新連載

3回シリーズ(1)【新連載】肝心なときの傘

p style=”text-align:right;”>滋賀大学教職大学院特任教授(元京都市立公立小学校校長) 岸田 蘭子

 子育て講座の講演をさせていただくときに、いつも宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」と「千と千尋の神隠し」に登場する親子の話を例にさせていただいています。「魔女の宅急便」の主人公キキが旅立とうとするときに、父と母は帚とラジオだけを持たせて背中を押すように暖かく見守ります。

一方「千と千尋の神隠し」では千尋は新しい土地に移る心の準備ができないまま引っ越すことになります。友人とも別れて不満と不安いっぱいの彼女は「早くしなさい」と車の後部座席へ乗るように母にせかされます。そして車を降りてからも、父母はさっさと道を歩きトンネルの方へ向かいます。「待って、待って」と千尋が叫んでも、振り返ることもなく置いていきます。真逆の象徴的な親子関係です。
 子どもは弱い立場です。親にこうしてほしいと思っていても、自分の思い通りにしてくれるわけでもないし、どうしてほしいのかもよくわからないのが子どもだからです。そこで、傘の話に例えて、子どもとの関わりを考えてみようと思います。「どうでもいいときに持たされるほど邪魔な傘はない」し「肝心なときに出てくる傘ほどうれしいものはない」という話です。親はどうでもいい時に傘を持たせていないか、肝心な時に役に立つ傘を持たせているか、このイメージを自分の子育てにあてはめるとはっと気づく親御さんも多いようです。

 次に傘をたとえに、しつけの話もしておきます。傘のありがたみがわかると、傘の扱いもうまくなります。傘をさしたりすぼめたり自分でできるようにさせます。私は校長をしていたときに毎朝、玄関で子どもたちを迎えていました。天気予報で夕方から雨がふりそうな日には傘を持たせてもらう子が多く、親御さんの愛情を感じました。そして雨の日も雪の日も子どもは傘をさして登校してきます。その子に合ったサイズの傘かどうか見ていると、もう小学生なのに幼児用の小さな傘でずぶぬれになっていたり、大人用の使い捨てのようなビニル傘の骨が折れて泣きそうになっている光景も見受けられたりします。子どもはすぐに大きくなるので、靴や傘は年齢にあったものを持たせてほしいと思います。そして、しずくが人にかからないように、道を歩くとき、電車やバスの乗ったとき、人の家や公共の場所での傘の置き方、階段での無配慮な傘の持ち方などきちんと教えておかなければなりません。こういったことは、実際に雨の日に傘をさして一緒に歩いてみないとわからないことばかりです。

 急いで傘をさして自転車に乗ったり、車に乗せてしまったりするのではなく、できるだけ時間がかかっても雨の日も一緒に歩いてみてほしいと思います。雨の日の登校や登園は時間もかかり、危険もいっぱいです。だからこそ自分の命を守るために身に付けておかなくてはならないのです。雨の日は、子どもの送迎があるから職場でも出勤時刻や退出時刻に余裕をもたせていただくようなお金のかからない子育て支援があってもよいでしょう。家計だけでなく時計にもやさしい子育て支援は子どもを真に健やかに成長させると思いますがいかがでしょうか。