新連載

【新連載】3 回シリーズ(1)

「ポジティブに」

京都光華女子大学 こども教育学部こども教育学科 永本 多紀子

 タイトルから,筆者は「ポジティブな人」と思われるかもしれませんが,実は全く逆でネガティブな人です。では何故,このようなタイトルをつけたのかということについて3 回に渡ってお話をしていきたいと思います。よろしくお願いします。

 幼稚園を定年退職し,22 年度で現職に就いて5 年目を迎えました。私の人生設計の中に大学に勤めるという選択肢は全くありませんでした。私は従姉の影響もあって,小学生の頃から幼稚園の先生か保育士(当時は保母さんでしたが)になりたいと思っていました。そして念願叶って,幼稚園の先生として約40 年間を過ごしました。

 40 年間は,とても長い年月ですが,あっという間であったようにも思います。周りの先生方を見ると,絵画や音楽などのスペシャリストというような方がたくさんいらっしゃいました。私は特に取り柄のないごくごく普通の保育者で,そんな自分にあまり自信がもてませんでした。

 ある時,大きな大会のピアノ伴奏を頼まれました。私は1 オクターブが届くか届かないかの小さな手です。音楽は大好きでしたが,ピアノの演奏自体は得意という部類には入りません。私にできるのだろうかととても迷い,すぐには返事ができませんでしたが,「せっかく声をかけていただいたのだから」と引き受けることにしました。ところが予想以上に伴奏が難しく,ご指導いただくことになっていた日に,全く間に合いませんでした。  
 
 その後,猛練習を重ね,全体の歌唱練習の日には何とか伴奏をすることができました。「あの日はどうなるかと心配したけど,よく頑張って弾けるようになったね」とご指導の先生からお褒めの言葉をいただきました。ホッとすると同時に「頑張ってよかった」と思えた瞬間でした。「自分にできることを一生懸命やっていくことが大事だな」と思えたのは,このことがきっかけになったといっても過言ではありません。やり切った達成感を味わうことができたのです。声をかけてもらうことはチャンスであると考え,やらなくては,自分の性格からいつも私は避けて通る道を選ぶだろうと思ったからでした。

 「自分に出来ることは何だろう」と考えた時に「子どもたちに寄り添う」ということでした。「しっかり寄り添おう」と思い,登園拒否の子どもと毎朝,園庭の真ん中で格闘をしたこともありました。「帰りたい!」と泣きながら暴れる子どもの体はもちろん,心も抱きとめて,必死に向き合うことでようやく心を開いて,私に体を預けてくれた時,とても嬉しさと安ど感で一杯になりました。気持ちが通じ合うことは,こんなに嬉しいことなんだと改めて感じることができました。そのお子さんとはその後,強い信頼関係を結べたと実感しています。

 自分自身の気持ちがポジティブになることで,子どもたちとの向き合い方が変わってくると思いますし,子どもたちへの影響も大きいと思います。すぐにネガティブになりそうな自分に常に言い聞かせて,自分の気持ちを奮い立てていました。