足は一層深刻化し,正規の保育者の負担が一層増加することになります。このことは新人保育者の就業継続にも影響を及ぼすことでしょう。

もちろん,仕事が好きなことは悪いことではありません。しかし,仕事が好きでも,仕事のみの生活をしている保育者は,視野や人間関係が仕事に偏ることで成長機会が制約される懸念もあります。このことは,保育者の成長を望む園にとっても課題となります。

 長時間労働や仕事の持ち帰りに疲れて,就業継続が困難になる。このような悪循環を断つためには,「今までそうやってきた」,「みんなそうしている」ではなく,自律的な時間管理のもとでの,自分で考える時間意識の高い働き方への転換が必要となるのです。企業と同様に園においても「仕事総量」を所与としてすべての業務が完了するまで労働サービスを投入し続けるような働き方ではなく,「時間総量」を所与として,その時間で最大の不可価値を生み出すことが求められるのです。保育はどこまでやっても,完ぺきということはないのではないでしょうか。そのことが保育の質の向上につながることも事実ですが,終わりがないということも働き方を考える上では難しい課題です。一定の質を保つことを前提として,ある程度のところで切り上げるという態度も今後は必要となるでしょう。