新連載

【新連載】3 回シリーズ(1)

「京都の森林のお話をしましょう」

京都森林インストラクター会 会長 篠部 幸雄

 今京都市の中心に立って見ると、東北西の三方が山の緑に囲まれており、大きな都会ではあるけれど京都らしさを醸しだす要素の一つとなっています。緑は目にも優しく、心を落ち着かせてくれるものとなっています。また東山山麓には大きな寺や神社も多く、その風景林として機能しています。また森林は、くわしい定義は別として、二酸化炭素を吸収して地球温暖化防止に貢献すると考えられているのはご存知の通りです。

 江戸時代の浮世絵などを見てみても、東山はあまり樹木の生えていないところがありました。半世紀少し前までは森林は住いや燃料を供給するために広く継続的に利用されていたのです。それが、戦後の木材不足を解決するための拡大造林、東京オリンピックの頃をターニングポイントとする化石燃料を主体とする燃料革命などにより、全国の森林は天然林・人工林とも着実に蓄積を増やしてきています。

 上流の森林が荒れると、災害特に水害に見舞われることが増えてきます。京都では平安遷都以来、水害が繰り返されています。平安時代、白河法皇は意のままにならないものの筆頭に賀茂川の水を挙げています。これとても森林荒廃が原因の一つであったかもしれません。明治時代の地図で、鴨川の高野川合流地点上流が砂利におおわれて水流が隠れているのも、その影響を感じさせます。

 昭和10 年、京都の中心街でも大水害が起こっています。集中豪雨により、鴨川をはじめ各地で溢水が発生しました。前年の室戸台風による山地の荒廃と倒木の放置が、その要因であると指摘されています。

 最近では、3年前台風21 号が来襲、強烈な南風により広範囲の倒木をもたらしました。

 森林の土壌には樹木の根がはりめぐらされていることや土壌生物によって細かい隙間が多くあります。それが雨を吸収し、時間をかけてゆっくり流していくことにより、晴れた日も川の水は流れています。ご存知の方は少ないのですが、鹿ケ谷の上流に楼門の滝という立派な滝があり、晴れが続いても滝が枯れることはまずありません。

 また木の根が土壌の下の岩盤まで届き土石をしっかり抱えていることや、落ち葉や草が表面を覆っていることにより、雨の日に土砂が流れることが少なくなります。雨の日でも川の水が茶色になっていなければ、上流の森林は比較的健全に保たれているといえるでしょう。

 最後に、ある外国出身の経営者の言葉を添えておきます。「自然に近いところに身を置くと、いつもやすらぎとエネルギーが得られると感じています。自然とのつながりを取り戻し、生命のリズムを感じる」。この自然とはすなわち森林のあるところに他なりません。

 是非近くの森林に出かけ、自然を感じてください。いろんな発見・驚きに満ちあふれていることと思います。